企業経営では、会社の業績不振や従業員の勤務成績不良などにより、どうしても従業員を解雇せざるを得ない場面が発生します。しかし、解雇は労働者の生活に多大な影響を及ぼすことから、解雇事由や解雇手続きについては様々な規制が設けられています。
今回は、解雇に関する法的規制や解雇にあたって必要な手続き、解雇トラブルを防止するために注意すべきポイントについて解説します。
目次
解雇に関する基本的な考え方
解雇に関する基本的な考え方として、労働契約法では、以下のような規定を設けています。
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
すなわち、労働者を解雇するためには相応の理由が必要であり、合理的な理由なく解雇することは法律上認められません。
解雇規制について
労働契約法の規定とは別に、個別の法律で解雇事由の制約をしているものもあります。解雇規制としては下記のようなものがあり、これらの解雇は法的に認められません。
◯労働者の国籍、信条または社会的身分を理由とした解雇
◯労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間の解雇
◯女性労働者の産前産後休業期間の解雇
◯性別を理由とした解雇
◯女性労働者の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業の請求等を理由とした解雇
◯労働組合員であることや労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇
◯労働基準法違反等について労働基準監督署等へ申告したことを理由とする解雇
解雇の種類
解雇の種類としては、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類があります。
普通解雇
普通解雇は、整理解雇および懲戒解雇以外の解雇のことをいいます。一般的に、単に「解雇」という場合は、普通解雇のことを指すことが多いでしょう。
普通解雇は、労働契約の継続が困難な事情があるときに限って認められます。労働契約の継続が困難な事情としては、例えば、①勤務成績が著しく悪く、指導を行っても改善の見込みがないとき、②健康上の理由で、長期にわたり職場復帰が見込めないとき、③著しく協調性に欠けるため業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないときなどが挙げられます。
整理解雇
整理解雇は、会社の経営悪化などにより人員整理を行うための解雇のことをいいます。整理解雇を行うためには、以下の4つの要件をすべて満たすことが必要です。
①整理解雇することに客観的な必要があること
②解雇を回避するために最大限の努力を行ったこと
③解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
④労使間で十分に協議を行ったこと
懲戒解雇
懲戒解雇は、従業員が極めて悪質な規律違反や非行を行ったときに懲戒処分として行うための解雇のことをいいます。懲戒解雇を行うためには、就業規則や労働契約書にその要件を具体的に明示しておくことが必要です。
解雇にあたって必要な手続き
従業員を解雇するだけの合理的な理由があったとしても、それをもって直ちに解雇ができるわけではありません。解雇を行うにあたっては、適切な手続きを踏むことが必要です。
解雇事由の明示
まず、就業規則と労働契約書に、どんな時に解雇されることがあるかという解雇事由をあらかじめ明示しなければなりません。したがって、自社の就業規則に具体的な解雇事由が記載されていない場合などは、あらかじめ就業規則の改訂等を行っておく必要があります。
また、就業規則や労働契約書に解雇事由が明示されていたとしても、先述のとおり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には解雇が無効とされるので注意が必要です。
解雇予告
従業員の解雇を行うときには、解雇しようとする従業員に対し、30日前までに解雇の予告を行う必要があります。または、解雇の予告を行わずに解雇する場合には、解雇予告手当として最低30日分の平均賃金を支払わなければなりません。
解雇予告の日数が30日に満たない場合は、その不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。例えば、解雇日の7日前に予告した場合は、平均賃金の23日分を解雇予告手当として支払わなければなりません。
なお、以下に当てはまる労働者には解雇予告の規定が適用されませんが、カッコ内の日数を超えて引き続き働くことになった場合は、解雇予告をしなければなりません。
◯日々雇い入れられる者(1ヶ月)
◯2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(その契約期間)
◯季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者(その契約期間)
◯使用期間中の者(14日間)
解雇トラブルを防止するために
解雇は労働者に多大な影響を与えることから、法的に必要な手続きを踏んでいたとしても、トラブルが起こってしまう恐れがあります。解雇トラブルを防止するためには、以下のような対応を行っておくことが望ましいといえるでしょう。
解雇予告通知書の交付…解雇予告を行う場合
解雇予告は口頭でも有効ですが、口約束で済ませた場合、後々のトラブルの原因となってしまう可能性もあります。
トラブル防止のためには、「解雇予告通知書」を作成し、書面により解雇予告を行うことが望ましいといえます。解雇予告通知書には、対象者の氏名や解雇日、解雇理由、解雇予告通知日等を記載するようにしましょう。
なお、労働基準法の規定により、労働者から作成を求められた場合は、解雇理由を記載した書面を作成して本人に交付しなければなりません。
解雇予告手当支払通知書の交付…解雇予告を行わない場合
解雇予告手当を支払うことによって即時解雇を申し出る場合には、「解雇予告手当支払通知書」を交付することが望ましいといえます。解雇予告手当支払通知書には、対象者の氏名や解雇日、解雇予告手当の支払期日、支給額と計算方法、支払方法等を記載するようにしましょう。
解雇予告除外認定について
「従業員の責に帰すべき理由による解雇の場合」もしくは「天災地変等により事業の継続が不可能となった場合」には、例外的に解雇予告が不要となります。ただし、この場合は、事前に労働基準監督署長から「解雇予告除外認定」を受けることが必要です。
「従業員の責に帰すべき事由」として解雇予告除外認定の申請をした場合、労働基準監督署は、従業員の勤務年数や勤務状況、地位や職責を考慮し、以下のような基準に照らして認定するかどうかを判断します。
◯会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
◯賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為により、他の従業員に悪影響を及ぼす場合
◯採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
◯他の事業へ転職した場合
◯2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
◯遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合
解雇予告除外認定が受けられなかった場合は、解雇予告などの一般的な手続きに従って解雇を行うことが必要です。
まとめ
従業員の解雇は、適法に進めていくことが必要です。労使間のトラブルを起こさないためにも、解雇に必要な手続き等をあらかじめ把握しておくようにしましょう。
なお、解雇の事由など退職に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項であり、就業規則に必ず記載しておかなければなりません。
就業規則の作成方法については、以下のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
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