2017年3月末、政府の働き方改革実現会議が「働き方改革実行計画」をとりまとめました。政府は今後、法改正等を含め本計画に沿って働き方改革を強力に推し進めていく方針であり、企業にも対応が求められます。
今回は、働き方改革実行計画の中から「罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」に関する内容を紹介するとともに、長時間労働の是正のために企業が取り組むべき事項について解説します。
目次
働き方改革実行計画の概要(長時間労働の是正)
長時間労働の是正の基本的な考え方
日本は欧州諸国と比較して労働時間が長く、この20年間フルタイム労働者の労働時間はほぼ横ばいとなっています。仕事と子育てや介護を無理なく両立させ、女性や高齢者が働きやすい社会に変えていくためには、長時間労働を是正しなければなりません。
長時間労動の是正のためには、いわゆる「36協定」でも超えることのできない、罰則付きの時間外労働の限度を具体的に定める法改正が必要不可欠です。
現行の時間外労働の規制では、厚生労働大臣の限度基準告示により、いわゆる36協定で締結できる時間外労働の上限について、月 45 時間以内、かつ年 360 時間以内と定められています。一方で、罰則等による強制力がない上、臨時的な特別の事情がある場合として労使が合意して特別条項を設けることで、上限無く時間外労働が可能となっています。
そこで、法改正を行い、現行の限度基準告示を法律に格上げし、罰則を定めることで強制力を持たせるとともに、臨時的な特別の事情がある場合として労使が合意した場合であっても、上回ることのできない上限を設定することとされています。
時間外労働の上限規制
時間外労働の限度について、原則として月45時間、かつ、年360時間とし、違反した場合には、特例の場合を除いて罰則が課されるようになります。特例として、特別の事情がある場合として労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、時間外労働は年720時間(月平均60時間)を上回ることができないこととされます。
また、年720時間内において、繁忙期などで一時的に事務量が増加する場合でも、下記のとおり、上回ることのできない上限が設定されます。
- 2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80 時間以内を満たさなければならない
- 単月では、休日労働を含んで 100 時間未満を満たさなければならない
- 特例の適用は、年半分を上回らないよう、年 6 回を上限とする
パワーハラスメント対策・メンタルヘルス対策
労働者が健康に働くための職場環境の整備のためには、労働時間の管理を厳格化するだけでなく、上司や同僚との人間関係を良好なものにしていくことも必要です。このことから、職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行うこととされています。
また、過労死等防止対策推進法に基づく大綱において、メンタルヘルス対策等の新たな目標を掲げることを検討するなど、政府目標を見直すこととされています。
勤務間インターバル制度
企業に対し、労働者の前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保する「勤務間インターバル制度」の努力義務が課されることとされています。また、勤務間インターバル制度の普及促進に向けて、政府は労使関係者を含む有識者検討会を立ち上げるとともに、勤務間インターバル制度を導入する中小企業に助成金を支給するなどにより、取組を推進することとしています。
現行の適用除外の取扱
現行制度で適用除外となっている、自動車の運転業務や建設事業、医師、新技術・新商品等の研究開発業務といった業種等については、今後、実態を踏まえて対応の在り方を検討することとされています。
取引条件改善など業種ごとの取組の推進
取引関係の弱い中小企業等では、発注企業からの要請や顧客からの要求に応えるため、長時間労働になってしまう傾向があります。そのため、政府は、商慣習の見直しや取引の適正化について、業種ごとに強力に推進することとしています。
例えば、IT産業については、平均時間外労働時間を1日1時間以内にするなどの業界団体等による数値目標を政府がフォローアップし、長時間労働是正の取組を促すこととされています。
企業本社への監督指導等の強化
過重労働撲滅のための特別チームによる重大案件の捜査を進めるとともに、違法な長時間労働が複数の事業場で認められた企業には、企業本社への立ち入り調査や企業幹部への指導を行い、全社的な改善を求めることとされています。
また、違法な長時間労働が認められた場合に企業名が公表される「企業名公表制度」について、複数の事業場で月80時間を超える時間外労働がある場合も対象とするなど、要件を拡大して強化することとされています。
長時間労動是正のため、企業が取り組むべき事項
労働時間の適正な把握
長時間労働是正のためには、まず、労働時間を適正に把握することが必要不可欠です。勤怠管理システムを導入することなどにより、客観的に労働時間を管理する体制を構築するとともに、厚生労働省が定める労働時間の適正な把握のためのガイドラインに則って、適切に労働時間を管理していくようにしましょう。
・関連記事:勤怠管理がますます重要に! 厚労省、労働時間の適正な把握のためのガイドラインを公表
勤務間インターバルの導入
今後の法改正により、勤務間インターバルの導入は努力義務とされる見込みです。また、勤務間インターバルは、労働者の健康確保のために欠かせない制度だといえます。
厚生労働省は、企業に対して勤務間インターバル導入費用の一部を助成する「職場意識改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」を新設していますので、助成金等を活用しながら、勤務間インターバルの導入に積極的に取り組むことが求められます。
・関連記事:職場意識改善助成金を活用し、勤務間インターバル制度を導入しましょう!
ストレスチェックや医師による面接指導の着実な実施
メンタルヘルス対策のため、2015年12月末より義務化されているストレスチェック制度を着実に実施し、労働者のストレス状況の把握やストレスチェック結果に基づいた職場環境等の改善方策を進めていくことも重要です。
また、ストレスチェックの結果により高ストレス者と判断された労働者や、一定の要件を満たす長時間労働者に対しては、医師による面接指導を着実に実施することで、過重労働を防止していくことが欠かせません。
・関連記事:ストレスチェック制度の導入で総務部がやるべきこと【チェックリストつき】
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まとめ
働き方改革実行計画の内容が企業に与える影響は非常に大きいことから、計画の内容や企業が目指すべき方向性についてしっかりと把握したうえで、今のうちから対策を講じておくことが重要です。
働き方改革実行計画のその他の内容については下記の記事で解説していますので、こちらも併せて確認しておくようにしましょう。
・関連記事:働き方改革実行計画が決定! Vol.1 ~同一労働同一賃金の実現について~
・関連記事:働き方改革実行計画が決定! Vol.3 ~柔軟な働き方がしやすい環境整備について~