本シリーズは、「意外と知られていない就業規則の隠れた役割」について、労働法の観点から解説する連載企画です。今回は、ジューンブライドの6月ということで、結婚・出産に関連する、慶弔休暇・産前産後の休暇について取り上げたいと思います。
目次
慶弔休暇とは、従業員が結婚した場合や、親族の忌引などの場合に、従業員に休暇を与えるものです。労働基準法上、使用者は慶弔休暇を与える義務がありませんが、実際には多くの企業が慶弔休暇を制度化しています。
就業規則等に記載する場合の記載例としては次のようなものになります。休暇が発生する事情と、休暇の日数を明確に規定しなければなりません。
第●●条 (慶弔休暇)1 社員が申請した場合は、次のとおり慶弔休暇を与える。(1)結 婚 ○日(結婚式当日を含む)(2)配偶者の出産 ○日(3)忌 引ア 配偶者および1親等の血族 ○日イ …2 社員は、前項の休暇を取得しようとするときは、会社に対し、事前に会社所定の手続により申請し、その承認を得なければならない。ただし、第3号の事由によりやむを得ず事前に申請することができない場合は、事後に速やかに申請して承認を得るものとする。3 慶弔休暇の期間中は、無給とする。 / 所定勤務時間を勤務したときに支払われる通常の給与を支給する。
上記のように、慶弔休暇を制度化した場合、慶弔休暇が有給休暇なのか、無給休暇なのかを定めておくことが必要です。
また、慶弔休暇を無給とした場合は、従業員が法定の年次有給休暇を取得したいと申請し、会社が承認すれば、年次有給休暇として取り扱うことになります。
慶弔休暇を付与し、さらに慶弔金を支給する企業もあります。
慶弔金とは、結婚祝金や出産祝金、死亡弔慰金のことを指します。このような慶弔金は、労働基準法上使用者の義務とはされておりません。制度として取り入れるかどうかは使用者の自由ですので、福利厚生として採用するかどうかご検討いただければと思います。
労働基準法65条によると、産前の従業員が請求した場合、出産予定日(実際に出産した当日を含みます。)までの6週間(多胎妊娠の場合は14週間)休業させなければならず、産後8週間以内(実際の出産の日の翌日から起算します。)の従業員は、従業員の請求がなくとも、休業させなればならないとされています。ただし、産後6週間を経過した従業員は、本人が希望した場合、医師が認める業務に就かせることができます。
休業の時期 | 休業させなければならない期間 |
産前 | 出産予定日までの6週間(従業員の請求があった場合) |
産後 | 出産日翌日から8週間 (休業従業員の請求がなくとも) ※本人が希望した場合は6週間 |
産前産後の休業中の賃金の支払いについて、労働基準法では規定されていないため、ノーワークノーペイの原則通り、無給として差支えありません。 しかし、無給とすることについて就業規則で確認しておく必要はあります。産前産後休業に関する就業規則の記載例としては次のようなものになります。 第●●条(産前産後休業)・会社は、6週間(多胎妊娠の場合は、14週間)以内に出産する予定の女性社員から請求があったときは、当該社員を休業させる。・会社は、産後8週間を経過していない女性社員は、就業させない。ただし、産後6週間を過ぎた女性社員から請求があったときは、医師が支障がないと認めた業務に就かせることができる。・産前産後休業は産前6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)、産後8週間を限度として、女性社員が申し出た期間とする。ただし、産後6週間は申出の有無にかかわらず、就業を禁止する。・この産前産後休業中の賃金については、無給とする。
妊産婦の従業員についても、法律上の制限があります。代表的なものをご紹介します。
母性保護の見地から、下記のとおり、時間外労働等について制限が課されています。
妊娠中または産後1年の妊産婦が請求した場合、時間外・休日・深夜労働をさせてはならない(労働基準法66条)
授乳その他母親として乳児を世話するために必要な時間を確保する趣旨で、休憩に関する義務が定められています。
生後満1年未満の子供を育てる女性の従業員に対しては、当該従業員からの請求があれば、原則1日2回、一回あたり30分以上の休憩(1回にまとめて付与することもできます。)を通常の休憩とは別にとらせなければならない(労働基準法67条)
上記のような慶弔休暇(制度として採用した場合)と産前産後の休暇については、就業規則に記載すべき事項であり、労働条件明示義務も課されている事項です。
これらの休暇についての法律上のルールをしっかり理解した上で、従業員への福利厚生としてご活用ください。
※当記事の情報は、2016年5月20日時点のものです。
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