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残業削減に「事前承認制度」を! メンタルヘルスの改善効果も

長時間労働削減のための施策の1つに、残業の事前承認制度があります。本人による事前申請に対して上司が承認した場合にのみ残業を行うという仕組みで、残業時間を減少するとともに、メンタルヘルスの改善効果も認められています。今回はそんな残業事前承認制度について、得られる効果、導入する場合の注意点について解説します。

事前承認制度とは

昨今、過剰な長時間残業は多くの社員から忌避される傾向にあります。様々な企業で社員に長時間の残業を強制したり、その分の残業代を支払わなかったり、さらにはこうした事実を隠蔽している実態が露見して、厳しく糾弾されるようになりました。こうしたなか、ホワイトな企業イメージを得ることが重要視されるようになり、ブラックな労働環境にしないために社員の残業を管理し削減する試みも見られます。事前承認制度もそのような戦略の内の1種類に数えられます。社員が元々の労働時間を超えて仕事をする場合、その残業の可否と長さについて上司か担当の許可を得る必要がある、等と規定されます。

メリット

  • 無駄な労働時間と給与を削減
    残業事前承認制度を採用した場合、サービス残業等の根絶の他にも、不必要な残業を防止することができます。残業をするのに合理的な理由が必要となるので、残業代目当ての残業や、人を待って愛想でこなす残業、やる気が無いために仕事が後ろ倒しになって生じる残業など、非効率的で無駄な残業を減少させられます。また、仕事に期限が設けられるため、より意欲的に取り組むことが期待できます。
  • 社員のメンタルヘルス改善
    労働が適度な量に制限されていることは、社員のメンタルヘルスへの好影響も見込めます。厚生労働省により公表された平成29年版過労死等防止対策白書では、労働時間の正確な把握が残業時間を減少させると分析されています。より具体的には、労働時間を正確に把握しかつその分の給与を全額支給することや、残業を行う場合に上司や担当が残業を承認することは、残業時間の減少とメンタルヘルスの良好化などに繋がること、残業時間を0時間に近づけることは、メンタルヘルスの良好化などに繋がること等が記載されています。残業承認制度はこれらの実現を可能にする制度であり、社員のメンタルヘルスの改善推進に繋がると言えます。

注意点

残業事前承認制度を導入する際に気を払わなければならない点として、黙示的指示という概念があります。もし残業の命令や承認を明示的に行っていなくても、現実的に考えて労働時間内で終わらない量の仕事が要請されていた場合、社員が行った時間外労働は残業時間とみなされます。例えば、仕事の納期等が元々の労働時間内では守れないケース、企業側が残業の存在を知りつつ放置もしくは黙認していたケースなどが該当します。

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無断で残業した社員にその分の給与の支払いは義務?

企業によっては、無断での残業には給与を支払わないと予め規定していることがあります。とは言っても、仕事をするつもりは無かったのに突然プロジェクトでの不具合が生じて時間外労働をしてしまった、といったことも起こり得ます。この様な場合、残業代は支払われるべきでしょうか?実は支払う義務が生じることもあるのです。労働時間とは企業等の指揮命令下にある時間のことを指し、企業のためにやむを得ず時間外労働をしている場合は残業が生じたと見なされるためです。

無断での時間外労働が残業と見なされなかったケース

社員が元々の労働時間を超えて仕事をした分の給与支払いを認めるか認めないか、という問題については今まで様々な判例が存在します。残業代支払いが命じられる場合には黙示的指示が働いていたと判断されるケースが多く、その際、企業側が予め申請の無い時間外労働には給与を支払わないと規定していたとしても、支払いの義務は免れません。では逆に、どの様な時間外労働であれば残業と見なされないのでしょうか。裁判において企業側の言い分が部分的もしくは全面的に認められた、つまり労働時間外の仕事であったが支払いが必要とは認められなかったケースを幾つか紹介します。

  • 吉田興業事件(平成2年)
    こちらは、ビルの管理業等を行う企業で働く社員が、業務委託されていた水資源開発公団の出張所に住み込みで管理や清掃等の仕事を行っていたことについて、時間外労働や休日を返上しての労働であると主張し、給与の割り増しを請求したケースです。これについて裁判所の判断は、公団職員の終業後の戸締まり等の仕事を行うために公団職員が退出するまで待機している時間は手待ち時間として労働時間に含めて考えるべきであるとしながら、このケースでは公団職員の退出後に行う業務に要する時間は非常に短く、かつ、いつその業務を行うかはその社員の自由であることから、社員が通常の労働時間の前後に行った戸締りなどの業務は企業や公団の指示によるものではなく、その社員の自発的な行為というべきであると判断し、残業代の支払いは不要と結論しました。
  • ニッコクトラスト事件(平成18年)
    こちらは、日本銀行の寮の管理や調理等の仕事を住み込みで行っていた社員が、労働日においては元々の労働時間を超えて働き、労働日以外にも長時間にわたり仕事をしたとしてその分の割増給与を請求したケースです。これについて裁判所では、日本銀行がその社員に委託した仕事の業務量は労働時間内で充分に処理できるものであったと断じ、その社員は自発的な判断によって企業側から委託された仕事や指示の範囲を超えて働いたものと結論したため、企業側の残業代支払いの義務は認められませんでした。

 

導入に際して

残業が建前の上ではないものとされていても事実上は存在すると認められれば、黙示的指示が働いているとして企業側が支払いの義務を負うことになります。制度が形骸化し、申請されない残業が横行することは避けなければなりません。したがって、社員が残業しないように上司や担当が注意を怠らず、どうしても残業が必要な際には毎回の申請を徹底させると共に、日頃から社員に振り割る業務を適度な量に留めることが重要と言えます。

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まとめ

残業事前承認制度は、不必要な残業の削減のみならず、社員の仕事の効率化やメンタルヘルス改善にもつながると考えられています。導入すればそれなりの手間や管理が求められますが、非効率な残業とその分の給与の支払いを黙認するよりは生産的ですから、必要以上の残業が横行している現状の改善を望む企業は、1つの手段として検討してみてはいかがでしょうか。

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