社員が怪我や疾病などで休業した場合に支払う労災保険や、使用者の都合で休業させる場合に支払う休業手当などの金額は、原則として平均賃金から算定されます。平均賃金を計算するためには社員が受け取った賃金と働いた日数が必要ですが、期間や条件などが複雑なため正しい知識が必要となります。今回は、平均賃金が必要となるケースと平均賃金の計算方法、雇用保険や健康保険の給付金計算との違いについて解説していきます。
目次
平均賃金とは
法律上における平均賃金は、一般的な会社員の給与相場という意味ではなく、労災保険や休業手当における補償や手当の額、減給の制裁額などの算定基準となるものです。平均賃金は、労働基準法第12条により、「これを算定すべき事由の発生した日以前3ヶ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう」と定義されています。
具体的な計算方法は後述しますが、平均賃金は労働者の生活を保障するためのものですので、算定期間中に支払われる賃金のすべてが含まれます。これを賃金総額といい、基本給、家族手当、通勤手当、精皆勤手当、昼食補助費などがあたります。このうち通勤手当は、6ヶ月間まとめて支払っている場合などは1ヶ月ごとの額を計算します。また、労働者が実際に受けた賃金だけではなく、算定の事由が発生した時点において労働者が受け取ることが確定しているベースアップの賃金も含まれます。他にも、未払いの賃金や支払いが遅れている場合もすべて含めて計算します。
算定に含まれない賃金
基本的には、算定期間中に支払われた全ての賃金が含まれます。
- 臨時で支払われた手当(結婚手当、見舞金、退職金など)
- 夏季・年末の賞与など、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(なお、賞与出会っても3ヶ月ごとに支払われるものなどは算定に含まれます)
- 現物支給や労働協約で定められていない通貨以外のもの
算定事由が発生した日
- 解雇予告手当の場合、解雇予告をした日のこと
- 休業手当や年次有給休暇の場合、休業日、年休日の初日のこと
- 労働災害補償の場合、災害が起きた日、または診断により疾病が確定した日のこと
- 減給制裁の場合、制裁の意思表示が相手に到達した日のこと
平均賃金が必要となるケース
解雇予告手当
30日前までの予告を行わずに労働者を解雇する場合、労働基準法第20条により、使用者は労働者に対して平均賃金の30日分以上を解雇予告手当として支給しなければなりません。
休業手当
使用者の都合で労働者を休業させる場合は、労働基準法第26条により、1日につき平均賃金の6割以上を休業手当として支給しなければなりません。
雇用調整助成金の手続き
雇用調整助成金とは、新型コロナウイルス感染症の影響で事業の縮小を余儀なくされた事業者が、雇用維持のために休業を行なった場合、休業手当の一部を助成する助成金制度です。
雇用調整助成金の助成額は平均賃金を元に算定されるため、平均賃金の計算が必要です。しかし、2021年9月現在では、従業員が概ね20人以下の小規模事業者においては、実際に支払った休業手当額から助成額を算定するよう手続きが簡素化されています。
有給休暇中の賃金
労働基準法第39条により、労働者が年次有給休暇を取得する際の賃金の算定に平均賃金を用いることが認められています。
減給制裁の制限額
減給の制裁額は、労働基準法第91条により、1回の額は平均賃金の半額まで、総額は支払い賃金の1割までと上限が定められています。
労働災害の補償額
労災保険の給付額の算定に用いられる給付基礎日額は、原則として平均賃金に相当します。
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平均賃金の計算方法
平均賃金の計算方法の原則は、算定すべき事由の発生した以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、3ヶ月の総日数で除したものとなります。「算定すべき事由の発生した以前3ヶ月間」とは、算定事由の発生した日は含まず、その前日から遡って3ヶ月のことです。なお、3ヶ月の間に賃金の締切日がある場合は、直前の賃金締切日から起算します。また、3ヵ月の総日数は労働日数ではなく、休日や欠勤日も含まれます。
ここでは例として、算定事由の発生日が6月1日である場合を考えてみましょう。それ以前の3ヶ月間、すなわち3月1日から5月末日までの総日数は92日となります。3月から5月までの1ヶ月の賃金総額が28万円であるとすると、平均賃金の計算は、28万円×3÷92=9,130円43銭(銭未満切り捨て)となります。
なお、この計算は原則であり、労働基準法により最低保障が設定されています。支払われる賃金が日給や時間給、もしくは出来高制払などで決められている場合は、賃金総額をその期間中に労働した日数で除した額の6割にあたる額が、平均賃金の最低額として保障されています。
控除される期間と賃金
生活の保障となる平均賃金の低下を防ぐために、賃金の低い試用期間中や休業期間は除外されます。平均賃金の計算には含めない期間および賃金は、以下の通りです。
- 業務上の疾病や負傷のため休業した期間
- 産前産後の休業期間
- 育児・介護休業法による育児休業、介護休業の期間
- 試用期間
- 使用者の責任によって休業した期間
雇用保険や健康保険の給付金計算との違い
ここまで見てきた平均賃金と、雇用保険の失業給付金、健康保険の傷病手当金との計算方法の違いを見ていきましょう。雇用保険の失業給付金は失業者が求職活動を行っている間に受け取れる手当、健康保険の傷病手当金は労働者が業務外の疾病や怪我のために休業し給与を受けられなくなったときに受けられる手当のことです。解雇予告手当や労働災害補償、年次有給休暇の賃金の算定などに使われる平均賃金とは混同されがちですので、使用する目的と算出方法を間違わないように注意しましょう。
まず、上記のように平均賃金の計算方法は、算定すべき事由の発生した以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、3ヶ月の総日数で除すというものです。これに対して、雇用保険の失業給付金は離職者の賃金日額を基に算定され、賃金日額は離職前半年間に支払われた賃金総額を180で除すことで求められます。また、健康保険の傷病手当金の場合は、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額を30日で除して、さらに2/3を掛けたものが1日あたりの金額になります。
まとめ
今回は、平均賃金について、その計算方法や、混同しやすい雇用保険や健康保険の給付金計算との違いを解説してきました。平均賃金が必要となるケースを把握し、例外なども考慮しながら正しい計算を導きましょう。