法定雇用率とは、障害者の雇用について、企業が一定の割合以上を雇用することを法律で定めたものです。日本では、障害者雇用者全体数に対する法定雇用率が2.3%と定められていますが、2023年1月に厚生労働省は、さらなる雇用率の引き上げの方針を発表しました。しかし、障害を持つ従業員の定着率は低く、今後中小企業が引き上げられる法定雇用率を満たすためには、適切な対策を行う必要があります。今回は、法定雇用率について現状での課題や雇用率を上げるためのポイント、具体的な対策について解説します。
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障害者雇用率制度とは、障害者雇用促進法に基づき、障害者が一般の労働者と等しく働くことのできる機会を保障する制度です。障害者が社会に出て働くことは、持てる能力を発揮して自立し、社会参加するための重要な契機となります。そのため企業には、全従業員の数に対して一定の割合(障害者雇用率=法定雇用率)の障害者を雇用することが義務づけられています。
現在の法定雇用率は、2021年3月に引き上げられて以来2.3%です。雇用義務の対象となる人数は小数点以下が切り捨てられるので、従業員数43.5人以上の企業が現実に雇用義務を負っていることになります。
しかし、法定雇用率を満たしている企業は伸びているものの48.3%(2022年)とまだ約半数にとどまっています。残りの約半数は障害者雇用納付金制度で納付義務を負っているのが現状です。また企業規模別でみると、従業員数1,000人以上の企業では法定雇用率達成が60%を超えるのに対し、1,000人未満の企業では50%を下回る結果となり、障害者受け入れの進み具合は企業規模による違いが表れています。
そうした現状のなか、障害者雇用促進法は2024年4月には2.5%、2026年7月には2.7%とする法定雇用率のさらなる段階的引き上げを決定しました。精神障害者が雇用義務の対象となった2018年にそれまでの2.0%から2.2%に引き上げられて以来、法定雇用率の加速度的な引き上げが続いています。障害者の就業に対する政府の支援強化の姿勢が表れています。
法定雇用率の新たな引き上げにより、雇用義務を負う企業の規模は2024年4月に従業員数40人以上、2026年7月に従業員数37.5人以上となり、中小企業を対象に大幅に増えることが予想されます。
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大企業では障害者雇用の経験も長くノウハウの蓄積がありますが、中小企業では初めて障害者雇用を行う場合もあり、障害者に接する経験が乏しいことも多いでしょう。どのように採用活動を進めればよいか、障害を持つ従業員にどのような仕事を割り当てればよいかわからないといった多くの課題が生じます。障害者雇用のノウハウ不足が、中小企業で障害者雇用が進まない原因となっています。
障害者に対する正しい認識が社内で共有されないことが、障害者雇用を阻む要因になっているケースがあります。障害者雇用を進めるには経営者の意思決定が必要ですが、障害者とともに働く現場従業員の理解も欠かせません。社内の理解が不足していると、障害者を採用しても現場に負担感が生まれたり、障害を持つ従業員に対して適切な配慮を払うことが難しくなったりします。まずは、障害者に対する社内の理解を深めることが大切です。
障害者職業総合センターが2017年に公表した調査によると、障害者の就職1年後の職場定着率は、企業への就職の場合で58.4%となっており、障害者の職場定着の難しさがうかがえます。現在採用が増えつつある精神障害者に限ると、さらに定着率は49.4%と低くなります。障害者の採用にこぎつけても定着せず離職の多い現状が、法定雇用率達成を阻む一つの要因です。
まず採用のチャンネルを複数持つことが考えられます。ハローワークを通した求人が一般的ですが、障害者雇用のノウハウを持った人材紹介会社の利用や、特別支援学校や就労移行支援事業所に直接アプローチして求人を出すことも有効です。
また、障害者雇用には職場実習の制度があります。採用する前に仕事を体験してもらうことで、ミスマッチなく定着できる求職者を選考へと繋げることができるでしょう。
障害者を雇用し安心できる職場で円滑に働き続けてもらうには、障害者についての正しい理解や必要な配慮を、研修などを通して社内に広めることが必要です。障害について知るための研修や勉強会などは、障害者雇用に関わるさまざまな公共機関で開催しています。障害に関する社内の理解を深めることで、障害者である従業員が安心して長く円滑に働ける職場を実現することができるでしょう。
障害者を雇用し、定着を促すための資金面の公的支援として助成金制度があります。介助の必要な障害者を雇用するために費用の一部を補助する「障害者介助等助成金」、職場定着に課題を抱える障害者に寄り添うジョブコーチの派遣・配置を支援する「職場適応援助者助成金」、障害者の職場定着を促すために雇用の安定化を図った場合に支給される「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)」などが例にあげられます。
障害者雇用率制度が設けられた1976年当時の法定雇用率は1.5%でした。2.0%に引き上げられたのは2013年です。さらに精神障害者が対象に加わることで、法定雇用率は現在急速に引き上げられています。2026年に2.7%になる頃までには、これまで以上に多くの中小企業が障害者の雇用義務を負い、重要な社会的責任を負うことになります。今後もさらにダイバーシティ&インクルージョンの機運が高まっていくことが予想されます。企業においては障害者の社内理解を促進し、一戦力として円滑に受け入れ、法定雇用率を達成していくことが望ましいといえるでしょう。
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