一般的にパワハラとは、職業上の地位が高い者が自らの立場を利用して行う威圧的な言動や嫌がらせを指します。しかし近年ではその逆の構造である、部下から上司へのパワハラも増加しており、「逆パワハラ」とも呼ばれています。このような部下からのパワハラに悩む上司の中には、うつなどの精神疾患になり休職する人もいるため企業側の対応が必要です。今回は部下から上司へのパワハラの成立条件や実際の事例、対処法を解説します。
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部下からのパワハラとは、部下から上司に対して行われるパワーハラスメントを指します。パワハラと聞くと上司による行為のイメージがありますが、部下からのパワハラも軽視できません。厚生労働省のパワーハラスメントの定義でも、部下による言動もパワハラになると明記しています。
部下からのパワハラの具体例としては、以下が挙げられます。
当然ながら、上司と部下という関係であっても、相手に対しては基本的な礼儀や思いやりが必要です。しかし、現状は部下からのパワハラに悩む上司が増加しており、企業では早急な対策が求められています。
部下からのパワハラが増加している要因はいくつか考えられます。まず、従来のパワハラが問題視されたため、上司が萎縮していることです。自分の言動がパワハラに該当するのではないかと弱気な対応が続いてしまい、優秀な部下の態度が大きくなってしまうのです。
また、360度評価の導入などの影響もあり、部下が強気に出やすい環境が増えていることも挙げられます。部下からの評価が気になり、機嫌を取ったり指導を後回しにしたりする上司は少なくありません。
このような背景から、上司と部下のそれぞれのパワハラに対する認識や考え方に、改善が必要な企業が増加しています。
パワハラの定義として、次の3つの条件にすべて当てはまるものとされています。部下からのパワハラにおいて、それぞれの条件がどのように該当するのか見ていきましょう。
上司に対して悪口を言ったり、根拠のない嘘やでたらめを述べたりする行為はパワハラに該当する場合があります。例えば、「上司の仕事が遅くて困っている」「無能な上司を変えて欲しい」などといった言葉は誹謗中傷です。なかには、ほかの従業員やお客様に聞こえるように、わざと大きな声で上司に対し誹謗中傷を行うケースもあります。部下から上司に対する心のない言葉が影響して、上司が精神疾患を患ってしまう事例も珍しくありません。
問題となる主な言葉のカテゴリーは以下の通りです。
部下の集団が上司に対して行うパワハラも発生しています。例えば、以下のような事例が挙げられます。
部下は上司よりも立場的には下ですが、集団化すると状況は一変します。「気に入らない」「嫌い」といった理由から部下が集団で上司に対して嫌がらせを行えば、悪質なパワハラに発展しかねません。同調圧力などから上司への嫌がらせに参加してしまうケースもあり、解決策を模索する職場は増えています。
何もしていないからといってパワハラが成立しないとは限りません。無視という行為も、上司に大きなダメージを負わせるパワハラに該当する場合があります。部下から上司に対する無視に該当する行為としては、以下のような例が挙げられます。
このように、無視という行為も強力な意思表示です。誹謗中傷はしていなくても、無視は相手を大きく傷つけてしまうことにつながります。
まずは、部下と話し合って問題解決を目指しましょう。双方の理解不足がパワハラの原因がとなっていることも考えられます。そのため、上司として部下と話し合いの機会を設定し、相手が何を考えているのかをよく聴き取ることが肝要です。加えて、自分の考えや意見を丁寧に説明する姿勢も大切です。パワハラを行ってしまった部下の気持ちに歩み寄り、お互いの問題点を解決できるように行動へ反映させましょう。
問題を自分だけで抱え込まずに、自分の上司や専門家などに相談しましょう。上司や人事部門がパワハラの内容を審査して問題として認められれば、部下に対して指導などの対処が期待できます。具体的には、企業側から部下に直接注意して反省を促したり、社内で配置転換を実施したりといった措置などです。パワハラが悪質であれば、懲戒解雇といった重い処分も検討されます。もし、企業に相談しても解決が望めない場合には、労働局や弁護士に協力を仰ぐ方法も検討すべきでしょう。
部下からのパワハラが訴訟や労働審判などに発展してしまった場合、証拠資料の有無が重要です。口頭で自分の記憶からパワハラの事実を話しても、言ったか言わないかの水掛け論になってしまうケースが珍しくありません。主張を裏付ける証拠資料を準備する方法としては、主に以下の手段が挙げられます。
書面は時系列表などを作成し、指導内容や当該従業員の態度などを記録しましょう。作成日時や作成者の署名を記載して、正式な書類にしておくことがポイントです。
2020年6月1日にパワハラ防止法が施行され、職場でのパワハラ防止措置が義務化されました。企業はパワハラに対して見て見ぬ振りをするのではなく、対策を実施して発生を抑止しなければなりません。具体的なパワハラ防止措置として考えられる対策は以下の通りです。
このように、まずは職場におけるパワハラ防止の方針を明確化して、従業員への周知と啓発からスタートしましょう。
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パワハラは企業で働く中で耳にする機会が多い言葉で、部下であっても心ない言動が原因で加害者となってしまう恐れがあります。特に上司が部下からパワハラを受けている場合、相談するのは恥ずかしいと一人で抱え込んでしまうケースは少なくありません。
部下からのパワハラは業務に支障が生じるだけでなく、上司自身の健康への影響も甚大です。誰もが働きやすい職場環境を実現するためにも、パワハラを防止するための取り組みを始めましょう。
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