一時帰休とは、企業が業績悪化などを理由に事業活動を縮小する際に、従業員を在籍させたまま一時的に休業させることを指します。一時帰休では雇用契約を維持したまま休業させるため、再雇用する必要がなく人材が他社に流出する心配がありません。しかし、休業という言葉に悪いイメージを抱く従業員も少なくないため、従業員がきちんと理解し納得している状態で一時帰休を行う必要があります。また、企業は一時休暇をおこなった場合、従業員に対して最低でも平均賃金の60%以上を休業手当として支払う必要があります。
目次
一時帰休とは?
会社の都合で社員に一時的な休業を命じること
一時帰休とは、業績の悪化や事業の縮小など、会社側の都合で雇用を維持したまま社員に一時的な休業を命じることを指します。社員を雇用したまま休業させる一時帰休の目的は、仕事量の減少に合わせて人件費を削減することです。経済情勢や経営環境の変化に伴い業況が悪化し、やむを得ず雇用調整をせざるを得ない企業も多く見られます。業況が回復するまでの間、雇用を維持したまま人件費を削減する手段が一時帰休です。ただし、そのような場合でも法令や労使間合意に基づくルールは遵守しなければならないため、一時帰休を命じる際は十分気をつけましょう。
一時解雇(レイオフ)や整理解雇(リストラ)との違い
一時解雇はレイオフとも呼ばれ、欧米を中心に広く行われる雇用調整の方法です。業績が回復した際に再雇用することを確約した上で、業況悪化時の人件費削減を目的に社員を一時的に解雇することをレイオフといいます。整理解雇はリストラといい、人件費の削減を目的とした人員整理です。再雇用が確約されるレイオフに対し、リストラは業績が回復しても再雇用されることはありません。一方、一時帰休は雇用を維持したまま一時的な休業を命じるのが特徴です。会社との雇用関係が解消されるレイオフやリストラに対し、一時帰休は雇用が維持される点が異なります。
休業手当を支払う代わりに雇用調整助成金の受給が可能
業況の悪化に伴う人件費の削減を目的とした一時帰休を行う場合、休業を命じる社員には最低でも平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。例えば、仕事量の減少や設備機械の不備、親会社の経営不振など、企業経営上当然に予見できるような休業は「使用者の責に帰すべき事由」に該当するため、労働基準法に基づく休業手当の支給が必須です。ただし、経済上の事由で事業の縮小を余儀なくされ雇用調整を行わざるを得ない事業主が、社員に一時的な休業や出向、教育訓練を命じることで雇用を維持した場合は雇用調整助成金を受給できます。
一時帰休を実施する流れ
実施の条件を明確にする
業況の悪化などで社員に一時帰休を命じる場合、まずは実施の条件を明確にしましょう。休業という言葉に不安を覚える社員が出てくることも予想されるため、業績の見通しを立てて社員の理解を得ることが重要です。例えば、売上額などの判断材料をもとに休業を要請する基準を定めたり、一時帰休による業績回復見込みを予測したりすることで、一時帰休開始と休業措置終了の判断基準が明確になります。一時帰休実施の条件を明確にすることで、社員は安心して休業することが可能です。
対象者や実施期間を設定する
会社は法令や労使間合意に従いさえすれば、一時帰休を命じる対象者と実施期間は自由に選択が可能です。ただし、平均賃金の60%以上の休業手当が支給されるとはいえ、給与の減少は社員の生活に大きな影響を及ぼします。また、休業を命じられた社員はモチベーションが低下する恐れもある点に注意が必要です。休業を命じる社員の所得と意欲を維持するため、一時帰休は人件費の削減効果が期待できる最短期間に設定しましょう。また、対象者を選択する際は国籍や性別による差別的な選別を行わないこと、属人性の低い汎用的な業務を担う部署・部門から選ぶことが重要です。
休業手当等の条件を決定する
対象者と実施期間が決まったら、休業期間中の条件を決定しましょう。例えば、休業手当は平均賃金の60%以上を支給するよう定められています。業績悪化による人件費削減を目的とした一時帰休で、60%を超える休業手当を支給することは難しいかもしれませんが、手取り給与が減ってしまう社員の生活が厳しいのも事実です。一時帰休は対象者の復帰を前提とした措置でもあるため、社員の納得を得られる休業手当を支給しましょう。業況が厳しく、どうしても法定額以上の休業手当を支給できない場合は、社員の副業を認めるのも一つの方法です。
一時帰休の実施を社員に説明する
一時帰休の準備が整ったら、社員に条件等を説明し、一時帰休に関する労使協定もしくは労働協約を締結しましょう。一時休業に対して、不安を感じている社員もいるかもしれません。社員の不安を払拭するため、一時帰休の判断基準や実施期間、休業手当の額などの条件を丁寧に説明することが重要です。なお、雇用調整助成金を受給するには、休業協定書として労使協定もしくは労働協約が必要となります。対象者への説明と合わせて、必ず書面で休業協定書を作成してください。
一時帰休を実施する際の注意点
非正規雇用労働者も休業手当の支給対象となる
一時帰休の対象は、雇用形態を問いません。そのため、パートやアルバイトといった非正規雇用の労働者に会社都合の一時帰休を命じた場合は、正規雇用の正社員と同様に休業手当を支給する必要があります。ちなみに、雇用調整助成金の対象となるのは雇用保険の加入期間が6ヶ月以上の従業員です。こちらも雇用形態は問いません。一方、雇用調整助成金の対象ではないことを理由に休業手当を支給しない行為は、労働基準法違反に該当するため気をつけましょう。なお、派遣労働者に一時帰休を命じた場合は、派遣元が休業手当を支払うことになります。
年次有給休暇の取り扱いを決めておく
年次有給休暇は、労務の提供を免除する代わりに、時季を指定して休暇を付与する制度です。そのため、会社は労働義務のない休業期間中に年次有給休暇の取得を認める義務はありません。しかし、一時帰休を実施する前に時季指定、いわゆる有給休暇の取得希望があった場合は、予定通り休暇を与える必要があります。また、有給休暇で支払われる賃金は、一時帰休による休業手当より高額になるのが一般的です。休業期間中に有給休暇の取得を希望する社員と、労使間のトラブルに発展する恐れもあるため、一時帰休を実施する際は必ず年次有給休暇の取り扱いを決めておきましょう。
一時帰休中の副業については柔軟に判断する
一時帰休中は休業手当が支給されるとはいえ、手取りの給与は減少してしまいます。給与の減少を補うため、副業の許可を求める社員もいるかもしれません。一時帰休が会社都合の休業であることを鑑み、社員の希望を尊重する姿勢も大切です。一時帰休を実施する際は社員の生活に寄り添い、副業に関する申請や許可のルールを定めて周知しましょう。その際、一時帰休は一時的なものであり、業績が回復したら通常業務に復帰することを考慮し、副業を選択するよう周知することが重要です。
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まとめ
今回は一時帰休について解説しました。一時帰休とは、業績悪化など会社の都合で雇用を維持したまま一時的な休業を命じることを指します。一時帰休の目的は、仕事量の減少に合わせて人件費を削減することです。一方、会社都合の休業を命じる場合は、休業手当を支給しなければなりません。一時帰休は雇用を維持したまま雇用調整できる手段ですが、休業という言葉に不安を覚える社員が出てくることも予想されます。当記事で解説した注意点などを参考に、社員に不安を与えることなく一時帰休を実施しましょう。