内容証明郵便とは、「いつ」「誰が」「誰に」「どういう内容の」郵便を送ったかを証明する郵便を指し、未払い賃金の督促や契約の解除通知などの場面で利用されます。内容証明郵便に法的な効力はありませんが、相手に対して決然たる態度を示し、心理的な効果を与えるために利用できます。今回はそんな内容証明郵便について、実際に出す際の手順や、考えられる効力について解説します。
内容証明郵便の概要
日本郵便は、内容証明は「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰宛に差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社(郵便局)が証明する制度」と説明しています。そして、「当社が証明するものは内容文書の存在であり、文書の内容が真実であるかどうかを証明するものではありません」、「内容文書とは、受取人へ送達する文書をいいます。謄本とは、内容文書を謄写した書面をいい、差出人及び差出郵便局において保管するものです」と注意書きが付されています。
以上の情報を簡潔にまとめると、内容証明郵便とは、「差出人が受取人に送付する文書のコピーを保存して、送付の事実と、その内容の不変性の担保を行う郵便」であると言えます。
内容証明の効力
内容証明は、その内容の正しさが証明されるものではありませんが、送った時期やどんな内容であるか、誰から誰に送ったか、という記録が証明されます。これは、以下のようなタイミングで効力を発揮します。
法的証拠として
例えば、強引な訪問販売などで消費者が商品やサービスの申し込みや契約をしてしまった場合、一定期間に限りその撤回や契約解除ができるクーリング・オフという制度があります。
クーリング・オフでは、契約をなかったことにでき、支払った代金も変金されますが、契約解除の旨を一定期間内に書面で通知しなければなりません。普通の郵便では、販売事業者が「受け取っていない」と言ってしまえば、契約解除が難しくなってしまいます。そこで、内容証明郵便を用いることで、送った証拠、日時を証明することができるのです。
強い意志の表明として
取引先が商品の代金を支払わず、電話やメールなどでの催促に応じない場合、内容証明郵便での催促が有効でしょう。「支払いに応じない場合は法的措置を取る」と言った旨の通知を内容証明郵便で送ることで、特殊な郵便形態であることから、強い意志を表明することができ、心理的なプレッシャーを与えられます。
内容証明郵便の使い所
定義だけではイメージが把握しづらいので、具体的な例を想定して内容証明郵便の使い方を見ていきましょう。
顧客Aは、銀行Bから1,000万のローンを借り入れていますが、事業に失敗し、毎月のローン返済を3ヶ月も滞納している状況だとします。しびれを切らしたBは、Aに対してローンの返済を促すために、「3ヶ月の滞納分」を請求額とし、「翌月15日まで」の期日内に納めるようにと明記した請求書を送付しました。これが上の概要で述べた「内容文書」になります。
さて、請求書を受け取ったAですが、もちろん今まで1ヶ月ごとの返済も不能だったのですから、3ヶ月分も一気に支払うことなど到底できません。追い詰められたAは、この請求書の存在自体を無視して、しらを切ることにしました。請求書が存在しない、あるいは届いていないということにしてしまえば、返済の期日を後に延ばせるのではないかと考えたのです。
ここで、3つのケースを考えてみましょう。
- Bが請求書のデータを行内に保存していなかった場合
このとき、Aの目論見は成功する可能性が高いです。Aが「請求書など届いていないし、そもそも存在していない」と言い切ってしまえば、B側にその請求書の存在を証明する手立ては存在しません。Aは思惑通り、請求を逃れることができます。 - Bがデータを保存していたが、内容証明郵便を使っていない場合
仮にBが請求書のデータを自社に保存していたとしても、法的な観点からは、これだけでは請求書が存在していたという事実の証拠として不足しています。なぜならそのデータは当事者であるBが用意したものであるため、恣意的に内容を改竄できる余地が残るからです。Aが「そんな請求書は受け取っていない。銀行が都合よく後から作ったものに違いない」と言ってしまえば、銀行にそれが誤りだと客観的に証明する手段が存在しないのです。 - Bが内容証明郵便を使ってデータを保管していた場合
この事例において、郵便局は第3者であり、それも企業の性質上、極めて中立的な立場にあると言えます。したがって郵便局が「この請求書はこの内容で確かに存在しており、何日付でBからAに送付された」と証明すれば、Aとしては反論の余地はありません。Bは当初の予定通り、Aに返済義務を遂行するよう促すことが可能です。
このように、内容証明郵便は企業と顧客のやりとりにおいて、契約の誠実な遂行を補助する役割を持つという意味で、大変に重要な手段となります。
内容証明郵便の出し方
内容証明郵便は、普通の郵便と同じような手順で発行できるわけではありません。ここからは、内容証明郵便の差し出しにおける注意点を説明していきます。
まず、内容証明郵便は全ての郵便局において差し出し可能というわけではありません。差し出すことができるのは「集配郵便局」と「支社が指定した郵便局」のみなので、事前に対応が可能な郵便局を確認しておきましょう。
内容証明郵便に対応している郵便局が見つかったら、次は必要書類の提出です。
まず、受取人に送付する内容文書(請求書など)の原本を作成しましょう。これは、その郵便局によって、受取人へ確実に配送されるものです。次に、その原本をコピーした謄本2部を用意します。これは1部が郵便局に保存され、もう1部は差出人が保存します。その他には、差出人および受取人の住所氏名を記載した封筒も必要です。これに内容文書の原本を入れて、受取人宛に送付します。
このとき、内容文書、謄本、封筒のいずれも、用紙の大きさや材質、記載用具の種類は問いません。ただし、謄本に関しては字数と行数の規定があり、字数のカウント方法にも細かなルールが存在します。
- 縦書きの場合:1行20字以内、1枚26行以内
- 横書きの場合:以下の3通り
・1行20字以内、1枚26行以内
・1行13字以内、1枚40行以内
・1行26字以内、1枚20行以内
字数の計算方法
記号は1個1字としてカウントします。例えば、「$」は1字です。ただし単位の表記など一部例外がありますので、カウント方法を以下に示します。
- m(メートル)は、1字です。
- ㎝(センチメートル)は、2字です。
- ㎥(立方メートル)は、2字です。
- ㎤(立方センチメートル)は、3字です。
各種の括弧は初めと終わりをワンセットで1字とカウントし、字数は初めの括弧が属している行に含めます。
- 「お送りいただいた文章(4月10日)」という文章は、16字です。
- 「先日お送りいただいた文章(4月10
日)」という文章は、1行目が17文字、2行目が1文字です。
文字や数字を丸や四角などの枠で囲んだ表記は、その文字数に枠を1文字分として足してカウントします。ただし、その文字記号が文章の順番を示すものとして使われている場合は、まとめて1文字として計算します。
- 「①」という記号は、2文字です。
- 「①要件について」という文章は、①が順番を示す記号として使われているので、7文字です。
- 「上記の①の注意事項について」という文章は、基本的なカウントの仕方を適用して、①は2文字分となり、計14文字です。
- 括弧についても同様のことが言え、「(2)」という表記は2文字です。
- 「(2)料金について」という文章は、(2)が順番を示す記号として使われているので、7文字です。
- 「上記の(2)の注意事項について」という文章は、基本的なカウントの仕方を適用して、14文字です。
大まかな注意事項は以上の通りです。差し出す内容文書の種類によっては、特殊な表記に郵便局がどう対応するのかわからないこともあるので、その場合、まずは郵便局に持って行って問い合わせてみるのがよいでしょう。
内容証明郵便の出し方
- 送付したい文書を3本用意する
受取人に送付する文書、差出人が保管する謄本、郵便局か保管する謄本の3本が必要です。 - 内容文書に押印する
押印自体は差出人の任意とされています。しかし、事業者として内容証明郵便を送る際には、社名と合わせて法人印を捺印すると良いでしょう。また、文書が複数枚にわたる場合は、ホチキスで留めた境目に契印を捺印します。 - 封筒に住所や社名を記載し、郵便局で発送する
通常の郵便と同様に、相手と自分の住所や氏名、社名などを記載します。郵便局窓口に持っていくと、文書に認証印を押印してもらえます。認証には30分ほど時間がかかるとされています。書き方に不安がある場合には、この場で局員に相談してみると良いでしょう。 - 料金を支払う
謄本の枚数によって、以下のように加算料金が発生します。
謄本 | 1枚 | 2枚 | 3枚 | 4枚 | 5枚 |
料金 | 440円 | 700円 | 960円 | 1,220円 | 1,480円 |
また、これに加えて、通常の郵便物の料金や一般書留の加算料金、速達や配達証明を必要とする場合はその料金が発生します。
現在は電子内容証明サービスを利用することも可能です。インターネット上で引受が行われるため、24時間いつでも差し出すことができ、クレジットカードや料金後納で支払いします。
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まとめ
内容証明郵便は、第3者である郵便局が内容文書の存在を保証するという性質を活かし、文書の受取人に対して差出人の立場が一貫しており、明確であることを示すことができます。これにより、契約の誠実な履行を求める圧力などを、丁寧でありながら正式な形で受取人に与えることができるという点で、心理的な効果を発揮します。正しい手順と使い所を把握し、企業の健全な運営のために効果的に使用していきましょう。