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割増退職金とは?退職制度導入の注意点を解説

割増退職金とは、希望退職者や早期優遇退職者に対して、所定の退職金に上乗せして支払われる退職金のことです。割増退職金制度を導入することで、人員削減をしなければならない場合にも、従業員が退職勧奨に応じやすくなるといったメリットがあります。今回は退職勧奨や割増退職金の意味、割増退職金を導入するメリット・デメリット、早期退職優遇制度を導入する際の注意点について解説していきます。

割増退職金制度を導入する企業が増えている

割増退職金とは

割増退職金とは、通常の退職金額に加えて支給される退職金をいいます。一般に、早期退職優遇制度などの適用により、本来の定年時期よりも早めに退職する者に対し、優遇措置として導入されます。このように、割増退職金には、定年まで勤めあげるはずの従業員が早期に退職することで得られなかった分の退職金を、補填する役割があるのです。そのため、割増退職金の支給額は、勤続年数や退職時の年齢、企業の業績により変動します。

そもそも退職金の役割とは

退職金は、従業員が退職した後の、老後の所得保障としての意味を持ちます。一般に、長期勤続者ほど支給率が有利になっていることから、従業員の長期勤続を促進するためのインセンティブ的な役割もあると考えられています。退職金には、一時金方式と企業年金方式がありますが、現在の日本企業においては一時金方式が一般的です。これは、長年に渡って醸成されてきた日本の企業文化が関係しているといえるでしょう。つまり、企業と従業員間の家族的な信頼関係を前提とした、雇い主の温情や、功労の意味を持つ給付として、退職金制度は日本に定着してきたのです。また、安定的な終身雇用を維持するための施策としても、退職金制度は、重要な役割を果たしてきました。

割増退職金の導入が増える背景

少子高齢化によって生じた人口バランスの偏りは、そのまま労働力層の年齢分布に影響しています。そのため、55歳以上の高年齢労働者が増加する一方で、若年労働力の確保に苦戦する業界や企業は少なくありません。このような労働力不足に対する打開策の一つとして、2021年4月には、高年齢者雇用安定法が改正されました。65歳未満の定年の禁止義務や、70歳までの就業機会確保の努力義務など、高年齢者が長く働き続けられる仕組みづくりが急がれています。
しかし、業績不振や事業縮小の際には、将来的に人員を整理しなければならない状況が生まれます。また、高年齢労働者の活用とはいっても、定年前の数年間は、昇進などの機会も少なく、キャリアの「消化試合」的な働き方になってしまう従業員は少なくありません。かつてのように55歳定年時代ならばまだしも、今後のように「70歳まで」このような働き方を、全ての労働者にさせる余裕は、今の企業にはないということでしょう。結果として、高年齢労働者の早期退職が、組織にとってプラスに働くと判断する企業は増加しています。このような背景から早期退職を促す目的で、割増退職金制度を導入する企業は少なくありません。

   

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割増退職金を導入するメリット・デメリット

上述のように、割増退職金制度を使って、うまく早期退職者を募ることができれば、無理なく人員整理ができます。また、退職する従業員も、本来の退職金よりも多めの金額を得られるため、企業と従業員ともに多くのメリットを享受することができます。ここでは、割増退職金制度のメリット・デメリットを整理してみましょう。

メリット

  • 企業
    割増退職金制度の一番のメリットは、人員整理のトラブルが少ないことでしょう。従業員の解雇は、合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、基本的に不可能です。経営不振を理由とする整理解雇の場合であっても、厳しい要件をクリアしなければなりません。割増退職金制度は、決して少なくない金額ではあるものの、これらの法律上の規制を迂回し、円滑に人員整理ができるためメリットが大きいといえます。
  • 従業員
    割増退職金は、受け取る従業員側にとっては、これまでの知識や経験を活かした新たなキャリア形成の準備金という見方もできます。このまま安定志向で会社に残っていたほうが良いのか、定年前に新しいことに挑戦しなくて良いのか、と悩んでいる従業員には、割増退職金制度は大きなメリットがあるでしょう。

デメリット

  • 企業
    早期退職優遇制度は、将来的な人件費の削減につながります。しかし、一度に多くの従業員が退職し、割増退職金を支払う場合、短期的な支出は大きくなります。さらに、いくら事業戦略にもとづく人員整理とはいえ、大規模なリストラは、内外にネガティブな印象を与える可能性は否定できません。企業ブランドイメージを損わないよう、慎重に行う必要があります。また、企業の意に反して、まだまだ活躍してほしい有能な人材が早期退職してしまう可能性もあるため注意が必要です。
  • 従業員
    一般に退職金は、日頃手にすることがない大きな金額なので、つい気持ちまで大きくなりがちです。目先の金額に惑わされず、退職後の人生設計をしっかり考えておかなければなりません。また、これまでのキャリアを活かせば、同程度の年収の仕事に転職できると、安易に考える人は多いものです。しかし、思い通りの転職は必ずしもできる訳ではないことを肝に銘じておきましょう。転職先が決まらなかった時の生活費、年金などを計算した上で選択したほうが賢明です。

    

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退職制度を導入する際の注意点

正確な情報を周知する

早期退職優遇制度は、制度自体はわかりやすく認知される場合が多いですが、条件面などでトラブルがない訳ではありません。制度の詳細について、従業員によく周知し、勘違いや間違いがないようにしましょう。特に気を付けるべきは以下の点です。

  • 割増退職金の支払いは、企業側の承認を必要とすること
    神奈川信用農業協同組合事件では、企業側の都合によって早期退職希望制度による割増退職金の支払いが認められなかったケースについて争われましたが、労働者側が敗訴しています。もちろん、定年前の退職は従業員の自由ですが、割増退職金を支払うかどうかは、企業の承認が必要です。この規定をもとに、優秀な人材に対しては引き留めを行うことは違法ではないとされています。
  • 早期退職優遇制度に応募する場合、応募の条件を満たすこと
    制度の適用対象年齢などの応募資格を満たさずに退職した場合は、割増退職金の支払いは適用されません。
  • 割増退職金の金額などで労働者を平等に扱う義務がないこと
    従業員によって割増退職金の加算額に差があったり、あとから企業がより有利な優遇制度を設けたりしたからといって、企業に差額支払責任はないとされています。また、早期退職を決断するための情報(企業運営の今後の見通し)なども提供する義務はありません。

ほかにも、懲戒処分事由がある場合や、競業会社に転職する場合には、割増退職金制度を適用しなくても違法ではないとされています。

再就職を斡旋する

一般的に、早期退職優遇制度の対象となるのは、中高年以上の世代が多いです。セカンドキャリアへの挑戦を夢見て早期退職する人ならば良いとしても、年齢がネックとなって再就職が難しい人は少なくないでしょう。高年齢者雇用安定法第9条では、定年年齢を65歳未満としている事業主に対し、高年齢者雇用確保措置として、再雇用制度や勤務延長制度を実施することを義務としています。早期退職の場合、この義務が課せられる訳ではありませんが、従業員が希望した場合は、企業として出来る限りの支援をしたいものです。
例えば、嘱託としての再雇用や、子会社での雇用などの選択肢があると良いでしょう。

  

まとめ

終身雇用制度にもとづく年功序列を重視する、「日本型」の企業組織の目指す姿は、キャリアを積んだ有用な高年齢人材を多数輩出することでした。しかし、実際のところ、定年まで企業に必要とされる人材はそれほど多くなかったということが、昨今の大企業の人員整理のニュースからも伺い知れます。
また、雇用の流動化が進んだことで、長期勤続のインセンティブ的役割である退職金制度は、従業員に対しての訴求力を低下させているともいえます。大きく変化する経済社会のなか、凝り固まった日本型組織の変革を促すのが、早期退職優遇制度にもとづく割増退職金といえるでしょう。企業はメリット・デメリットを良く理解し、適切な運用をしましょう。

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