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通勤中に事故に遭ったらー第三者行為災害とは?

通勤中の交通事故など、労働災害の中でも加害者が業務に関係のない他人である場合は「第三者行為災害」と呼ばれます。被害者は労災保険の給付請求権と同時に、加害者に対する損害賠償請求権を得るため、通常の労災保険給付とは異なる手続きが必要となります。今回は、第三者行為災害と認められる範囲、またその際に提出が必要となる書類、そして労災保険給付との支払調整の方法である「求償」と「控除」について解説します。

第三者行為災害とは

第三者行為災害とは、労働災害保険の制度において想定される労働災害の1つで、労災保険給付の対象となる事故が第三者によって引き起こされ、労災保険の受給権を持つ被害者または遺族に対して、当該の第三者が損害賠償の義務を負うものがこれにあたります。労災とは業務上または通勤中に被った、業務と因果関係のある負傷、疾病、障害、死亡を指し、またこの場合の第三者とは、労災保険の当事者である政府、事業主および労災保険の適用される被害者以外の者を意味します。

第三者行為災害保険の詳しい解説へ移る前に、関連する用語について確認しておきましょう。

労災保険

労災保険とは、労働者災害補償保険法に基づき、労災の被災労働者に対して適用される保険です。原則として、1人でも労働者を雇用する事業主は必ず加入する必要があります。給付額は、一時的な治療の費用については無制限である一方、後遺症が残る場合や長期に渡る治療の場合、また休業補償、介護補償、遺族補償、葬祭費の費用にはそれぞれ上限額が設定されています。ただし慰謝料、所持品等の損害、示談金などは補填の対象外となります。

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自動車損害賠償責任保険

こちらの保険は自動車損害賠償保障法に基づくもので、しばしば自賠責保険と呼ばれます。自動車やバイク等を運転する者には加入が義務付けられており、人身事故を起こした際に、被害者への損害賠償を自費でなく保険によって支払うことができます。しかし上限額が存在するため超過分は自己負担となり、また人体以外の損害については補償されません。その内訳は、傷害による損害が治療関係費・文章料・休業損害・慰謝料あわせて120万円、後遺障害による損害が条件により75~4,000万円まで、死亡による損害が3,000万円までの補償となります。

支払調整

第三者行為災害を蒙った際には、被害を補償する保険に上記の2種類が存在することになりますが、被害者への支払いが重複し損害分を超過する可能性があります。この時に重複が出ないよう都合することを支払調整と呼びます。後に詳しく述べる「求償」と「控除」も、それぞれこの支払調整の仕組みにおける措置の1つです。

なお、厳密に言えば労災保険と自賠責保険とでは補償対象の範囲に異なる点もありますが、概ね相互に対応しているため支払調整が可能になっています。両保険ともに補償範囲外となる対象については当該の第三者の自己負担となり、また支払調整による労災保険や自賠責保険の補償額の低減にも影響しません。

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提出する書類

第三者行為災害の申請において提出が求められる書類は、被害者と当該の第三者とで異なります。

被害者の提出する書類

第三者行為災害届を提出します。その際、以下の書類を添付する必要があります。

  • 交通事故証明書または交通事故発生届
    1部提出します。交通事故証明災害届は、警察に届出た後自動車安全センター等で受取ることができ、交通事故が発生したことの証拠になります。もしこちらが受取れなかった場合は、交通事故発生届を提出することになります。
  • 念書(兼同意書)
    3部提出します。注意事項として確認すべきことが記載されているため、内容を充分に理解してから署名しなくてはなりません。
  • 示談書の謄本
    1部提出します。既に示談を行っている場合に必要になります。
  • 自賠責保険等の損害賠償金等支払い証明書または保険金支払通知書
    1部提出します。既に仮渡金か賠償金の支払いがあった場合は必要になります。
  • 死体検案書または死亡診断書
    1部提出します。死者が出た場合に要請されます。
  • 戸籍謄本
    1部提出します。死者が出た場合に要請されます。

当該の第三者が提出する書類

第三者行為災害報告書を提出します。

 

「求償」と「控除」とは

支払調整を行うにあたっての前提として、賠償責任は加害者が負うという原則に基づき、賠償金は最終的には当該の第三者の自賠責保険より支払われます。しかしこの際、労災保険と自賠責保険のどちらを先行させるかによって2通りの手段が存在します。労災保険を先行させる方法を「求償」、自賠責保険を先行させる方法を「控除」といい、選択は被害者が行えます。

「求償」について

労災保険が先行する求償の場合、被害者は労災保険から賠償の対象について支払いを受取ります。この際、労災保険は当該の第三者の支払うべき賠償金を立替えることになります。ですから後に、労災保険が当該の第三者の自賠責保険に立替え分を請求します。

なお、労災保険では上限額無しで補償される一時的な治療費等の費用に、自賠責保険の条件額を超える金額がかかった場合、その超過分は当該の第三者が直接支払うことになります。

「控除」について

自賠責保険が先行する控除の場合、被害者は先に当該の第三者の自賠責保険から賠償金を受取ります。その後労災保険から、自賠責保険と重複している賠償対象の分を差し引いた額を受け取ります。自賠責保険の上限額からの超過分については求償と同様の処置が取られます。

求償と控除について注意点

特筆すべき点として、休業補填については自賠責保険と労災保険とで内訳が異なっています。労災保険では休業補填の上限は給与の80%となり、内訳は休業補償給付が給与の60%、休業特別給付が給与の20%ですが、自賠責保険では前述の通り120万円まで無制限となります。ここで重要なのは、休業特別給付は支払調整に影響しないという点です。つまり、自賠責保険で休業補填として給与の100%を支払われても、労災保険から休業特別給付が控除されずに更に受取れるので、給与の120%を支給されることになります。

求償と控除の選択

一般に、被害者にとっては自賠責保険先行の控除の方がメリットは大きいです。それは休業補填をより多く受取れるのみでなく、自賠責保険特有の補償対象として慰謝料や義足、補聴器等が含まれ、また自賠責保険には仮渡金があり受渡しが速やかなためです。

しかし、被害者の過失が大きい場合、また当該の第三者が自賠責保険に加入していない場合は、労災保険先行の求償を選ぶことが推奨されます。前者の場合は、自賠責保険では賠償額が過失の割合によって低減される性質があるためで、後者の場合、当該の第三者の所持金額によっては取立てが難航するからです。

なお、示談を行うかの判断については慎重になる必要があります。示談内容が賠償に値するか見極めることも重要ですが、示談が脅迫や勘違いを含む恐れがあるため、被害者が独力で正しく判断できるかという懸念が存在するからです。示談が成立し被害者が賠償請求権を放棄したと見做されれば、保険による支給は無くなり、重複した賠償支払分については回収されることとなります。

 

まとめ

第三者行為災害は、事故後の対応や多数の必要書類の提出、支払調整の選択など、労災の中でも被害者の負担が高いものとなります。いざという場合に備えて制度をよく理解しておき、慎重に決定を行いましょう。

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