働き方改革を通じた兼業・副業の増加などを背景として雇用形態が多様化し、企業に属さずフリーランスとして働く人は増加傾向にあります。そんな中で、フリーランスとして働く人は労災保険の適用対象とならないなど、労働関連法制に保護されないという負の側面が指摘されています。今回は、そんないわゆる「一人親方」にあたるフリーランスの方が、任意で加入できる労災保険の特別加入制度について、解説します。
目次
特別加入制度について解説する前に、労災保険について確認しておきましょう。
「労災保険」は労働者災害補償保険の略称で、雇用保険を含めて労働保険と総称されます。労働保険はパートタイマーやアルバイトを含む労働者を1人でも雇用していればその適用事業となり、事業主には保険料を納付する義務が発生します。
労災保険は、労働者が業務中または通勤中にケガや病気に見舞われた場合や死亡した場合に、被災した労働者や遺族の生活を保護するために保険給付を行う制度です。保険給付の例として、労災によって仕事に行けなくなった場合は給料の約8割が支払われる休業給付や、障害が残った場合に年金または一時金が支払われる障害給付などがあります。
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労災保険は本来、雇用されている労働者に対して保険給付が適用される制度のため、企業に勤めずに仕事をしているフリーランスの人は保険の適用外となります。ただしフリーランスの人でも、その業務の内容や災害の発生状況などからみて、労災保険が適用される労働者と同じように保護することが適当だとされる一定の人には労災保険の任意加入が認められています。それが、労災保険の「特別加入制度」です。
労働者を雇用せず、以下の事業を行う人(以下、「一人親方等」とします。)は労災保険に特別加入できます。
また、労働者を使用する場合でも、その日数が1年間で計100日に満たない場合は特別加入が認められます。
労災保険に特別加入する場合、特別加入団体と呼ばれる一人親方等の団体を事業主、一人親方等を労働者として労災保険が適用されます。そのため、特別加入の手続きは特別加入団体が一括して行うことになっています。
新たに特別加入団体を創設する場合、一人親方等は特別加入申請書(以下、「申請書」とします。)を所轄の労働基準監督署を経由して都道府県労働局に提出します。申請書には、一人親方等の具体的な業務内容や業務歴、給付基礎日額(※)などを記入します。この際、創設する特別加入団体が以下のような要件を満たしていることが必須です。
(※)給付基礎日額とは労災保険の給付額を決める基礎となるもので、申請に基づいて労働局長が決定します。また、給付基礎日額に基づいて年間保険料も決まります。
既存の特別加入団体を通じて加入する場合、その特別加入団体が特別加入に関する変更届(以下「変更届」とします。)を提出します。
この変更届は、新たに一人親方等が特別加入を希望する場合に加え、特別加入している人の氏名や業務に変更があった場合や脱退する場合にも提出することになっています。
申請書・変更届の様式は厚生労働省ホームページからダウンロード可能です。
労災保険は義務的に加入するものですが、その特別加入は任意のものです。あらかじめ保険に加入しているわけではないので、労災保険に加入していないフリーランスの人は業務に関して被災した場合、後から申請しても保険は給付されません。業務中に病気やケガを負う前に、いち早く労災保険の特別加入を申請しましょう。
また、特定の業務に一定期間従事した一人親方等は加入時に健康診断を受ける必要があり、その結果次第では特別加入が制限される場合もあります。
細かな注意点や保険料の概要、給付の種類などは、厚生労働省が配布している「特別加入制度のしおり」を参照してください。
今回は、労災保険の特別加入制度について解説しました。昨今、「労災」という言葉を労働者の過労死問題などで耳にすることが多くなりました。働き方が多様化する中で、労働者を保護するための労災保険は、任意加入という形でフリーランスの人も対象となっています。業務・通勤中に思わぬアクシデントがあった際、労災保険の給付を受けるために、フリーランスの方はぜひこの記事で紹介した特別加入制度を活用してください。
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