2017年3月末、政府の働き方改革実現会議が「働き方改革実行計画」をとりまとめました。政府は今後、法改正等を含め本計画に沿って働き方改革を強力に推し進めていく方針であり、企業にも対応が求められます。
今回は、働き方改革実行計画の中から「柔軟な働き方がしやすい環境整備」に関する内容を紹介するとともに、テレワークなど柔軟な働き方の実現のために企業が取り組むべき事項について解説します。
目次
ICTの活用により時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができる「テレワーク」は、子育てや介護と仕事との両立の手段となり、多様な人材の能力発揮を可能とする、柔軟な働き方の一つです。
また、副業や兼業は、企業外部の技術やアイディアを取り込んで新たな価値を創出する「オープンイノベーション」や起業の手段として有効です。
日本においては、テレワークの利用者や副業・兼業を認めている企業は極めて少なく、その普及を図っていくことが重要とされています。
一方、テレワークや副業・兼業の普及が長時間労働を招いては本末転倒であることから、政府は、労働時間管理の在り方の整理も含め、ガイドラインの制定など実効性のある政策手段を講じて、これらの柔軟な働き方の普及を加速させていくこととしています。
「雇用型テレワーク」とは、企業と雇用契約を結んだ労働者が、オフィス外の場所で働くテレワークの形態をいいます。近年、モバイル機器の普及により、自宅で働く形態だけでなく、郊外に住む労働者が住宅地に近接したオフィスで勤務する「サテライトオフィス勤務」や、外勤中の労働者がタブレット端末などで情報のやりとりをする「モバイル勤務」など新たな形態のテレワークが増加しています。
現行の雇用型テレワークのガイドラインは、自宅での勤務に限定されていることから、政府はガイドラインを改定して他の勤務形態を追加したうえで、テレワークが長時間労動を招かないよう、労働時間管理の仕方も整理することとしています。
テレワークの導入にあたっては、労働時間の管理を適切に行うことが必要不可欠です。一方、現行の雇用型テレワークのガイドラインにおいては、育児や介護などの理由で仕事を中抜けする場合の労働時間の取扱や、半日だけテレワークをする際の移動時間の取扱などが明確化されていません。
このため、企業がテレワークの導入に躊躇することがないよう、フレックスタイム制や通常の労働時間制度における中抜け時間や移動時間の取扱等を具体的に整理するなど、その活用方法について働く実態に合わせて明確化することとしています。
また、長時間労働を防止するため、深夜労働の制限や深夜・休日のメール送付の抑制等の対策例を推奨することとしています。
Wi-Fiやクラウド環境、スマートフォンやタブレットの普及など近年のICT利用環境の進展や、サテライトオフィス勤務・モバイル勤務の実態を踏まえ、テレワーク導入時に必要なセキュリティ面の対応に関するガイドラインについても改定することとされています。
テレワークを広く推進するため、国家戦略特区によりテレワーク導入企業に対するワンストップの相談支援を実施することに加え、育児中の労働者や障害者を対象にしたモデル事業の実施や、労働時間管理および健康管理の在り方を含めたテレワークの推進方策についての検討などが行われることとされています。
「非雇用型テレワーク」とは、企業と雇用契約を結ばずに自宅等で働くテレワークの形態をいいます。このような働き方が生まれた背景として、インターネットを通じた仕事の仲介事業である「クラウドソーシング」の急速な拡大があります。
クラウドソーシングの働き手は、仕事内容の一方的な変更やそれに伴う過重労働、不当に低い報酬やその支払い遅延など、発注者や仲介事業者との間で様々なトラブルに直面していることが課題となっています。
非雇用型テレワークを始めとした雇用に類似した働き方が拡大している現状を踏まえ、まずはその実態を把握するとともに、政府は有識者会議を設置し、法的な保護の必要性について中長期的課題として検討することとされています。
現行の非雇用型テレワークの発注者向けガイドラインでは、発注者と働き手の直接的な契約を前提としており、仲介事業者が介在する形態が想定されていません。
このことから、現行のガイドラインを改定し、仲介事業者もガイドラインを遵守すべきことを明確化したうえで、クラウドソーシングの普及に伴うトラブルの実態を踏まえ、仲介手数料や著作権の取扱の明示など、仲介事業者に求められるルールを明確化することとされています。
また、働き手へのセーフティーネットの整備や教育訓練等の支援策についても、官民連携した方策を検討し、実施することとされています。
副業・兼業の希望者は近年増加している一方、これらを認める企業は少ないのが現状です。労動者の健康確保に留意しつつ、政府は原則として副業・兼業を認める方向で、普及促進を図ることとしています。
副業・兼業を普及促進するため、政府は新たにガイドラインを策定し、副業・兼業のメリットを示すとともに、合理的な理由なくこれらを制限できないことをルールとして明確化することとしています。
また、長時間労働を招かないよう、労働者が自ら確認するためのツールの雛形や、企業が副業・兼業者の労働時間や健康をどのように管理すべきかについてもガイドラインに盛り込み、副業・兼業を認める方向でモデル就業規則を改定することとしています。
副業・兼業を通じた新事業の創出や、中小企業の人手不足に対応した事例など、副業・兼業の多様な先進事例について、周知啓発を行うこととしています。
テレワークの導入にあたっては、労働時間を適正に管理することが必要不可欠です。テレワークの場合、オフィス外で働くことになることから、管理者の現認による労働時間管理や、オフィス内でのタイムカード打刻による労働時間管理を行うことはできません。
オンライン上で打刻可能なクラウド型勤怠管理システムを導入することにより、オフィスの外で働く労動者の労働時間管理が可能となることから、これらのツールを活用し、テレワーク実施者の労働時間を適正に管理できる体制を構築することが大切です。
テレワークの導入にあたっては、ポケットWi-Fiやコミュニケーションツールなど、必要なツールを整備することが必要不可欠です。また、業務連絡の方法や人事評価の方法、費用負担の在り方等を定めたテレワーク規程も整備しておく必要があります。
テレワークに必要なツールやテレワーク導入にあたっての留意点については、下記の記事で解説していますので、参考にしてください。
・関連記事:多様で柔軟な働き方、テレワーク導入のすすめ
テレワークを活用してオフィス以外の場所で仕事を行う場合、社内で仕事を行う場合よりも情報漏洩の可能性が高まることから、情報セキュリティポリシーの策定やトラブル時の連絡体制の整備など十分な情報セキュリティ対策を講じることが欠かせません。
テレワークの実現に求められる情報セキュリティ対策については、下記の記事で解説していますので、参考にしてください。
・関連記事:テレワークの実現に求められる情報セキュリティ対策とは
多くの企業では、テレワークの導入や副業・兼業の容認にあたり、就業規則の改定が必要となることが想定されます。自社の就業規則を見直し、適切に改定することが必要です。
就業規則の作成方法については、下記のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
・関連記事:【資料ダウンロード可】就業規則の作成方法を解説!
働き方改革実行計画の内容が企業に与える影響は非常に大きいことから、計画の内容や企業が目指すべき方向性についてしっかりと把握したうえで、今のうちから対策を講じておくことが重要です。
働き方改革実行計画のその他の内容については下記の記事で解説していますので、こちらも併せて確認しておくようにしましょう。
・関連記事:働き方改革実行計画が決定! Vol.1 ~同一労働同一賃金の実現について~
・関連記事:働き方改革実行計画が決定! Vol.2 ~長時間労動の是正について~
This website uses cookies.