会社設立時には、会社運営の基本方針となる定款を必ず作成しますが、定款は一度作成したらそれで終わりというわけではありません。会社が成長していくに伴い、事務所の移転や事業目的の追加などが発生し、定款変更が必要となる場合があります。定款変更にあたっては、株主総会の議決や法務局での登記を行います。今回は、定款で定めるべき事項や定款変更手続きについて解説します。
定款とは、会社を運営するために必要なルールを定めたものです。会社設立の際に必ず作成されなければならないことが、会社法第26条によって定められています。また、定款に盛り込むべき内容も会社法によってある程度定められています。そしてこの定款は、国の公証人によって認証されることで初めて法的な効力を持つようになります。
定款に定める事項には、必ず定めなくてはならない絶対的記載事項と、必ず定める必要はないが定款に盛り込まなくては効力を持たない相対的記載事項、そして法律に反さない範囲で任意に記載できる任意的記載事項の3つがあります。
定款に必ず盛り込まなくてはならない事項です。裏を返せば、この記載がなければ定款として公証人に認証されません。会社法第27条は、以下の事柄を絶対的記載事項として定めています。本店の所在地については、番地まで詳細に記載する場合と、どこの法務局の管轄に所在するかを記載する場合があります。
定款に必ずしも記載する必要はないですが、会社のルールとして法的効力を持たせるためには定款に記載しなくてはならない事項です。相対的記載事項として定款に盛り込める事項は全て会社法によって定められています。以下は、そのうちの主なものとなります。
1.現物出資
現物出資は、金銭以外の財産で出資をした人がいる場合、その財産が出資金としてどれほどの価値を持ち、それに対して会社設立時の株式がどれだけ割譲されるのかを定める事項です。出資された財産に不当な価額がつけられることで、出資者に多くの株式がわたることを防ぎます。
2.財産引き受け
会社の成立後に、会社が譲り受けることを契約した財産についての事項です。不当に高額な金額で会社に譲り渡すことを定めた場合、支払われる金額と手に入る財産がつり合わないため、その分だけ会社の財産が損なわれることになります。
3.会社の成立により発起人の受ける報酬
会社の設立に対して、発起人は報酬を受け取ることができます。しかし、これを発起人が任意に定められるとなれば、不当に高額な報酬を発起人が受け取ることも可能となり、会社の財産基盤が損なわれる危険性があります。
4.会社が負担する設立に関する費用
発起人が会社設立のために支払った費用は、会社が負担すべき費用です。そのため、会社設立前に発起人が会社の代わりに建て替えて支払った分は、設立後に請求することができます。ただし、これも実際の費用より多くの請求額を定めた場合、会社の財産が損なわれてしまうため、変態設立事項として定められています。
これらを定款に記載する場合、公証人による認証の後、裁判所に検査役の選任の申し立てをし、これらの事項について調査を受けなくてはなりません。これは、会社設立に際して、発起人の恣意的な操作によって特定の者が利益を享受し、会社の財産に悪影響を及ぼすことや、株主の利益が損なわれることを防ぐことを目的としています。
絶対的記載事項でも相対的記載事項でもない事項です。会社法の規定に反さない事項であれば定款に記載できることが、会社法第29条に定められています。何を盛り込むかは自由ですが、一度定款に記載すれば簡単には変更することができない点に注意が必要です。任意的記載事項の例として、以下のようなものが挙げられます。
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定款は法的な効力を持つ会社のルールであるため、現状が定款に反することはあってはなりません。従って会社の成長によって状況が変化した場合、その変化に合わせて定款を変更する必要がでてきます。ここでは定款変更の手続きの仕方について紹介します。
定款を変更するためには、まず株主総会で変更についての決議が行われる必要があります。この決議は特別決議と呼ばれるもので、株式会社では議決権を行使できる株主の過半数が出席する会において、出席する株主の議決権の3分の2以上の賛成がなくては可決されません。また、会社法が施行される前から存在する有限会社で、会社法施行後も有限会社として続く会社の場合は、総株主の半数以上の出席のもとで、出席した株主の議決権の4分の3の賛成で可決されます。ただし、定款によりさらに厳しい可決条件が定められている場合はその条件に従います。
この決議によって決定された変更は、議事録として会社設立時の定款とセットで保管されることになります。この会社設立時の定款を原始定款と呼びますが、原始定款自体が書き換えられることはなく、あくまでも変更内容が議事録に記録され保管されることで定款の内容が変更されたことになります。変更後の定款について、設立時のように公証人による認証を受ける必要はありません。
基本的に株主総会の決議によって定款の変更は完了しますが、変更される事項によっては法務局への登記申請が必要となる場合があります。変更に際して登記申請が必要な主な事項には、代表的な例として以下のようなものがあります。
上記のうち、本店および支店の所在地の移転については、同一の法務局の管轄内における移転であれば基本的に登記しなくてもよいことになっています。ただし例外として、所在地を番地まで詳細に記載した定款の場合は、移転によって番地が変更されるので登記申請が必要となります。
登記申請書のひな型は法務局ウェブサイトでダウンロードすることが可能です。また、この登記手続きには費用が発生します。個別の登記申請の具体的方法は、各管轄の法務局へ問い合わせる必要があります。
決算月の変更については、法務局への登記申請は必要ありませんが、税務署への届け出が必要です。また、定款に記載されていない内容であっても、役員の変更など、法務局への登記申請が必要な事項もあるので注意が必要です。
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会社の成長や時代の流れによる環境の変化によって会社設立時の定款が現在の会社に合わなくなった場合、会社のルールである定款は変えていかなくてはなりません。株主総会での手続きや法務局への登記申請を必要とするため容易に出来ることではないとはいえ、定款の変更によって会社の現状にあったルール作りをしていくことが求められます。
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