ECサイトやサブスクサービスの普及、成人年齢の引き下げなどを背景に、2022年6月に消費者契約法の法改正が行われ、2023年6月から施行されます。消費者契約法は、消費者を守ることを目的としている法律です。消費者保護の観点で非常に大きな意義を持っているため、時代の変化とともにこれまでも何度か改正が行われてきました。改正の際に企業は、改正の趣旨を理解し、改正内容に沿った適切な対応を取る必要があります。今回は、消費者契約法の概要と改正内容、企業の取るべき対応について解説していきます。
目次
消費者契約法が改正された
そもそも消費者契約法とは
消費者契約法は、契約締結時の消費者の利益を守るために施行された法律です。消費者と事業者の間には持っている情報の質や量、さらには交渉力に格差があります。消費者が企業に対して不利な状況に陥ることを防止するため、消費者契約法というルールが大切な役割を果たしているのです。
例えば、消費者契約法では不当な勧誘による契約の取消や、不当な契約条項の無効などが規定されています。他にも、今回の改正に至るまでも時代の背景に適応できるように、複数のルール追加などが行われてきました。
消費者契約法が改正された背景
まず、インターネット上のECサイトが普及したことが背景として挙げられます。非対面による契約行為が簡単になり消費者の利便性は高まりましたが、事業者とのトラブルも発生しているのです。また、成人年齢の引き下げも背景として考えられます。18歳になった成人は親の同意なしに単独で契約を行えるようになったのです。このようなに社会が変化し続ける中で、継続して消費者を守るために法改正が行われました。
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消費者契約法の改正内容
契約の取消権を追加
契約の取り消しを行える具体例として、以下のケースが追加されます。
- 勧誘を伝えずに退去が難しい場所へ同行し勧誘される
- 威迫する言動で相談の連絡を妨害される
- 契約前に目的物の現状を変えられて、原状回復を極めて困難にされる
改正前の消費者契約法では、事業者から事実と異なることを伝えられた場合や、消費者の不利益な事実を伝えられなかった場合などに、契約を取り消せると定められています。今回の改正でさらに具体的なケースが追加されるので、企業は該当する行為を行わないようにより一層注意しなければなりません。
解約料の説明が努力義務化
努力義務として、以下の消費者への解約料に関する説明が追加されます。
- 消費者への算定根拠の概要説明
- 適格消費者団体に対し算定根拠の説明
解除料の値段が適正であるかどうかについて、多くの場合消費者は情報が不足していて判断できません。こうした際に、消費者が事業者に説明を求められるように規定が追加されたのです。例えば、事業者は算定の根拠として、算定式・考慮事項・金額が適正かどうかの根拠などの提示が必要となります。
免責範囲が不明確な条項は無効
改正によって下記の条項が新設されます。
- 賠償請求を困難にする不明確な一部免責条項は無効
※軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないもの
例えば、「軽過失の場合には5万円を上限に賠償します」といった内容であれば有効です。一方、「法令に違反しない限り5万円を上限に賠償します」といったケースは、軽過失のみに適用されるかが不明確なため無効として扱われてしまいます。
事業者の努力義務が拡大
事業者の努力義務が以下のように拡大されます。
- 契約締結時に加えて解除時にも努力義務を導入
解除権行使に必要な情報提供
解約料の算定根拠の概要説明 - 勧誘時の情報提供
消費者の知識・経験・年齢・心身の状態なども総合的に考慮した情報提供
※知ることができたものに限る - 定型約款の表示請求権に関する情報提供
- 適格消費者団体の要請に対応
不当条項を含む契約条項、差止請求で講じた措置の開示要請
解約料の算定根拠の説明要請に応じる努力義務
事業者はこれらの要素を総合的に考慮して対応する必要があります。なお、今回の改正では努力義務とされていますが、より強制力の強い規定への変更も視野に入れて準備を進めるべきでしょう。
消費者契約法改正に向けて企業が取るべき対応
違反なく仕事できる仕組みを作る
違反なく業務を遂行できる仕組みを社内で構築しましょう。現状の仕事の進め方や業務内容が、消費者契約法の改正に対応できているかどうかチェックし、必要に応じて見直しを行いましょう。法改正の内容を反映させた規則やマニュアルなどの作成も有効です。
消費者契約法は今回の改正内容だけでも多岐にわたります。最新の消費者契約法の内容を正しく理解して、改正の都度対処することが重要です。
社内への周知を徹底する
消費者契約法と改正の内容を社内へしっかりと周知しましょう。消費者契約法は改正が繰り返し行われており、常に最新情報のキャッチアップが欠かせない法律です。特に、消費者との契約に携わる従業員に対しては丁寧な周知が求められます。従業員への周知におけるポイントは以下のとおりです。
- 研修を実施する
- デジタル化して共有する
- ITツールを活用する
テレワークなどの多様な働き方が普及していることを考慮し、周知内容はデジタル化することも必要です。加えて、チャットツールや社内SNSなどのITツールを活用すると、効率的かつ効果的に情報を周知できます。必要に応じて研修などを実施して、従業員の理解が深まるよう工夫しましょう。
専門家に相談できる体制を整える
社内で消費者契約法を遵守して行動できるか不安がある場合には、弁護士などの専門家の力を借りられないか検討することが有効です。消費者契約法を守れていないと顧客からの信頼を失うだけでなく、企業の社会的なイメージをダウンさせてしまうリスクもあります。
消費者契約法の改正は今後も発生するかもしれません。企業としてスムーズに対応していくためにも、消費者契約法などに詳しい専門家に相談できる体制を整えましょう。
まとめ
さまざまな社会の変化に対応すべく、消費者契約法は度々改正されています。立場の弱い消費者を守るための法律だということを改めて認識し、企業としては法令の内容をよく理解して適切な対応を取らなければなりません。もしも法令の遵守に不安がある場合には、弁護士などの専門家に相談することも視野に入れましょう。