法人税法上で定められる役員に対して支払われる報酬は、通常の従業員給与と異なり、一定の要件を満たしていなければ損金算入が認められません。そのため、法人税額を少なく資金繰りを楽にするためには、役員報酬の額を適正に定める必要があります。今回は役員報酬を決める際の注意点や、決定・変更の手続きや時期、また平成29年度税制改正における役員報酬制度の変更点について解説します。
役員報酬の決め方
会社法において、役員報酬の決める際に必要となる手続きは、以下の2種類の方法とされています。
なお株主総会で決議する事項は、以下の通りです。
- 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
- 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
- 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
加えて、株主総会の決議の際には、役員報酬の変更や税務調査の際に確認されることがあるため、議事録を作成しておく必要があります(合同会社の場合は同意書)。
役員報酬を変更する場合
役員報酬は原則として、事業年度開始日から3か月以内に変更します。通常それ以降に変更した場合は、役員報酬を損金に算入できなくなってしまいます。ただし、以下にあてはまる場合、変更後も役員報酬の損金算入が認められています。
- 特別な事情があると認められた場合
定時総会が3か月後でなければ開催できない場合が該当します。
- 職制上の地位の変更等
昇格及び降格や、合併等による組織再編成の場合、また不祥事等による役員報酬の一定期間減額などのケースが該当します。
- 経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じた場合
定期同額給与の額を改訂することができます。
このように、役員報酬を損金算入するには報酬額の決定時期の制約があるため、しっかりとした利益計画を立てた上で、役員報酬を決定することが重要です。
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役員報酬を損金算入するには?
法人税法上、役員報酬は原則として一定の範囲内のみが損金算入を認められています。具体的には以下に示す、定期同額給与、事前確定届出給与及び利益連動給与を満たす部分について、損金に算入することが可能です。ただし、これらに関しても不相当に高額な場合は損金算入されない場合があるため、金額の設定には注意を払う必要があります。
- 定期同額給与
支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとで、かつ事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
- 事前確定届出給与
事前に支給額を確定し、その決議日から1ヶ月もしくは会計期間開始から4ヶ月のうち早い日までに、所轄税務署長に対して事前確定届出給与の内容を届けていた場合
- 利益連動給与
利益の状況にもとづいて客観的に給与額が算定される利益変動給与のうち、利益を示す指標が確定した1ヶ月以内に支払われる見込みである等の条件を満たすもの
平成29年度税制改正における役員報酬制度の変更点
コーポレート・ガバナンス改革、事業再編の環境整備として、平成29年度税制改正において、役員給与に係る税制の整備が行われました。会社の株価や中長期的な業績を反映した役員給与制度の環境整備として、役員報酬の損金算入対象が拡大されるなど、以下に示す部分が見直されています。
- 利益連動給与の算定指標の範囲について
給与額の算定のベースとなる指標について、株式の市場価格の状況を示す指標及び売上高の状況を示す指標(業績連動指標)が加わりました。さらに、当該事業年度後の事業年度または将来の所定の期間の指標を用いることができるようになりました。
- 業績連動指標に関する変更点
会社の利益の状況を示す指標や、上記で追加された業績連動指標に基づいて算定される市場価値のある株式を交付する給与が、利益変動給与の範囲に含まれることとなりました。また、業績連動指標に基づいて算定された数を限度とする、もしくは行使できる新株予約権による給与も利益変動給与の範囲に含まれることとなります。
- 事前確定届出給与についての見直し
所定の時期に確定した数の株式を交付する給与が損金算入可能となり、また、一定の新株予約権による給与について、事前確定の届出が不要となりました。一方、譲渡制限付株式による給与が損金算入の範囲から外れることとなりました。
- 定期同額給与の損金算入範囲に、税及び社会保険料の源泉徴収等の後の金額が同額である定期給与が加わりました。
- 譲渡制限付株式又は新株予約権を対価とする費用は、原則として譲渡制限が解除されることが確定した日の属する、事業年度の損金に算入されることになりました。
まとめ
会社の法人税を少なくするには、役員報酬を損金算入することが大切です。しかし、損金算入できる役員報酬には制限があり、さらに、平成29年度税制改正において損金算入できる範囲に変更があったため、注意が必要です。なるべく多くの役員報酬を損金算入することによって、資金繰りを楽にしましょう。