新卒学生の就職活動における選考が6月に解禁され、多くの企業では「内定」を出すことになります。採用内定により労働契約が成立したと認められる場合、労働契約法や労働基準法等の様々な規定が適用されることとなり、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない内定取り消しは無効とされます。
今回は、内定の法的性質や内定取り消しが認められる事由、やむを得ず内定取り消しを行う場合の注意点等について解説します。
目次
内定とは、新たに労働者を採用する際に、勤務が始まる前から入社の約束をすることを指します。一般的には、企業が求職者に対して内定通知を行い、求職者が誓約書を提出するなどにより内定を承諾した場合に、内定が成立します。
内定には、それぞれの状況によって様々な形態があり、法律によって明確な規定があるわけではありません。しかし、内定の取り消しに関する過去の判例などから、一般的には内定は「始期付解約権留保付労働契約」とみなされています。
「始期付」とは、大学卒業後など労働契約が始まる期日が決まっていることを意味します。「解約権留保付」とは、企業が労働契約の解約権を留保している状態であり、一定の範囲でその解約権を行使し、労働契約を解約することができるということを意味します。
すなわち内定は、労働契約の開始時期が定められており、かつ、それまでの期間に企業が一定の範囲で契約を解約する権利を留保した労働契約だといえます。
内定の成立により労働契約が成立したと認められる場合、労働契約法や労働基準法などの様々な規定が適用されることとなります。すなわち、企業による内定取り消しは解雇に当たり、労働契約法第16条の解雇権の濫用についての規定が適用されることから、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない内定取り消しは無効となります。
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内定取り消しが有効とされるのは、原則として、下記の場合に限られるとされています。
上記の①に該当する事由としては、具体的に、以下のような場合が考えられます。
企業の経営悪化を理由として内定を取り消す場合は、整理解雇の場合に準じて判断されることになります。すなわち、以下の4つの要件をすべて満たしていることが必要であり、これらを踏まえて内定取り消しの有効性が判断されます。
やむを得ない事情により内定取り消しを行う場合は、以下の点に注意することが必要です。
内定により労働契約が成立していると認められた場合、内定取り消しは解雇とみなされ、労働基準法による解雇予告の規定が適用される可能性があります。解雇予告は少なくとも30日前までに行うこととされているため、やむを得ない事情により内定を取り消す場合は、できるだけ早い段階で、少なくとも30日前までには通知を行うようにしましょう。
やむを得ない事情により新規学校卒業者の内定を取り消す場合は、職業安定法施行規則の規定により、所定の様式によりハローワークに通知することが必要です。
厚生労働省の指針により、企業は内定取り消しの対象となった学生や生徒の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、内定取り消しを受けた学生・生徒からの補償等の要求には誠意を持って対応することとされています。
企業による内定の取り消しを防止するため、内定取り消しの内容が下記のいずれかに該当する場合、厚生労働大臣はその企業名等について公表できることとされています。内定を取り消したとして企業名が公表されてしまうと、今後の採用活動に大きく影響することから、特に注意することが必要です。
内定は労働契約であり、その取り消しについては労働契約法や労働基準法等により制限されます。また、内定取り消しは内定者やその家族の人生に大きな影響を与えてしまうものであり、決してあってはならないことです。
やむを得ない事情で内定を取り消すことになった場合は、適切な手続きを踏むとともに、当該内定者へのフォローを欠かさないようにしなければなりません。
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