企業の経営活動において、利益と現金は必ずしも一致しないことから、現金の流れを表す「キャッシュフロー」を理解していないと、利益が出ているにも関わらず手元の現金が不足して倒産してしまう「黒字倒産」を起こしかねません。
今回は、キャッシュフローの概念や黒字倒産のメカニズムについて解説するとともに、黒字倒産を防ぐためのキャッシュフロー改善策を紹介します。
目次
「キャッシュフロー」は、現金収入から現金支出を差し引いて算出される現金収支のことであり、そのとき企業が実際に持っている現金がどれくらいあるのかを示します。
キャッシュフローは、会計上の損益とは別のものとして考えることが必要です。なぜなら、会計上の損益は契約書など取引の成立をもとにしてその時点で記録されるのに対し、実際に支払いが行われて現金が手に入るのは、取引の成立からある程度の期間を経てからであるためです。すなわち、会計上の利益と、企業が手元に持っている現金は、必ずしも一致しないのです。
会計上は利益がきちんと出ているにも関わらず、キャッシュフローがマイナスになることで支払いなどが間に合わなかった結果として起こる倒産が、黒字倒産です。
この黒字倒産は、なぜ起こるのでしょうか。ここでは、黒字倒産のメカニズムについて解説します。
例えば、ある会社の1期目について考えてみましょう。仕入れや人件費の支払いなどを500万円で行い、700万円の売り上げが出たとします。ただし、売り上げのうち、1期目中に現金として手に入ったお金は400万円でした。
この場合、会計上の1期目の利益は、700万円-500万円で200万円になります。しかし、キャッシュフローはどうでしょうか。このような場合、キャッシュフローは、手に入れた現金400万円から仕入れや人件費などの500万円を差し引いた、マイナス100万円となるのです。もし、この100万円について、企業のもつ預金からまかなうことができなければ、必要な支払いを行うことができないため、利益をしっかり出していながらも倒産してしまうということになります。
このように、特に1期目は、会計上でいくら利益が出ていて黒字だったとしても、現金をもっていなければ必要な支払いを行うことができず倒産してしまう恐れがあるのです。
先ほどの例をもとに、黒字倒産のメカニズムについてもう少し一般化してみましょう。
売り上げ700万円のうち、手に入った400万円を除いた300万円のことを、「売掛金」と呼びます。売掛金は、将来的に手に入る予定であるものの、まだ手元にはない分の売り上げです。キャッシュフローは、会計上の利益から売掛金を差し引くことでも計算できるので、200万円-300万円でマイナス100万円と考えることもできます。
また、今回の例では考えませんでしたが、会社に入ってくる現金だけでなく、会社から出ていく現金についても、同じようにタイミングのズレが存在します。
例えば、先ほどの例で、仕入れや人件費に要した500万円のうち、1期目中に支払わなければならないのが300万円のみだったとします。この場合、キャッシュフローは、手に入れた現金400万円から支払いに必要な300万円を引いたプラス100万円となります。このとき、500万円のうちまだ支払う必要のない200万円の部分を「買掛金」と呼びます。
以上の話を一般化したのが、「フリーキャッシュフロー(FCF)」を求める以下の計算式です。
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、そのとき企業が自由に使うことのできる現金のことを指します。先ほどの例に当てはめて考えると、以下のようになります。
黒字倒産が起きないようにするためには、キャッシュフローに基づいて会社を経営する「キャッシュフロー経営」を行う必要があります。特に、創業して間もないベンチャー企業などは、会計上でいくら利益が出ていてもキャッシュフローがマイナスになることが多く、これを補うための運転資金が尽きてしまえば倒産してしまうことから、キャッシュフローには特に注意しておかなければなりません。
黒字倒産を防ぐためのキャッシュフロー改善策としては、以下のようなものがあります。
先ほどのフリーキャッシュフローの計算式から、売掛金が少なくなればキャッシュフローが増えることがわかります。すなわち、売り上げを回収できるタイミングをなるべく早くすることが、キャッシュフローの改善につながります。売り上げを回収できるタイミングを早くするためには、下記のような改善策が有効です。
売り上げを回収できるタイミングが早いのが、商品やサービスの提供と同時に現金を受け取る「現金小売り」です。できるだけ現金小売りにすることで、即座に売り上げを回収することができます。逆に、売り上げを手形で受け取る場合などは、商品やサービスの提供から実際に現金が手に入るまでの時間が長くなってしまうため注意が必要です。
前受金とは、商品やサービスの提供前に消費者から受け取る代金のことをいいます。英会話スクールやスポーツジムなどでは、まとまった期間について前受金を払うことで、割引が受けられるようなことも多くなっています。前受金は、商品やサービスの提供前に現金が手に入るため、売り上げを回収できるタイミングがもっとも早いタイプの支払い方法だといえます。
制作系の受託などでは、取引が成立してから制作物が完成するまでの期間が長く、結果として、取引の成立から現金が手に入るまでに長い時間がかかってしまうことが多くなっています。このような場合、制作期間の途中で中間金を支払ってもらったり、制作期間の前に前受金を支払ってもらったりする契約を結ぶことで、売り上げを回収できるタイミングを早めることができます。
先ほどのフリーキャッシュフローの計算式から、売掛金を減らすのと同様に、買掛金を増やした場合にも、キャッシュフローを増やすことができるということがわかります。すなわち、支払いのタイミングを遅くすることで、キャッシュフローを増やすことができます。
支払いのタイミングを遅くするためには、手形など取引成立から支払いまでの期間が長い決済方法をとるようにすることが必要ですが、これは仕入先との交渉次第ということになります。
キャッシュフローを改善するには、売り上げの回収と支払いのタイミングのバランスをとることも有効です。ここでは、回収と支払いについて、それぞれある程度統一させることが重要となります。例えば、回収については平均して1ヶ月で行えるようにしておき、支払いについては平均して2ヶ月で行えるように契約をするだけでも、売り上げの回収が平均して支払いより先になるため、キャッシュフローの改善につながります。
キャッシュフロー改善のためには、キャッシュ(現金)を増やすことも有効です。現金を増やすためには、下記のような手段があります。
無駄な在庫が月末や決算期末に残っていることは、キャッシュフローの悪化につながります。最低在庫量を確認し、それ以上は在庫をもたないようにするだけでもキャッシュフローは改善します。
外部から資金を調達することも、現金を増やすために有効な策の一つです。資金調達の方法としては、銀行から新たに資金を借り入れたり、新しく株式を発行して増資をしたりするなど、様々な方法があります。
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会計上の損益だけでなく、現金の収支である「キャッシュフロー」について考慮しておかなければ、最悪の場合、黒字倒産に陥ってしまう可能性があります。黒字倒産を防ぐためにも、キャッシュフローについて正しく理解した上で、キャッシュフローの改善に努めることが重要です。
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