名前が似ている社会保険労務士と労務管理士ですが、その業務内容は全く異なります。社会保険労務士が特別な書類の作成、取扱いが認められた国家資格であるのに対して、労務管理士は民間団体による資格です。今回は名前のよく似たこの2つの資格の役割、その違いについて解説します。
目次
社会保険労務士とは
社会保険労務士とは、厚生労働省系の社会保険労務士試験という国家試験を合格して社会保険労務士の資格を獲得した後に、社会保険労務士名簿への登録条件を満たし登録された人のことを指します。この国家試験は年に1回しか実施されず、名簿への登録条件を満たすには2年以上の実務経験または事務指定講習を受講しなくてはなりません。平成28年実施の試験の合格率は4.4%、平成29年は6.8%と、合格への門は決して広くはありません。そのため、なるまでが非常に困難な職業です。
社会保険労務士の業務内容について
社会保険労務士は、簡単にいうと社会保険に関するプロフェッショナルです。社会保険労務士は医師や弁護士と同じく業務独占資格であり、独立して個人の事務所を構える方が多いようです。依頼や相談は個人や企業、行政機関からも受け付けています。具体的な業務内容に以下のようなものが挙げられます。
労働社会保険に関する手続きの代行や相談
労働保険や社会保険など、健全な職場環境づくりに欠かせない諸保険への加入手続きや助成金申請手続きの代行をします。これらの手続きは非常に煩雑なものが多く、適切な処理ができる有資格者の社会保険労務士は心強い味方となります。
また労働者名簿や賃金台帳の調整、就業規則の作成や見直しも行います。就業規則の作成や見直しに関しては、企業の労働者の過半数の代表または労働者の過半数が加入している労働組合の代表との調整役も務め、労働基準法などの法令に順守しながら労働者の意見を加味して作成・見直しを行います。
労務管理に関する相談や指導
依頼主の業態を問わず、労働環境や人事などの労務管理に関するコンサルティングを行います。具体的には、労働時間や賃金状況が適切であるか、就業規則が実際に適切に運用されているかといった職場の実情について、監査や指導をすることができます。
また、労働基準監督署が企業に対して調査や処分を行う際、その企業について代理人として意見を述べることもできます。
年金制度に関する手続きの代行や相談
年金制度に関しての相談や、受給申請の手続きの代行をします。主に個人からの依頼であり、複雑な処理を行うことが難しい方のために存在するサービスです。
特定の裁判外紛争解決に関する手続きの代行
この業務ができるのは特定社会保険労務士のみです。特定社会保険労務士になるには、社会保険労務士になった後、さらに特別な審査や試験に合格しなければなりません。彼らは特定の裁判外紛争に対して、あっせんの手続きや特定の法律の調停の手続きの代理ができます。これにより、当事者双方の言い分を聞き、解決へと導きます。
特定の訴訟の場面に補佐人として出頭
トラブルになりやすい労働社会保険に関する問題や、個別の労働関係に関する問題が訴訟へと発展した場合に、補佐人として裁判所へ出頭し意見を述べることができます。元々相談を受けていた問題に対して意見を述べる場合が多く、より速く問題を解決させるために有効です。
社会保険労務士の役割
以上が具体的な社会保険労務士の業務内容ですが、これらは社会保険労務士法の表記によって大まかに3種類に分けられます。
- 各種労働社会保険に関する申請、届出、報告等についての書類作成や手続の代行、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成
- 人事や労務管理、年金制度に関するコンサルティング業務
- 特定の裁判外紛争が起きた際のあっせんの代理、特定の訴訟に補佐人として出頭
これらはみな社会保険労務士に許された業務ですが、社会保険労務士が独占して行うことができる、いわゆる「独占業務」にあたるのは、1つ目に挙げた業務のみです。もちろん、個人や企業は1つ目に挙げた書類の作成や提出の手続き業務を、社会保険労務士に代行委託せずとも問題なく行えます。しかし、どの書類においてもその処理が煩雑であり、社会保険労務士に代行を依頼することで、素人に任せるよりもかえって人件費が少なく済む、または書類の不備による損害賠償や未払い賃金といった思わぬところでの出費を抑えるなど、得られるメリットは大きいでしょう。書類の不備のリスクを減らすという点においては、例えば労務環境に関して違反を受けたり、訴訟を起こされたりした場合に社会的信用が損なわれるというリスクを防ぐことにもつながります。
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労務管理士とは
労務管理士とは、一般社団法人の日本人材育成協会と日本経営管理協会が認定している資格の1つで、いわゆる民間資格にあたるものです。制度の主な目的が、人事や労務に関する高度で専門的な知識を身につけた労働者数を増加させることにあるため、受験の際は20歳以上であれば学歴や経験は不問とされています。また、資格を取得するにあたっても、公開認定講座や通信研修、web研修のどれか1つを履修した後に資格認定試験に合格する、または3年以上の実務経験と労務管理士資格取得者からの推薦がある場合は課題論文による審査に合格することで資格が取れるので、社会保険労務士の場合と比べると資格取得のハードルは低くなっています。
労務管理士の役割
労務管理士は基本的に企業内で業務にあたります。労務管理士ができる業務は、上記の社会保険労務士の役割の項で挙げた2つ目の業務のうちの一部のみです。つまり、企業内部での人事や労務の分野において、高度な専門的知識をもって相談または指導にあたることができます。しかしその際に各種労働社会保険に関する書類作成の代行をしてしまった場合、社会保険労務士法によって罰せられなくてはなりません。このため、労務管理士は自身の企業内で活躍されている方が多いようです。
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まとめ
社会保険労務士と労務管理士の役割とその違いに絞って述べてきました。まとめると、国家資格である社会保険労務士の方が民間資格の労務管理士よりもできることが多い一方で、資格を取るまでが非常に大変だということです。このように、似た名前であっても明確に業態や業務内容が違っているため、資格取得を考える際にはどちらを取るべきなのかをしっかりと理解しておくとよいでしょう。