残業代には、深夜労働や休日労働に対する割増賃金、その他手当が含まれることもあり、計算方法が複雑です。給与担当者はもちろんのこと、従業員も未払い残業代の有無を確認するためには、自ら残業代を計算する方法をマスターしておく必要があります。今回は基本的な残業代の計算方法を、わかりやすく解説します。
法定時間外労働
会社が従業員向けに定める労働時間を、所定労働時間といいます。例えば「月曜から金曜まで毎日9時から17時」、といったようなものです。この所定労働時間の上限は、労働基準法で定められた「1日8時間、週40時間以内」となっています。9時から17時の出勤で間に1時間の昼休みがあれば、1日の労働時間は7時間となり、要件を満たすことになります。
時間外労働には以下の2種類あります。
- 法定時間内労働
所定労働時間を超えているが労働基準法の上限に達していない労働のことをいいます。
法定時間内労働には、時間外労働における割増率は加味されず、通常の賃金を時間外労働の時間分に直し、残業代として配当すればよいだけです。 - 法定時間外労働
労働基準法の上限も超えているものをいいます。割増率を加味して残業代を計算します。
例えば、上の「月曜から金曜まで毎日9時から17時」の例を適用する会社で、ある社員が1週間を通して21時までの時間外労働をしたというケースを考えてみましょう。この場合、所定労働時間は労働基準法の上限よりも1日あたり1時間少なくなっているため、17時から18時の1時間は法定内労働時間となり、18時以降の3時間が法定外労働時間にあたります。また、もし本来休日である土曜日に出勤して仕事を行なったとしても、それは週40時間以内という基準を超えているので、法定時間外労働に該当します。
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計算の方法
基本計算の方法
残業代を算出するための基本的な計算式は、
「法定時間外労働」×「時給(1時間あたりの基礎賃金)」×「時間外労働に伴う割増率」
です。
通常の時間外労働に伴う割増率は、時給の1.25倍と法律で定められています。時給は、基本的には従業員の基本月給を1ヶ月の所定労働時間で割って求めればいいのですが、現実には、月給制や年俸制など企業によって給与体系が異なるのみならず、月ごとの祝日・土日の関係によって、計算が一定にならず複雑になってしまいます。このため、まず雇用契約に基づいた1年間の労働日数から1年の労働時間を求め、それを12ヶ月で割って平均することで月ごとの所定労働時間を導き出し、最終的に時給を計算するのが通例となっています。
こうして時給が明らかになれば、上の計算式を用いて残業代を割り出すことができます。
実際の計算例
次の例で実際の計算を考えましょう。
「月給32万8,000円で働く従業員。会社の規定では月曜から金曜の毎日、9時~18時の8時間労働(昼休み1時間)、12月29日から正月3が日までの年末年始は休日。繁忙期の1週間のうち、火曜日と木曜日に3時間ずつの時間外労働を行った。」
まずはこの従業員の時給を求めます。平成29年であれば、この基準のもとでの1年間の労働日数は246日なので、1年間の労働時間は8時間×246=1,968時間になります。これを12ヶ月で割ることにより、1ヶ月の所定労働時間は164時間であると導き出されます。月給328,000円を164時間で割れば、従業員の時給は2,000円と計算されます。
繁忙期の1週間で行った6時間の時間外労働は、すべて法定時間外労働に該当します。したがって、この週に貰える残業代は、
6時間×2,000円×1.25=15,000円
ということになります。
深夜の割増
上の例は、基本的な割増率を用いた場合です。では次に、時間外労働が深夜にまで及んだ場合を考えてみましょう。今度は同じ従業員が別の週に、月曜から木曜までは定時に退社できたものの、金曜日にたまっていた仕事が片付かず、18時をはるかに超えて24時まで会社に残って残業をしたとします。
この時、1週間の法定外労働時間量で考えれば6時間で、先の例と変わりません。しかし22時から翌5時までの深夜時間帯における労働には、0.25倍の割増が上乗せされることが法律により定められています。このため、この日の残業における18時から22時までの労働分は、
4時間×2,000円×1.25=10,000円
ですが、深夜割増が適用される22時から24時までの労働分については、
2時間×2,000円×(1.25+0.25)=6,000円
であり、したがってこの週の残業代は計16,000円となります。通常時間帯に時間外労働した場合よりも残業代が1,000円増えたことがわかります。
休日の割増
休日出勤を実施して時間外労働をした場合にも、もらえる残業代は通常よりやや多くなります。通常の割増率は1.25倍ですが、休日の場合は1.35倍になります。しかし、ここでの「休日」は非常に厄介な概念となっていますので、順番に説明して行きたいと思います。
労働基準法では、週1日の休日を設けるように定められています。これを「法定休日」と呼び、一般的には日曜日に設定されています。1.35倍の割増率は、この法定休日における労働にしか当てはまりません。他方、会社が就業規則で定める休日は「所定休日」と言い、祝日や土曜日などの日曜以外の休日はこちらに含まれます。2種類の休日の違いを、また例を使って具体的に見てみましょう。
先の例と同じ条件で働く従業員が、ある1週間を全て働き通したとします。その週の金曜日は国民の祝日でしたが、8時間働きました。さらに、土曜日に4時間、日曜日には6時間働きました。この時、残業代は土曜に行った4時間の時間外労働と、日曜日に行った6時間の休日労働の分のみに支払われます。金曜日の祝日における労働は、一見すると休日出勤のようにも思えますが、この祝日は法定休日には当たらず、かつ、労働基準法の週40時間以下という基準に収まるため法定時間外労働にも該当せず、法定時間内労働の扱いとなります。したがって、この日の給与は通常の時給2,000円で計算されます。よって残業代としては土日の分のみを計算して、
4時間×2,000円×1.25=10,000円
6時間×2,000円×1.35=16,200円
その合計額は26,200円となります。
なお、法定休日に深夜労働を行なった場合は、0.25倍を上乗せして、割増率は1.60になりますので、計算の時は注意が必要です。
大企業における追加割増
割増率は、大企業と中小企業で変わることがあります。それは、従業員が1ヶ月のうちに時間外労働を60時間以上行なった場合です。平成22年の労働基準法の改正により、大企業は、この60時間のラインを超えた分の残業代は、基本の割増率を1.5倍とするよう定められました。深夜の分はそれに0.25倍が上乗せされますから、最大で1.75倍の割増率に到達することになります。
現状、中小企業に対しては同様の措置を取ることが猶予されています。割増率が変わらない中小企業は、業種別に以下のように定められています。
- 小売業
資本金5,000万円以下、あるいは従業員数50人以下 - サービス業
資本金5,000万円以下、あるいは従業員数100人以下 - 卸売業
資本金1億円以下、あるいは従業員数100人以下 - その他
資本金3億円以下、あるいは従業員数300人以下
就労規則との関係
以上の原則は、法律で定められている残業代計算の方法です。ですが会社ごとに就労規則の内容は異なり、法定休日がいつになるか、国民の祝日も通常の勤務時間になるかなど、細かな条件が変わる可能性があります。雇用主・従業員の双方が、就労規則の内容をきちんと把握することが大切です。
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まとめ
残業代計算は条件によって複雑な計算が生じますが、ルールさえ押さえてしまえばどんな場合にも対応が可能です。就労規則の内容にも気を配りながら、雇用主・労働者の双方が残業代についての正しい知識を持っておくことが、滞りのない企業運営につながるでしょう。