平成27年より、正社員との差別的取り扱いを禁ずるなど、パートタイム労働法においていくつかの改正がされています。そのため実際にアルバイト・パートを雇用する際には、いくつかの注意するべき点があり、本記事では最低賃金や給与制度、扶養控除の範囲、休暇制度について解説します。
最低賃金
最低賃金とは、最低賃金法に基づき国が定める最低限度の賃金です。使用者はこの額以上の賃金を労働者に対して支払わなくてはなりません。最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。地域最低賃金とは都道府県ごとに定められた最低賃金で、その都道府県内の事業所で働くすべての労働者と使用者に対して適用されます。もう一方の特定最低賃金は、地域最低賃金よりも高い水準の最低賃金を設定する必要があると行政に認められた産業に定められる最低賃金で、その産業に従事する労働者及び使用者に適用されます。2つの最低賃金のうち、より高い水準のものが最終的に適用される額です。
最低賃金を下回る賃金を支払うことは原則認められません。最低賃金額未満の賃金の契約は、たとえ労働者と使用者の間で合意があったとしても認められず、その契約は最低賃金額と同額の賃金を支払うものとされます。
最低賃金に満たない額の賃金を支払った場合、最低賃金額との差額を支払うことが義務付けられています。また、最低賃金額以上の賃金を支払わない使用者には、最低賃金法および労働基準法に則り罰則が科せられます。ただし、都道府県庁の労働局長の許可を受けることで特例として最低賃金の減額ができます。特例が適用されるのは以下のような場合です。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い場合
- 試しの使用期間中の場合
- 認定職業訓練を受けていて、厚生労働省令で定められている場合
- 軽易な業務に従事する場合
- 断続的労働に従事する場合
関連記事:
・しっかりチェック!最低賃金制度
・【平成30年1月〜】改正職業安定法により求人ルールが変更されます
給与制度
基本的に正社員を雇用する場合と給与制度は同じですが、アルバイト・パートを雇用する上でいくつか注意しなくてはならない点もあります。
パートタイム労働法によると、事業主は、正社員との均衡を考慮しつつ、雇用するアルバイト・パートの職務の内容や成果、意欲、能力、経験等を考慮した上で労働への報酬としての賃金を決定するように努力しなくてはいけません(もちろん上述の最低賃金を下回る額を設定することはできません)。このことから、正社員との間で賃金の差別化を図ることはできますが、以下の事項がいずれも当てはまる場合は、正社員とアルバイト・パートを差別することが禁じられています。
- 職務内容が正社員と同じである
- 人事異動の有無や範囲が正社員と同じである
- 契約期間が実質的に無期契約となっている
なお、これらに当てはまるアルバイト・パートに対して、賃金の面だけでなく、職場での教育訓練の実施や福利厚生施設の利用などの待遇で正社員と差別することは禁止されています。
また、アルバイト・パートの雇用形態として、雇用期間が短く期限があったり、月払いではなく日払いあるいは週払いで給与を支払ったりすることもあります。こうした細かい支払方法や雇用期間については、労働契約を結ぶ際に明示し、書面に残すことが労働基準法により定められています。
関連記事:
・徹底解説!パートタイム労働法
扶養控除の範囲
扶養控除は、所得税、住民税、社会保険で、それぞれ異なる所得額を基準に制度が成り立っています。順に紹介していきましょう。
所得税の扶養控除
扶養控除の対象となる親族が納税者にいる場合、納税者は所得税を納税するにあたって、一定の金額の所得控除を受けることができます。扶養控除の対象となるためには、その人の合計所得金額が48万円以下であるか、または給与のみの所得で103万円以下であることが必要です。控除額は扶養控除対象である親族の立場によって異なり、配偶者は最大38万円、19歳以上23歳未満の家族は63万円、その他の16歳以上の家族は38万円となります。なお、配偶者控除額は納税者の合計所得金額によって変動することがあります。また、配偶者の給与による所得が103万円から141万円の場合は、配偶者特別控除制度により最大で38万円の控除がなされます。
住民税の扶養控除
住民税は、合計所得金額が35万円以下であるか、給与だけの収入で所得が100万円以下であれば、非課税限度額以下の所得という扱いになり課税対象になりません。収入がこれ以上の額となると住民税がかかるようになります。ただし、100万円以下の給与だけの所得であっても、地域によっては課税対象となる場合があります。これは住民税が所得に応じて変化する「所得割」と、居住地域によって定められている一定額の「均等割」からなり、均等割についての非課税限度額は地域によって異なるためです。
また、合計所得金額が38万円を超えるか、給与だけの収入で所得が103万円を超える場合、扶養家族ではなくなるため、元の納税者の所得からの扶養控除額は1人分減額されることになります。
社会保険の扶養控除
社会保険は、給与による年収が130万円未満であれば原則として被扶養保険者として扱われることになります。ただし、従業員501人以上の会社で週20時間以上働く場合など一部の例外に当てはまる場合は、その年収額に関わらず被扶養保険者から外れなくてはなりません。
休暇制度
アルバイト・パートにも有給休暇制度があります。以下の要件を満たす労働者には有給休暇を付与しなくてはなりません。
- 雇い入れの日から6か月経過していること
- その期間の全労働日の8割以上出勤したこと
有給休暇の日数は、アルバイト・パートの労働時間や雇い入れ日からの継続勤務期間などによって異なります。例えばアルバイト・パートであっても、
- 週所定労働時間が30時間以上
- 所定労働日数が週5日以上
- 1年間の所定労働日数が217日以上
のいずれかに当てはまる場合は一般の労働者と同様と見なされ、下表のように有給休暇が与えられます。
雇入れからの継続勤務期間 | 付与される有給休暇の日数 |
6か月 | 10労働日 |
1年6か月 | 11労働日 |
2年6か月 | 12労働日 |
3年6か月 | 14労働日 |
4年6か月 | 16労働日 |
5年6か月 | 18労働日 |
6年6か月 | 20労働日 |
また上記の条件に当てはまらない場合でも、以下の表に従って有給休暇が与えられます。
週所定労働日数(日) | 年間所定労働日数(日) | 雇入れからの継続勤務期間(年) | ||||||
0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | ||
4日 | 169日~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121日~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
その他の注意しておきたい点
最後に、以上では説明しきれなかったアルバイト・パートを雇用する際に注意しておきたいポイントを2点紹介します。
未成年者の雇用
高校生などの未成年者のアルバイトを雇用する際には、加えて注意しなくてはならない点がいくつかあります。
まず、原則として満15歳になってから最初の3月31日を過ぎる前の未成年者は雇用することができません。また未成年者を、重量物を取り扱う業務や感電の危険性が高い業務といった危険な業務、またはキャバレーやバーにおける業務などの有害な業務に従事させることは労働基準法で禁止されています。さらに、未成年者に午後10時以降から翌日午前5時までの深夜の時間帯に労働させることや、時間外労働をさせることも禁止されています。
これらに加えて、雇用契約は未成年者の親や後見人ではなく本人と結ばなくてはならないこと、未成年者の年齢を証明する公的な書面を備え付けること、賃金を直接本人に支払わなくてはならないことにも注意が必要です。
関連記事:
・【18歳未満の雇用ガイド】年少者保護規定、把握できていますか!?
アルバイト・パートからの相談受付体制
平成27年4月1日に施行された改正パートタイム労働法では、アルバイト・パートからの相談に応じ、適切に応対するための制度を整備することが義務付けられました。この制度はアルバイト・パートが雇用管理の改善などに関して相談する窓口となります。
まとめ
アルバイト・パートの雇用にも、正社員の雇用と同様、様々な規則が法律により定められています。平成27年の改正パートタイム労働法施行に伴ってルールの変更が生じたため、古い情報に惑わされないように注意しなくてはなりません。