カスタマーハラスメントとは、取引先や顧客からの悪質なクレームや不当な要求を指します。略して「カスハラ」と呼ばれることもあります。クレームと混同されやすいカスタマーハラスメントですが、従業員の大きなストレス要因にもなりかねません。対策せずにいると従業員の離職原因や、安全配慮義務違反となってしまう可能性があります。今回はカスタマーハラスメントの内容、クレームとの違い、企業がとるべき対策について解説します。
目次
カスタマーハラスメントが問題になっている
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先等からの悪質なクレームや不当な要求などの著しい迷惑行為を指します。そもそもクレームは、商品やサービスに不満を抱いた消費者が、会社や店舗にその内容を訴えることです。消費者の意見を知り、サービスの向上の手がかりになるという意味では、誠実に対応するのが基本といえます。しかし、あまりにも過度な内容である場合、業務妨害や従業員のストレス要因になりかねません。悪質な行為には、カスタマーハラスメントとして毅然とした対応をしていくことが必要です。
カスタマーハラスメントが増加した背景
カスタマーハラスメントに関する報告は近年増加の一途をたどり、問題の深刻さが浮き彫りとなっています。増加の要因の1つは、高い品質のサービスを提供しようという企業の努力が、当然のものとして捉えられていることです。また、企業ごとにサービスの内容や水準は異なります。しかし、それを理解せず、顧客側の「こうあるべき」という思い込みから悪質な要望の押し付けに繋がる場合があります。
クレームとの違い
カスタマーハラスメントとクレームの違いは、不当で過大であるかという点です。謝罪として土下座や解雇を要求する、他社の製品や実現不可能な内容を要求するケースも存在します。その内容によっては、法律に違反する可能性があります。要求の方法には、以下の通りいくつかのパターンがあることが特徴です。
- 従業員を長時間拘束し、業務を妨害する長時間拘束型
- 不合理な要求をメールや電話で繰り返し行うリピート型
- 店頭、電話、メールなどで暴言を吐く暴言型
- 店舗や従業員に加害予告をして怖がらせる威嚇・脅迫型
カスタマーハラスメントの悪影響を整理しよう
従業員の健康を損なう
まず、カスタマーハラスメントは従業員の健康を損なう可能性があります。UAゼンセンが2017年に行った迷惑行為に関する調査では、以下の結果が発表されました。
- 迷惑行為により、メンタルヘルスに何かしらの影響を受けた人は90%以上
- 長時間拘束されるなど、対応が長くなるにつれてストレスを感じる割合が多い
- 離職のハードルが比較的高い正社員ほど、強いストレスを感じている
カスタマーハラスメントは従業員の健康を損なうだけではなく、従業員の離職原因にもなりえます。離職者が多くなれば採用や教育コストも発生するため、従業員個人の問題と片づけることはできません。
安全配慮義務に違反する恐れがある
労働契約法第5条では、従業員への安全配慮義務が定められています。また、2019年6月の労働施策総合推進法等改正により、職場におけるパワーハラスメント防止措置が義務化されました。顧客等からの著しい迷惑行為が認められた場合、事業主には速やかな対応が求められます。カスタマーハラスメントを受けた従業員がいるにも関わらず、改善を図らない場合、安全配慮義務違反とみなされる可能性があるのです。
ブランドイメージが低下する
これまでカスタマーハラスメントは、直接従業員に行われる行為がほとんどでした。しかし、SNSの普及により、匿名で悪評を発信し拡散する行為へと変化しています。企業に対する悪評を広め、ブランドイメージを低下させる目的です。しかし、店舗内でのカスタマーハラスメントも、店内の雰囲気を悪化させ他の顧客に悪影響を及ぼします。
カスタマーハラスメント対策をしよう
カスタマーハラスメントは、従業員にも企業にも悪影響を及ぼすものです。厚生労働省は2022年4月、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルを公表しました。組織的な対策を立てて実行することが求められています。重要なのは個々の従業員対クレーマーではなく、企業や店舗として組織的に対応に当たるということです。
マニュアルや対応フローを作成する
取り組みやすい対策のひとつは、マニュアルや対応フローの作成です。あらゆるクレームがカスタマーハラスメントに該当するわけではありません。不当・悪質なクレームに対してはカスタマーハラスメントとして対処すべきですが、その線引きを一律に決定することは困難です。どこからがカスタマーハラスメントに該当するのか、実情に即して判断基準を定めることが重要になります。マニュアルやフロー化することでどの従業員であって対応可能となり、精神的負担の軽減に繋がります。
研修を実施する
研修などを通じて、積極的に対応の知識やノウハウを共有する方法も有効です。適切な対応を学習し、過去のカスタマーハラスメントの内容や対応を共有しておけば、類似した事例が発生した際に一貫した対応が実現できます。
相談窓口を設置する
また、組織的な対応という観点から、相談窓口の設置も効果的です。従業員個人任せにするのではなく、上長や専門部署に相談する環境が重要です。上長への報告や組織全体での対応は、カスタマーハラスメントへの牽制として働きます。また、カスタマーハラスメントに関する相談を、従業員の人事評価においてマイナス要因としないことも必要です。相談をマイナス評価要因とすると、相談できず個人的に抱え込んで事態を悪化させることになりかねません。
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まとめ
クレームは商品やサービスに対する期待の表れでもあるといえ、それ自体が悪いものではありません。しかし、中には不当で過大な内容が見受けられる事態が発生しています。店舗や企業の業務遂行を妨げたり、従業員の心身を危険に陥らせたりする事例は、カスタマーハラスメントとして社会問題となりました。法令や制度面においても対策が強化されるなど、重大な問題と捉えられています。こうしたカスタマーハラスメントへの対処は、従業員個人に任せて良いものではありません。対応マニュアル作成や研修を通じて、従業員個人ではなく企業や店舗として組織的に一貫した対応が出来るようにすることが重要です。