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人事権とは?人事権の濫用を防止するためのポイント

人事権とは、企業や組織において、従業員の採用、配置、評価、昇進、解雇など、人事に関する決定を行う権限を指します。人事権の行使は使用者の裁量的判断で決まるため、権力の濫用につながる可能性があります。従業員との信頼関係を損なわないためにも、透明性を持って人事権を行使することが重要です。また、人事の決定に関与するメンバーを多様化し、さまざまな視点を取り入れ判断の客観性を高めることも、人事権の濫用の防止につながります。

人事権とは?

人事に関する決定を行う権限

人事権とは、企業や組織において、人事に関する決定を行う権限です。例えば、従業員の採用や配置、人事評価、昇格・降格、異動、解雇などを行う権限が該当します。人事権は、法的な概念ではありません。しかし、企業による人事権の濫用を防止するため、労働基準法や労働契約法といった労働関係法規、労使間で締結する労使協定や労働協約などにより、厳しい規制を受けます。無条件に行使できる権利ではありませんが、企業が事業活動を営む上では非常に重要な権利です。

人事権の定義

冒頭でも述べたとおり、人事権は狭義で以下のような命令を発出する権限を指します。

  • 採用
  • 配置
  • 異動
  • 出向
  • 評価
  • 昇給、減給
  • 昇格、降格
  • 休職
  • 解雇

ようするに、企業や組織において、労働者の地位や処遇の変動に関する、使用者の決定権が人事権です。広義では、企業が労働者を構成員として受け入れ、活用し、組織から放出する一切の権限などと言われています。ただし、人事権は無制限に認められているわけでありません。法律や判例などにより、さまざまな規制を受けているため、行使には十分注意が必要です。

人事権の適用範囲

繰り返しになりますが、人事権は無制限に認められる権利ではありません。いくつかの局面では、法律や労働契約によって規制を受けるため、行使には注意が必要です。具体的には、以下に挙げるような制限を受けます。

  • 権利濫用法理による制限
  • 法律による制限
  • 労働契約による制限

権利濫用法理とは、権利を持っている者であっても、権利の行使が他者に著しい損害を与える、あるいは社会通念上の限度を超えていると判断される場合は、権利の行使が認められないという法理です。該当するケースは次章で詳しく解説しますが、権利濫用に当たる命令は無効となります。法律による制限は、解雇の法規制や不当労働行為の禁止など、労働関係法規による制限です。労働契約による制限は、労働契約に基づく就業規則や労使協定・労働協約の範囲を超えて人事権を行使できない、という制限を指します。

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人事権の濫用に該当するケース

業務上の必要性がない

業務上の必要性や妥当性がない命令は、人事権の濫用と見なされる可能性があります。例えば過去の判例では、システム技術者として採用した従業員を、他の従業員とのトラブルを理由に倉庫係に配置転換したという事例は、当該従業員の希望に配慮せず、十分な説明責任を果たしたとも言えないことから、違法と判断されました。ただし、業務上の必要性については比較的広い裁量権が認められており、定期的な人事異動やジョブローテーションの一環として配置転換をするようなケースでも、業務上の必要性が認められやすいようです。

従業員が被る不利益が著しく大きい

社会通念と照らし合わせて、従業員が被る不利益が著しく大きいような命令は、人事権の濫用に当たる可能性があります。過去の判例では、神奈川県から広島県へ転勤を命じられ、異動命令を拒否したことから即座に解雇された事例は、検討する時間がほしいという従業員の希望を無視し、即時解雇に踏み切った行為に妥当性はないことから、違法と判断されました。同様に、例えば家族の介護を担っている従業員に海外転勤を強制するような転勤命令も、被る不利益があまりに大きいため無効と判断されやすいようです。

不当な目的や動機がある

不当な目的や動機に基づく人事命令も、人事権の濫用に該当します。具体的には、企業や組織の意にそぐわない従業員を退職に追い込む目的で、嫌がらせのような配置転換や人事異動を命じる行為は、歴然とした権利の濫用です。例えば過去の判例では、介護施設で働く従業員が退職を暗に示唆するような閑職と、監視カメラが設置された異様な執務室に配置転換された事例は、精神的苦痛を与え退職に追い込むという不当な目的や動機によるものと判断され、配転命令は無効とされました。人事権は非常に強い権限でもあるため、法律を守るべき企業がこのような行為を行うことは、違法と判断されるのも当然です。

    

人事権の濫用を防止するポイント

労使間の信頼関係を構築する

人事権は労働者の地位や処遇、生活、収入、人生などに影響をおよぼす可能性があり、特に公正性が求められる重要な権限です。必要性や妥当性のない権利行使は、ハラスメントにつながる可能性もあります。例えば、不本意な降格や異動を恐れて、人事権を持った管理職に対して萎縮してしまうケースも少なくありません。人事権を行使して命令を下す場合は、権力で従業員を動かそうとするのではなく、信頼によって自発的に動くように仕向けるのがポイントです。そのためには、使用者と労働者という関係にとらわれず、日頃から密にコミュニケーションをとって信頼関係の構築に努めましょう。

従業員に対する説明責任を果たす

管理職が権力を持ちすぎると、部下に対する指揮命令や従業員の処遇が曖昧になりがちです。不透明な権力の行使は、権利濫用の温床になる恐れがあります。人事権をはじめとした権利の濫用を防止するには、従業員に対する説明責任を果たすことが重要です。例えば、「なぜこのような評価になったのか」「なぜ異動や配置転換が必要なのか」「なぜ減給や降格に至ったのか」などについて、十分な説明が求められます。不透明な権力行使を防ぎ、従業員の納得を得るには、丁寧な説明を心掛けましょう。

組織や人事評価制度を可視化する

人事権の濫用を防止するには、組織や人事評価制度を可視化することも大切です。上司一人の裁量に委ねるのではなく、多様なメンバーが人事の決定に関与する組織を構築し、さまざまな視点を取り入れて判断の客観性を高めることも、権利濫用の防止につながります。また、近年では人事評価にツールを導入して、システム化する企業も増えてきました。曖昧な組織や人事評価は権利濫用の温床となり、従業員の納得も得られません。人事評価システムなどで組織や制度を可視化し、客観的な権利行使を心掛けましょう。

まとめ

今回は人事権について解説しました。人事権とは、企業や組織において、人事に関する決定を行う権限です。人事権は従業員の地位や処遇、生活、収入、人生などに影響をおよぼす可能性があることから、公正性が求められます。人事権の濫用を防止するには、信頼関係の構築、丁寧な説明、組織・人事評価制度の可視化などが重要です。

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