2013年の改正高年齢者雇用安定法により、希望者が65歳まで働けるようになり、2025年には全企業に適用される見込みです。定年が延長となることで、企業は賃金や労働時間の見直しやモチベーションを維持させるための環境整備、高齢社員の健康意識の向上に取り組む必要が生じます。契約や就業規則の見直しが必要な場合もあるため、早めの対応を心がけましょう。今回は、定年延長の概要や背景、定年延長で起こりうる問題と企業が行うべき対応を解説します。
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記録が残っている日本最古の定年制度は、1887年に制定された東京砲兵工廠の職工規定だといわれています。職工規定では55歳を労働者の定年としており、多くの企業が55歳定年制を導入しました。この55歳定年制は、1994年の改正高年齢者雇用安定法で60歳未満の定年が原則禁止になるまで続きました。
近年、日本では少子高齢化が進み、医療や介護、労働者の確保など、社会生活にさまざまな影響が出ています。政府は2013年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、高年齢者雇用安定法と表記)」を改定し、定年を60歳から65歳に引き上げる法整備を行いました。改正高年齢者雇用安定法は、継続雇用制度の経過措置が終了する2025年4月から全ての企業に適用されます。そのため企業は、「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度(再雇用制度)などの導入」のいずれかを導入しなければなりません。
また、2021年4月には改正高年齢者雇用安定法が施行され、継続雇用や定年引き上げを含めた65歳までの雇用確保の義務化と、70歳までの就業確保の努力義務が規定されています。努力義務となる就業確保の対象としては、以下の5つのうちいずれかを行うよう定められています。
政府が高年齢者の雇用の促進に力を入れる背景には、以下のような日本の現状が影響しています。
2022年4月には、年金制度改正法が施行され、厚生年金の適用範囲の拡大や受給開始時期の自由度向上などが実施されます。高齢者の就業期間が延びていることに合わせて、様々な働き方で年金を受け取れる仕組み作りが行われているのです。
高年齢者雇用安定法による65歳定年制は、2025年4月からすべての企業の義務になります。厚生年金の支給開始年齢は、2013年から3年ごとに1歳ずつ引き上げられており、2025年に65歳となります。同じタイミングで定年を65歳とすることで、政府は、退職と厚生年金受給の間の収入のない期間をなくそうと考えているのです。
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65歳定年制の義務化により、高年齢労働者の賃金設定や賞与について、また給与の財源など、企業を悩ませるさまざまな問題が起こることが予想されます。
たとえ65歳まで業務を続けられたとしても、高年齢者が今までと同額の給与を受け取ったり役職に就いたりできる保証はありません。「給与が下がった」「役職に就くことができない」といった理由から、高年齢者の仕事への意欲が薄れてしまうことが考えられます。また、高年齢者の賃金や待遇に不満を持つ人や、高年齢者をどう扱うべきか悩む労働者も出てくるでしょう。
60歳を過ぎても、元気ではつらつとした高年齢者は大勢います。しかし、若い頃に比べて体調を崩しやすくなった、体力が落ちた、集中しにくくなったなど、年齢を重ねるごとに不調が出てくる高年齢者もいます。持病で通院中という人もいるでしょう。このような健康状態の不調によるミスや事故のリスクを企業は認識し、対応策を考えなくてはいけません。
定年延長で高年齢者の雇用を継続する場合、基本的に新たな雇用契約を結ぶ必要はありません。しかし、労働条件などに変更があるときは、新しく雇用契約を結んで雇用契約書や労働条件通知書を作成する必要があります。
企業は、同じ業務に従事する労働者全員が納得できるような賃金制度について考える必要があります。「現状の賃金制度を維持する」「高年齢者に対する新しい賃金制度を適用する」「全労働者に対して成果を重視した賃金制度を適用する」など、企業の業務内容や環境に合う賃金制度を考えましょう。
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健康寿命の延伸や少子高齢化の進展に伴い、60歳になってもまだまだ現役という人が日本では多くなっています。年金や老後に不安があるという人も増えており、できることなら長く働きたいと考える高年齢者も多くいるでしょう。高年齢者雇用安定法の改正で、60歳だった定年が65歳になり、さらに70歳まで延長される可能性がある今、企業に求められるのは変革なのかもしれません。
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