例年4月と言えば、雇用保険料率や労災保険料率、健康保険の料率が改定される時期ですね。総務担当者としてはこれだけでも要チェックな事項ですが、平成28年はその他にも法改正や新制度スタートなど、対応することが盛りだくさんです。
例えば、以下のような法改正や新制度があります。
「女性活躍推進法」の全面施行…女性の活躍を後押しする趣旨でスタート
「改定障害者雇用促進法」の一部施行…より多くの人が働けるように整備
「傷病手当金の計算方法」の変更…不正受給を防ぎ、適正な受給に改善するために変更
総務業務に関わる変更点を全て把握しておくのは大変なこと。今回は、「平成28年4月1日からの主な変更点」を一挙にご紹介します。
雇用保険料率の引き下げ
雇用保険法等の一部を改正する法案が成立しました。平成28年4月1日から平成29年3月31日までの雇用保険料率は、 前年度より引き下がります。各事業により料率が異なりますので、下記【表1】および【事例1】【事例2】でご確認ください。
【表1】平成29年度の雇用保険料率一覧(枠内の下段は平成28年度の雇用保険料率)
※出典:厚生労働省ホームページ「雇用保険料率について」
毎月の給与計算、1年に1度の年度更新など、雇用保険に関わる手続きは、多岐に渡ります。料率を間違えて雇用保険料を計算しないよう、注意しましょう。
※例1:毎年の年度更新を「払い」で計算している場合
例えば、毎年の年度更新を4月払い~3月払いの賃金のもとに計算している場合、雇用保険料率は「4月払い給与」から適用することになります。
※例2:毎年の年度更新を「分」で計算している場合
例えば、前年の年度更新時を4月分~3月分の賃金のもとに計算している場合、雇用保険料率は「4月分給与」から適用することになります。
健康保険料率の改定
一部の都道府県では、およそ7年ぶりに協会けんぽの健康保険料率が引き下げになりました。会社によっては、健康保険組合や国保組合等を利用しているケースもあるでしょう。料率の確認は管掌団体へ確認しましょう。
【表2】【表3】では、政府管掌である協会けんぽの健康保険料率及び介護保険料率について紹介します。
【表2】改定前・改定後の協会けんぽ健康保険料率一覧(東京・神奈川・大阪)
【表3】改定後の協会けんぽ保険料率一覧(全国)
介護保険第2号被保険者に該当する場合は、上記料率に介護保険料率(1.58%)が加わります。また、給与からの社会保険料を控除するタイミングを翌月控除としている場合、「4月支払い給与」より保険料控除額の変更が必要になります。給与計算の際には気を付けましょう。
傷病手当金・出産手当金の支給額計算法の変更
これまでは、「休み始めた月」の標準月額÷30日×2/3という計算法でした(図1参照)。
【図1】平成28年3月までの日額計算法
平成28年4月1日以降は、実態報酬に合わせるため、「支給開始日以前の継続した12ヶ月間」の各月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3に変更となります(図2参照)。
【図2】平成28年4月1日以降の日額計算法
傷病手当金や出産手当金は、従業員数が増えるほど頻度が上がる届出です。採用活動に合わせて、早めに準備しておきましょう。また、以下の例外ケースにおいては計算式が異なります。
※例外1:過去12ヶ月の間に転職した場合で前後の保険者が同じ場合
離職していた期間が原則1ヶ月以内であれば、転職前後の標準報酬月額を通算して計算されます。
※例外2:支給開始日以前の月が12ヶ月に満たない場合
「支給開始日以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の1/30に相当する額」 または、 「支給開始日の属する年度の前年度の9月30日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額の1/30に相当する額」
上記いずれか少ない額の2/3に相当する額で計算することになります。
女性活躍推進法の全面施行
平成28年4月1日から、労働者301人以上の企業は、女性活躍の推進に向けた行動計画の策定などが新たに義務づけられることになりました。
義務の内容は下記3つです。
1.自社の女性活躍に関する状況把握、課題分析
2.状況把握、課題分析を踏まえた行動計画の策定、届出、公表
3.女性活躍に関する情報の公表
1の状況分析には下記4つの把握が必要です
①採用者に占める女性比率
②勤続年数男女差
③労働者の各月の平均残業時間数などの労働時間状況
④管理職に占める女性比率
2、3の詳細は下記のような段階を踏みます
①1の結果を踏まえて行動計画の策定
②都道府県労働局へ届出
③労働者への周知
④外部への公表
改正障害者雇用促進法の一部施行について
(1)障害者に対する差別の禁止
「雇用の分野における障害を理由とする差別的取扱いを禁止する」旨の内容が盛り込まれました。
(2)合理的配慮の提供義務
「事業主に、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずること」を義務付ける内容が盛り込まれました。ただし、当該措置が「事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなる場合を除く」ことも定められています。総務担当者としては、職場の就業状況と改善する余地を勘案し、事業主へ報告した上で必要な措置を講ずることが求められるでしょう。
(3)苦情処理・紛争解決援助
・事業主に対して、上記(1)および(2)に係る障害者からの苦情を自主的に解決することを努力義務とする内容になっています。
・上記(1)および(2)に係る紛争について、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の特例(紛争調整委員会による調停や都道府県労働局長による勧告等)が整備されました。
以上のように、今までにも増して、障害者の方々を受け入れる際に関わる法律に気を配ることが求められます。
国民健康保険法等の一部改正について
保険料の算出のベースとなる標準報酬月額の区分変更が2016年4月1日より実施されています。これまで「1等級(58,000円)」から「47等級(1,210,000円)の47等級に区分されていたものに、3等級が追加され、「第1等級(58,000円)」から「50等級(1,390,000円)」の全50等級に変更されます。持続可能な医療保険制度を構築することを目的とした改正です。
【表4】標準報酬月額区分の等級追加について
毎月の給与計算や月額変更手続きに関わるため、総務担当者は正しく理解し、各業務に反映しましょう。
まとめ
随時行われる法改正情報をと理解し、実務に役立てることは、他部署からの信頼や経営者に的確な法的リスクの説明をする上で重要です。また、従業員もしっかりと法律にそって対応してくれる会社に信頼と満足を覚え、組織全体の繁栄につながります。総務担当者にも法的知識に基づいた幅広い対応力が必要ですね。