働き方改革の波を受け、正規雇用者と非正規雇用者との待遇差改善のために派遣法が改正されました。改正派遣法は2020年、2021年に施行されました。2020年の改正では、賃金や待遇を正規労働者に近づけるという目的、2021年は曖昧になっていた派遣法の指針を明確にする目的で施行されました。この記事では、2020年、2021年それぞれの改正におけるポイントを解説します。
目次
2020年の法改正は「同一労働同一賃金」など派遣社員待遇改善を実現するために行われました。同一労働同一賃金とは、非正規労働者か正規労働者かどうかにかかわらず、同じ労働に従事する者は同じ賃金を受け取るという原則です。ワーキングプアを生み出す温床にもなっている非正規労働者の待遇を正規労働者に合わせて改善するのが目的です。
しかし派遣労働者は、会社を退職しなくとも、つまり同じ派遣元に所属したまま、異なる派遣先に派遣されることがあります。派遣先の正規労働者に給与を合わせるのであれば、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わるということが起きてしまいます。それは結果として派遣労働者の給与を不安定にするでしょう。しかも、一般的に給与というのは必ずしも仕事の難易度に合わせて設定されるわけではありません。賃金水準は大企業であるほど高く、中小企業は低い傾向にありますが、だからと言って後者の方が前者よりも仕事がより簡単であるとは限りません。派遣先の正規労働者に給与を合わせるのであれば、仕事の難易度やポジションが上がったのに給与が下がってしまうという事態が発生してしまうことは十分にありえます。派遣労働者個人のキャリア形成を考えると、これは当然望ましくないでしょう。
同一労働同一賃金のデメリットを考慮し、改正後は、派遣労働者の処遇の決め方を制度化しています。具体的には、派遣元事業主は派遣労働者の待遇について以下の「均等・均衡方式」か「労使協定方式」のいずれかの方式で決定することを被雇用者と同意し、最終的に決定していくことが義務化されました。さらに、派遣元・派遣先企業の両方に、定められた情報の提供が義務化されました。
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均等・均衡方式は、後述する労使協定を結んでいない場合や、雇用主が労使協定で定めた事項を遵守していない時に提供される方式です。派遣元の企業は、派遣先の通常の労働者と自社から派遣している労働者の待遇が均等かつ均衡になるようにしなければなりません。
どのような待遇が均等かつ均衡とみなされるのかについては、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン)に詳細に規定されています。このガイドラインは、正規労働者と非正規雇用労働者(派遣労働者だけではなくパートタイム労働者・有期雇用労働者も含む)の間で待遇差が存在するときに、どのような待遇の差が許容されないのか、逆にどのような待遇差であれば問題とはならないのかを示したものです。このガイドラインの対象は基本給だけでなく、ボーナスや深夜・休日労働手当の割増率、通勤手当などの各種手当・補助も含まれるので注意が必要です。
労使協定方式は、労働者の過半数が所属する労働組合と派遣元企業の間で待遇に関する労使協定を結ぶ方式です。労働者の過半数が所属する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表した者と労使協定を結ぶことになります。なお、この労使協定は必ず書面で行うことが必要です。
なお、以下の事項は労使協定の対象とならないものであるため、労使協定方式も適用されません。これらについては、均等・均衡方式と同様に同一労働同一賃金ガイドラインにしたがって、派遣労働者の均等・均衡を確保しなければなりません。
派遣元は派遣労働者、派遣先などに対して、労働者の待遇をどのように決定しているかについての情報を提供しなければなりません。提供しなければいけない情報のひとつは、労使協定を締結しているかどうか、つまり上記の労使協定方式を採用しているかどうかです。さらに、労使協定を締結している場合には、以下の点について派遣労働者、派遣先などに対して通知しなければなりません。
これらは書面である必要はなく、インターネットを利用して派遣労働者、派遣先などに対して広く知らせるなどの方法でも問題ありません。厚生労働省の運営する「人材サービス総合サイト」への掲載も推奨されています。
派遣元だけではなく、派遣先にも情報提供義務があります。均等・均衡方式と労使協定方式のいずれによって待遇決定を行う場合でも、派遣先企業は派遣元企業に対して、比較対象労働者に関する情報を提供しなければなりません。比較対象労働者とは、派遣先において正規労働者として同様の仕事をしている労働者を指します。誰が比較対象労働者に該当するかについては、派遣先が下記の1から6の優先順位で選定します。
派遣先は上記の比較対象労働者の「待遇に関する情報」を提供しなければなりませんが、その内容はどちらの方式を採用するかによって異なります。均等・均衡方式を採用する場合、派遣先企業が派遣元企業に提供しなければならない「待遇に関する情報」は以下の5点です。
他方で、労使協定方式を採用する場合に派遣先企業が派遣元企業に提供しなければならない「待遇に関する情報」は以下の2点です。
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2021年の派遣法改正では、派遣社員の待遇格差是正や雇用維持の強化、キャリア支援の充実など、労働環境の改善が焦点です。派遣会社と派遣先企業の双方に義務が課され、派遣社員の権利保護が強化されました。曖昧になっていた派遣法の指針にかかわる部分について明確に打ち出されました。また、2021年改正は1月と4月で二回に分けて施行されています。それぞれに分けて改正のポイントを解説します。
2021年1月は以下4点が改正されました。
派遣社員と雇用契約を結ぶ時に、教育訓練やキャリアコンサルティング内容を説明する義務が追加され、派遣社員の雇用安定・キャリア形成が促進されました。
電磁的記録による契約作成が認められ、効率的な契約管理が可能になり、情報の保存やアクセスが向上しました。
派遣法改正により、派遣先企業は労働関係法に関する派遣社員の苦情に対し、積極的かつ誠実に対応する義務が課せられました。これまでの派遣会社が窓口であった苦情処理が、派遣先企業へと移行しました。また、苦情の受付と処理状況の記録は派遣先管理台帳に記載し、派遣会社へ通知することが必要となりました。
派遣元は派遣社員の過失以外の理由派遣契約を解除した場合に、新たな就業機会の確保や休業手当の支払を行うこと、が義務づけられました。
2021年4月は以下4点が改正されました。
派遣法改正により、「派遣先企業への直接雇用の依頼」「新しい派遣先企業の用意」「無期雇用派遣への転換」「その他安定した雇用の継続を図るための措置」についての希望を派遣労働者から聴取し、派遣元管理台帳に記入するという義務が派遣会社に課されました。
今まで開示が義務化されていた「派遣労働者の数」「派遣先数」「労働者派遣に関する料金の額の平均額」「派遣労働者の賃金の額の平均額」「マージン率」「教育訓練に関する事項」などの情報をインターネットで開示することが義務化されました。
以前、派遣社員は正社員に比べて不利な立場でしたが、派遣労働者の権利拡大に取り組まれてきました。それに伴って法改正が頻繁に行われていますが、法律を正しく理解し、派遣社員が安心して、長期的に働ける環境を作っていきましょう。
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