キャリア自律とは、自分のキャリアを主体的に管理し、適切な目標を設定し、それに向けて計画を立て、実行することを意味します。企業は社員のキャリア自律を促進するために、従業員が興味のある分野や挑戦したいプロジェクトに参画できる機会を提供しましょう。また、従業員が自己評価と改善点を把握できるように、フィードバックや評価制度を整えることも効果的です。
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キャリア自律とは、従業員が自らのキャリアについて主体的に考え、自律的にキャリア開発を行うことです。従来は企業が人事戦略に則って人材開発を推進し、従業員のキャリアは企業が課す業務や研修によって形成されるものだと考えられてきました。従来の育成手法ではどうしても受動的になるため、自分のキャリアについて主体的に考える機会が少なかったのも事実です。一方、キャリア自律では自分のキャリアについて主体的に考え、自らの意思でキャリアを形成していくことが求められます。
「自律」と似たような言葉に「自立」があります。「自律」と「自立」は何が違うのでしょうか。「自立」は、能力や経済力、身体について、他者の援助や支配を受けることなく、自分だけの力で行動したり意思決定したりすることです。ビジネスシーンでは、自ら業務を遂行して成果を出し、生計を維持しているビジネスパーソンを指します。一方「自律」は、持っている価値観や信条、理念、哲学などに従い自らを律し、行動したり意思決定したりすることです。「自立」が外的要因からの独立を指すのに対し、「自律」は内的要因からの独立を意味します。
キャリア自律が注目される背景にあるのは、日本型の終身雇用や年功序列の崩壊、そして欧米型のジョブ型雇用へのシフトです。従来の終身雇用や年功序列では、新卒社員は定年まで同じ会社で働くのが一般的です。そのような社会環境においては、新卒一括採用から定年までの長いスパンで、企業が主導して従業員のキャリア形成を行うのも当たり前でした。しかし、日本型の終身雇用や年功序列が崩壊して人材の流動性が高まり、欧米型のジョブ型雇用にシフトした結果、年齢や勤続年数にかかわらず職務に必要なスキルや経験が明確になり、会社主導ではなく主体的なキャリア自律が注目されるようになったのです。
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企業がキャリア自律を積極的に支援することで、従業員のワーク・エンゲージメントが高まります。今まで受動的だったキャリア形成を能動的なキャリア自律にシフトすることで、従業員は自分のキャリアや仕事に興味を持ち、より積極的にキャリア形成や仕事に取り組むよう、姿勢の変化を促すことが可能です。実際に、パーソル総合研究所が2021年に実施した「従業員のキャリア自律に関する定量調査」によると、キャリア自律度が高い層は低い層より、ワーク・エンゲージメントが1.27倍高いことがわかりました。ワーク・エンゲージメントが高いほど、従業員は仕事に対してやりがいや誇りを感じ、より意欲的に仕事に取り組む傾向にあります。
企業によるキャリア自律の支援によって、従業員が自発的にキャリア形成に取り組むようになると、組織の生産性が向上します。そもそも、限られた人材で組織の生産性を高めるには、個人と組織の双方向的な成長が欠かせません。企業の支援によってキャリア自律度が高まれば、個人のパフォーマンスが向上します。パフォーマンスの高い従業員は組織のMVV(Mission Vision Value)を正確に把握し、組織目標の達成に向けて能動的かつ主体的に行動するのが一般的です。企業がキャリア自律を積極的に支援することで、従業員のパフォーマンスは高まり、結果として組織の生産性は向上します。
キャリア自律の支援は、定年を迎えたシニア人材の活躍にもつながります。シニア人材は現役時代に培った高度なスキルや経験を豊富に持つ一方、定年に伴いモチベーションが低下してしまっているケースも少なくありません。単に企業の指示に従って仕事をこなすのではなく、自らの意思でキャリア形成を目指し、能動的に仕事に取り組むことで、モチベーションアップが期待できます。元来能力の高いシニア人材のモチベーションが向上することで、組織としてのパフォーマンスを高めることも可能です。
キャリア自律を促進するには、従業員が成長できる機会を提供しましょう。例えば、自己理解を促すアセスメントや、その結果を活用したキャリア研修などが効果的です。アセスメントは、客観的に自分の強みや弱みを把握するのに役立ちます。キャリア研修は、講師によるサポートだけでなく、参加者同士のグループワークによって、新たな気付きを得る場としても有効です。その他にも、副業や兼業などの越境学習や、アンラーニング、リスキリング、リカレント教育などを推進する方法もあります。意欲的な学習を促すことで、より付加価値の高い職務を担える従業員を育成することが可能です。
キャリア自律を導入する際は、フィードバックや人事評価制度を整えましょう。例えば、上司が部下とキャリアについて考える面談の場を設けることで、自発的にキャリアを考える重要性を伝達したり、組織が支援することで効果的にキャリア自立を推進したりすることが可能です。また、業務上の課題解決のため、またはキャリアアップを目指すため、従業員が自発的に取り組んだ学びの履歴を、人事評価制度に紐づけて管理する環境を整える必要もあります。一例を挙げると、キャリア自律と同時に、いわゆるタレントマネジメントシステムを導入する企業も少なくありません。挑戦の機会を与えるため、ジョブローテーションや自己申告制、社内公募制度、社内FA制度などを取り入れるのも効果的です。
組織にキャリア自律を浸透させるには、メンター制度を導入するのも効果的です。メンター制度とは、年齢や勤続年数の近い先輩社員がメンターを担い、新入社員や若手社員をサポートする制度を指します。そもそも「メンター」とは「助言者」や「指導者」を意味する言葉で、上司には話しにくい仕事の悩みを相談できるだけでなく、将来的なキャリアの意向などについて、状況を確認する場としても有効です。キャリア自律とともにメンター制度を導入することで、若いうちから自身のキャリアについて考えるきっかけとなることでしょう。
今回はキャリア自律について解説しました。キャリア自律とは、従業員が自らのキャリアについて主体的に考え、自律的にキャリア開発を行うことです。日本型の終身雇用や年功序列が崩壊して人材の流動性が高まり、欧米型のジョブ型雇用にシフトした結果、主体的なキャリア自律が近年注目されるようになってきました。キャリア自律には、従業員のエンゲージメントや組織の生産性が向上する、シニア人材の活躍につながるといったメリットがあります。社内の支援体制を整え、組織としてキャリア自律を推進しましょう。
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