企業は新入社員の入社の際に、身元保証書の提出を求めます。身元保証書には、社員が労働者としてふさわしいことの証明や、社員が企業に損害を与えた際の補償を行う身元保証人の取り決めといった意味合いがあります。今回は、身元保証書の概要や目的、社員の提出義務の有無、身元保証人の責任範囲について解説していきます。
一般に、企業は採用の際に身元保証書の提出を求めることがありますが、その目的としては以下の2点が挙げられます。
このうち、「身元保証に関する法律」によると、身元保証書とは2番目の目的を果たすためのものだとされています。これは決して1番目の目的がないがしろにされているわけではなく、あくまで法律が定める範囲が2番目のものにあたるということです。
身元保証書では、被用者(労働者)のほかに身元保証人を記載します。身元保証人とは、被用者に十分な賠償能力がない場合に、その代わりに企業が賠償請求をする相手となる存在です。被用者の身代わりに身元保証人をたてることで上記の2番目の目的が果たされることとなります。
身元保証人には、被用者本人以外であれば誰でもなることができますが、身内や知人がなる場合が多いです。身元保証人に対してあまりに多大な賠償額を請求しても支払いできないケースがあるため、賠償範囲などについての法的規制が存在します。
なお、「身元保証に関する法律」には、身元保証人に不利益となる取り決めは無効とするという項目があります。そのため、身元保証書の有効期間を10年とするなどといった、企業に有利となるような独自のルールは認められません。
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続いて、身元保証書について法的に定められた事項を説明していきます。身元保証書に関しては、「身元保証に関する法律」によって法的規制が定められています。
身元保証書には有効期間が定められており、書面に何ら記載がない場合は3年間、書面に記載がある場合でも最大で5年間で失効します。また、中には自動で契約が更新されるように記載されているものもあるようですが、法律では一度失効すれば再度契約を結ぶ必要があると定められているので注意しましょう。当然ながら、再契約時の契約期間についても自動では更新されません。
企業は以下に挙げる項目のうちいずれかが起きた際には、身元保証人に対して通知をする義務があります。
このような規定は、要するに、身元保証人が何の前触れも突然企業から賠償請求を受けるという事態を防ぐための措置です。ちなみに、身元保証人は企業から通知を受けると、その後の契約を解除することができますし、万が一通知を受けとらないままこれらを知った場合にも身元保証人はその後の契約を解除することができます。
企業が上記の法的規制を守ったうえで身元保証人に対して賠償請求を行った場合でも、請求ができる時とできない時があります。いくら身元保証人になったとしても、多額の賠償請求を受けてそれに応じられない場合には、裁判所でその責任の範囲を決めてもらうことになります。
「身元保証に関する法律」により、裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任およびその額を定めるとき、以下の4点を考慮して総合的に決めるように義務付けられています。
身元保証書にて契約を交わしているとはいえ、契約成立時点ではどれくらいの賠償額になるかは見当もつかない状態ですので、多額の請求額が通知された場合には、裁判所が情状酌量する可能性もあります。
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ここまで身元保証書の概要や目的について説明してきました。では、労働者が採用時に身元保証書の提出を求められた場合、必ず提出しなければならないのでしょうか。この答えはイエスとなります。企業にとって身元保証書は、被用者が起こしたトラブルによって損害を被った際の保険という立ち位置になるため、身元保証書を提出させることは合理的な判断だといえます。よって、採用にあたって企業から身元保証書の提出を義務付けられた場合、被用者はその提出をする義務があり、これを拒むと入社できないおそれがあります。
ただし、採用時には企業から身元保証書の提出が求められなかったが入社した後になって求められたという場合は、その提出を拒んだからといってクビになることはないようです。こういったトラブルを事前に防ぐためには、就業規則に具体的な処分などについて明文化しておきましょう。こうしておくことで難なく身元保証書を提出してもらえるか、身元保証書が提出されない場合にも懲戒や解雇処分を合法的に下すことができるようになります。ちなみに身元保証書の提出が拒否されたことを理由に解雇する場合には、労働者の責任に帰すべき事由とみなされるため、30日以上前に解雇通達をしなくてもよいとされています。
身元保証書について、法的な観点から解説してきました。法的な観点からいえば、身元保証人が不利になるケースはなく、そのように作られている身元保証書は無効と判断されるでしょう。
身元保証人に対して企業が賠償請求を行う際には、まず企業が身元保証に関する法律を守っているのかということ、それに加えて、重大なトラブルが起こった場合でも身元保証人に対してすべての責任をとらせることは難しいことなどを理解しておきましょう。また、社員に対して身元保証書の提出を義務づける場合には、就業規則に明記しておけばトラブルを避けられます。
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