働き方改革推進支援助成金は、働き方改革に取り組む中小企業・小規模事業者に対して助成する制度であり、労働時間改善の促進を目的としています。助成金は5つのコースに分かれており、それぞれ対象となる取り組みに対してかかった費用の一部が助成されます。これと似た名前の制度に「人材確保等支援助成金(働き方改革支援コース)」がありますが、両者は全く別のものですので混同しないようにしましょう。今回は、働き方改革推進支援助成金の5つのコースの対象と助成の要件や助成内容、人材確保等支援助成金との違いについて解説していきます。
目次
現在申請可能な3つのコース
はじめに現時点で申請可能な3つのコースについて解説します。いずれのコースも、中小企業の事業主がコースごとに定められた成果目標の達成に向けて取り組みを実施すると、取り組みのための経費の一部に対して、成果目標の達成目標に応じて助成を受けられるという制度です。なお、申請条件はコースごとに異なります。
以下でご紹介する3コースの申請期限はいずれも2020年11月30日(月)です。ただし、国の予算が消化されれば11月30日以前に受付が締め切られる場合があるため注意が必要です。
申請する場合は、期限までに最寄りの労働局に「交付申請書」を提出しましょう。交付決定後、2021年1月29日(金)(団体推進コースは2月22日(月))までに提出した計画に沿って取り組みを実施します。その後2021年2月12日(金)(団体推進コースは3月1日(月))までに労働局に支給を申請するといった流れです。
労働時間短縮・年休促進支援コース
2020年4月より、中小企業も時間外労働の上限規制の対象となっています。労働時間短縮・年休促進支援コースの助成金は、生産性を向上させることで、労働時間を短縮したり年次有給休暇の取得を促進したりする中小企業事業主の取り組みを支援するものです。
- 対象となる事業主
本コースの申請をする事業主は、「36協定の締結」や「年5日の有給休暇取得について就業規則などで整備していること」などの条件を満たす必要があります。 - 対象となる取り組み
「労務管理担当者に対する研修」「労働者に対する研修、周知・啓発」「外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング」「就業規則・労使協定等の作成・変更」など具体的に10項目が指定されています。 - 設定する成果目標
本コースに申請するためには、取り組みに対して成果目標を設定しなければなりません。成果目標は以下の4つから1つ以上を選びます。
1.「36協定の見直しによる労働時間の短縮」
2.「週休2日制の導入に向けた所定休日の増加」
3.「特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇)の規定の導入」
4.「時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入」
こうした成果目標に加えて、賃上げを3%以上行うことを目標として加えることができます。
- 助成内容
本コースでは、成果の達成状況に応じて、目標ごとに定められた上限額と従業員の賃上げ額の合計額、または取り組みに必要な経費の3/4を原則とする補助金額のうちどちらか低い方を助成金として受けることができます。たとえば、時間外労働時間の短縮に対しては上限100万円の助成、所定休日3日以上の増加に対しては上限50万円の助成、1~3人の賃金を3%以上引き上げた場合には15万円の助成を受けることができます。
勤務間インターバル導入コース
「勤務間インターバル」とは、勤務が終了してから次の勤務が開始されるまでに一定時間の休息時間を確保することです。勤務間インターバルは、働く人の生活時間や睡眠時間の確保・健康保持・過重労働の防止を図る目的で2019年に努力義務として制度化されました。勤務間インターバル導入コースは、勤務間インターバルを導入する事業主の取り組みを支援するものです。
- 対象となる事業主
本コースの対象となる事業主は、「勤務間インターバルを導入していない」「勤務間インターバルを導入しているが対象者が少ない」「勤務間インターバルを導入しているが休息時間が9時間未満である」などの条件を満たす必要があります。 - 対象となる取り組み
本コースの対象となる取り組みは、「労働時間短縮・年休促進支援コース」と同じ10種類の取り組みです。 - 設定する成果目標
本コースで達成するべき成果目標は以下のいずれかです
1.労働者の半数を超える労働者を対象に、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを新たに導入する。
2.既に実施している9時間以上の勤務間インターバルの対象となる従業員数を事業所の過半数にまで拡大する
3.既に実施している事業所の過半数の従業員を対象とする勤務間インターバルを2時間以上延長して9時間以上にする
本コースでもこれらの成果目標に3%以上の賃上げ目標を加えることもできます。
- 助成内容
経費の3/4を原則とする助成金を受けることができます。ただし、金額には達成した目標ごとに定められた上限があります。たとえば、新規に9時間以上11時間未満の勤務間インターバルを導入すると80万円までの助成を受けることができます。賃上げに対する助成は「労働時間短縮・年休促進支援コース」と同じです。
団体推進コース
団体推進コースは、事業協同組合・信用協同組合・企業組合・商工組合などの中小企業事業主の団体や連合体に対する助成です。条件を満たす事業主団体が、団体に属する事業主の雇用している労働者の労働条件を改善するために、時間外労働の削減や賃金引き上げに向けた取り組みを実施した場合にその事業団体に対して助成金を支給します。
- 対象となる事業主団体等
本コースの対象は事業組合・信用協同組合などの法律で規定された団体や、一定の要件を満たす事業主団体、または協定書を作成している共同事業主です。また、団体の中で中小企業主が半分以上を占めている必要があります。 - 対象となる取り組み
本コースの対象となる取り組みは、「市場調査の事業」「新ビジネスモデル開発、実験の事業」「材料費、水光熱費、在庫等の費用の低減実験(労働費用を除く)の事業」「好事例の収集、普及啓発の事業」などの10種類です。 - 設定する成果目標
本コースでは、目標として「事業主団体等が事業実施計画で定める時間外労働の削減又は賃上げに向けた改善事業の取り組みを行い、構成事業主の2分の1以上に対してその取り組み又は取り組み結果を活用すること」が定められています。 - 助成内容
取り組みの実施に要した経費を補助として以下のいずれか低い方の額が助成されます。ただし上限額は500万円までとなっています。
1.対象経費の合計額
2.総事業費から収入額を控除した額
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9月中に申請が締め切られる2つのコース
職場意識改善特例コース
本コースは、新型コロナウイルス感染症対策の1つとして、従業員の病気休暇制度や子どもの休校・休園のための特別休暇制度を設けるなど、労働者が安心して働ける環境整備に取り組む中小企業事業主を支援することを目的としていました。本コースの交付申請は交付申請2020年9月30日(水)で、取り組み終了後の支給申請期限は、11月16日(月)までとなっています。
新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース
本コースは、新型コロナウイルス感染症対策として新たにテレワーク環境を整備する中小企業事業主を支援することを目的としていました。追加された2次募集も2020年9月18日に交付申請が締め切られています。なお、助成金の1次募集分の給付申請期限は2020年9月30日(水)までですが、事業実施期間が延長される場合、交付決定が7月20日以降であるときは、事業実施期間の終了日の翌日から10日を経過した日までに延長されます。2次募集分の給付申請期限は、2020年12月4日(金)までです。
人材確保等支援助成金との違い
「人材確保等支援助成金(働き方改革支援コース)」は、上記5コースからなる「働き方改革推進支援助成金」と名前が似ていますが、全く別の制度で担当窓口も異なります。本コースも働き方改革に取り組む中小企業を助成金により支援することを目的としていますが、対象となるのは新たな従業員を雇用することです。雇用管理改善を目指す取り組みで、「新たな人材の確保」にフォーカスしているという点に違いがあります。
受給申請のための計画書を提出する資格があるのは、すでに上記の働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース、勤務間インターバル導入コース)を受給した中小企業事業主とされており、両制度は併せて働き方改革を進めていくための制度として位置づけられています。
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まとめ
現在申請することができる働き方改革推進支援助成金は、「労働時間短縮・年休促進支援コース」「勤務間インターバル導入コース」「団体推進コース」の3つです。事業主・従業員の双方にとって労働環境の改善は望ましいことですが、取り組みのためのコストが負担になってしまうケースも多いことでしょう。今回ご紹介した助成金を利用して改善に踏み切ってみてはいかがでしょうか。