感情労働とは近年注目されている概念で、同じ分類には肉体労働や頭脳労働があります。感情労働の多くは接客業で、相手の感情をポジティブな感情へ導くために自身の感情をコントロールします。そのため一般的な労働と比べ精神的な負担が大きく、メンタルヘルスに関する不調が引き起こされやすいといわれています。今回は感情労働の定義と増加する背景や感情労働が多い職種、感情労働の問題点、従業員のメンタルヘルスケアについて解説します。
目次
感情労働について
感情労働の定義
感情労働は、業務を行ううえで、感情の抑制や緊張、そして忍耐といったコントロールが必要な労働を指します。感情労働が必要な職種では、顧客に不満を感じさせず、満足感を得てもらうことを目指し、厳格な接客ルールに従って、「その職業におけるプロとしての振る舞い」を徹底しなければなりません。感情労働という言葉は、社会学者のA・R・ホックシールドによって提唱され、「公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行う感情の管理」と定義されています。当初、感情労働の典型として表されたのは、航空機の客室乗務員でしたが、現在で は、ファストフードの販売担当者、コールセンターの対応員、企業のクレーム処理担当者など、さまざまな分野で感情労働は広がっています。
感情労働が増加する背景
感情労働が増加する背景には、第3次産業に従事している人口の増加があります。第3次産業には、金融・情報通信、卸売り、小売りなどが含まれます。第3次産業の規模は、1920年に全産業の23.7%でしたが、2010年には66.5%と、急激に上昇しました。さらに、顧客満足度を重要視する企業も増えていることに加え、SNSなどの発達により、顧客が意見や不満を容易に発信できるようになったことで、トラブルやクレームを恐れた企業が、より高度な感情労働を従業員に求めるようになったことも一因です。
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感情労働が多い主な職種
サービス業
サービス業は、お客様との接触が不可欠であり、感情労働が多い代表的な職種です。サービス業には飲食業や販売業、美容師、宿泊業など数多くの仕事が含まれており、私たちの普段の生活には欠かせません。
営業職
営業職は、商品の印象を良くし、お客様の購買意欲を引き出すなど、感情労働が必要な職種です。営業では自分の感情を巧みにコントロールして成果に結びつけなくてはならないため、高度なスキルが求められます。
教師
多くの生徒の前に立って学業を教える教師も多くの場面で感情労働をしています。生徒は先生の細かい変化にも気づくので、感情を適切に管理しなければなりません。また、ときには敢えて怒りの感情を表に出す指導も必要なため、感情のコントロールに関して、負担の大きい仕事です。
医療従事者
病気の治療には患者への精神的なサポートも大切なため、医療従事者も感情労働が必要な職種です。医療技術の提供のほか、患者の不安や悩みに耳を傾け、安心させるための声掛けなどが必要とされます。
感情労働の問題点
ストレス負荷が大きい
感情労働をする職種においては、自分の感情をコントロールし、基本的にいつも穏やかで、感情的にならない対応が求められます。そのため、仕事中は常に気が抜けず、大きなストレスを抱えている従業員も少なくありません。また、顧客の中には、クレーマーや、隷属的対応を求めるタイプもいるため、従業員が理不尽な状況下におかれるケースもあります。そのような場合も不満を表に出さず、業務を継続しなければならないため、感情労働はストレス負荷がとても大きい仕事といえるでしょう。
バーンアウトの恐れ
感情労働をする職種では、業務に忠実で、情熱や信念をもって取り組む人ほど、許容値以上のストレスを抱えてしまう傾向があります。そのような場合、バーンアウト状態に陥るリスクに注意しましょう。バーンアウトとは、燃え尽き症候群を指し、身体的、精神的な疲労の蓄積によって活力が奪い取られ、疲れ果ててしまう状態です。仕事への意欲が激減し、今まで対応できた仕事もスムーズにこなせなくなります。バーンアウトの兆候には、いつもより元気がない、食欲の低下、人との会話を避けるといった、メンタルヘルス不調に関連する状態が見られます。
仕事への満足度の低下
ストレスフルな日々が続くと、仕事への満足度も低下してしまいます。ストレスはメンタルヘルス不調の大きな要因であり、正しいケアができていないと体や気持ちにさまざまな異変が生じ、仕事へも悪影響を及ぼします。たとえば、興味や意欲が低くなれば仕事へのやる気も下がり、食欲がなくなり睡眠時間も短くなれば、出勤する気力も低下するかもしれません。元気に働いていた頃に比べて、仕事の成果も出にくくなるため、一層ストレスが増大し、悪循環に陥ってしまうでしょう。このような状況にある従業員に対し正しいケアをしなければ、最悪の場合、休職や離職にも繋がってしまうため、従業員へのメンタルヘルスケアの徹底は重要です。
従業員へのメンタルヘルスケア
ストレスチェック制度の導入
ストレスチェック制度とは、定期的に従業員のストレス状況について検査する制度です。従業員が50人以上いる企業では、2015年12月から毎年1回、すべての従業員に対して実施することが義務付けられています。ストレスチェックの結果、①医師に高ストレス者と判断され、②医師との面接指導を希望する従業員には、産業医による面接指導を受けさせる必要があります。
また、ストレスチェックの結果データを参考に、医師の助言を求めたり、企業側で仕事を軽減したりするなど、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ対策をしましょう。
メンタルヘルス教育の実施
企業におけるメンタルヘルスにおいて、とても重要なのが「4つのケア」です。
- 従業員一人ひとりによるセルフケア
- 企業の管理職によるラインケア
- 事業所内の産業保健スタッフによるケア
- 社外の専門機関によるケア
上記のうち、セルフケア、ラインケアに関しては、社内での教育を実施することが望ましいでしょう。従業員や管理職の、メンタルヘルスに関する認識について、できるだけ統一できるような仕組みづくりが重要です。
- セルフケア研修に取り入れる内容
- メンタルヘルスケアに関する事業場の方針
- セルフケアの重要性
- ストレスに気付く方法
- ストレスの軽減、 対処の方法
- ラインケア研修に取り入れる内容
- 管理監督者の役割、適切な態度
- 従業員への対応の仕方(聞き方、話し方、助言の仕方など)
- 復職者(心の健康問題による休職者)への支援の仕方
- 産業医や外部支援者との連携方法
- 従業員の個人情報(健康問題を含む)の保護
相談できる環境の整備
従業員が、心の変化を相談できる体制を整備しましょう。管理職やチームメンバーとの定期的なコミュニケーションの場を設けるとともに、従業員のメンタルヘルス不調を発見したら、すぐに社内の産業保健スタッフや産業医と連携できる仕組み作りが必要です。また、感情労働が必要な職種においては、顧客サービスをするうえでのストレスや、理不尽な状況があっても、受け入れるべきという考えの従業員も多いです。従業員が勇気を出して相談しても、適切な対応が取られないことも考慮し、相談窓口を、管理職やチームメンバーとは関係のない、第三者的なポジションに設けておくことも効果的です。
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まとめ
感情労働は、その職種に就くうえでは当然受け入れるべきものと認識されがちですが、自らの感情を表に出さず、その職種に求められる振る舞いを継続することは、人間の本質的な部分にとっては不自然な状態といえるでしょう。感情労働がストレスの原因になるということを、企業は改めて認識し、従業員のメンタルヘルスケア対策について見直すことが大切です。