平成30年度の税制改正大綱が閣議決定され、中小企業の設備投資の促進や事業承継税制の拡充など、労働関係の税制も様々な見直しがなされています。今回はそんな平成30年度の税制改正について、総務担当者がおさえるべき労働関係の税制改正を詳しく解説します。前編に続いて、後編では「交際費課税の特例処置の延長」と「再編・統合等に係る税負担の軽減措置の創設」の2点についてご紹介します。
交際費課税の特例処置の延長
概要
「平成30年度税制改正の概要(厚生労働省関係)」の中では、法人の交際費に関して、以下の通り言及があります。
「交際費等の損金不算入制度について、その適用期限を2年延長するとともに、接待飲食費に係る損金算入の特例及び中小法人に係る損金算入の特例の適用期限を2年延長する。」
このように、今回の税制改正にて、平成29年度までとされていた交際費の特例処置の適用期限を2年間延長することが決まりました。なお、損金不算入制度の内容には変更点はありません。
交際費の損金不算入制度とは?
交際費の損金不算入制度は、法人への特例処置として設けられた制度です。交際費は元々、損金には算入されない、あるいは損金算入されたとしても限度額が現在よりも低く設定されていました。近年では、経済活動の活性化を目的に損金算入限度額を拡大する方向に税制改正が進んできました。現行制度の具体的な内容は以下の通りです。
- 飲食のために支出する費用の額(社内接待費を除く)の50%を損金算入
- 資本金1億円以下の中小法人については800万円まで全額損金算入
なお、資本金が1億円以下の中小法人については、1.または2.のいずれかを選択できるようになっています。そのため、損金算入額が大きくなる方を選ぶことが可能です。
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背景
厚生労働省によると、交際費は1990年初頭には約6兆円あったものの、近年では約3兆円まで半減しており、飲食店等の需要にマイナスの影響を及ぼしているとしています。また、一般的に中小法人は新規顧客の開拓や販売促進の手段が限られており、その状況下で交際費は取引の拡大や事業活動の円滑化を図るために不可欠な販売促進手段となっています。主に以上の観点から交際費の損金不算入制度は今後も必要な政策と判断され、今回の税制改正にて適用期限が延長されました。
期待される影響は?
本政策によって法人は交際費を支出しやすくなるため、今後も交際費として計上される飲食接待費が上昇することが見込まれます。実際に経済産業省のよると、平成26年度税制改正によって現行の交際費の損金不算入制度を導入して以来、全体的なコスト削減の傾向の中にあっても交際費の損金算入額は「右肩上がりで実績が伸びている」とされています。そのため、今後も法人の交際活動における飲食店の需要が拡大するものと予見されます。また、そこから派生する需要の拡大や、国内の雇用の7割を支えている中小法人の経済活動を支えることによって経済の活性化が期待できます。
再編・統合等に係る税負担の軽減措置の創設
概要
「平成30年度税制改正の概要(厚生労働省関係)」の中では、中小法人や小規模事業者の再編・統合に係る税負担の軽減措置の創設に関して、以下の通り言及があります。
「中小企業等経営強化法の改正を前提に、同法に規定する認定経営力向上計画(仮称)に基づいて、再編・統合を行った場合における不動産に係る登録免許税・不動産取得税を軽減する措置を創設。」
このように、こちらの税制度は今回の税制改正にて新たに追加されました。策定された背景や制度の内容、今後の影響について見ていきましょう。
背景
経済産業省による「平成30年度地方税制改正(税負担軽減措置等)要望事項」には、本政策の目的が以下のように記されています。
「親族以外への事業承継をより一層円滑に行える環境を整えることにより、経営者の高齢化や後継者不足を原因とした廃業を減少させ、優良な経営資源を有する中小企業・小規模事業者の事業継続を支援し、地域経済・雇用の維持・活性化を図る。」
本政策は、昨今大きな課題となっている、中小法人における次世代への経営引継ぎを後押しするために策定されたものです。今後5年間の間に70歳を超える中小法人・小規模事業者の経営者は約60万人にのぼり、そのうち半数以上が後継者未定であると言われています。そのため、現状のままでは多くの経営者は廃業を余儀なくされ、それに伴ってさらに多くの雇用が失われてしまいます。本政策の必要性の高まりは、こうした状況を受けてのものです。
制度の内容
本制度により、経営力向上計画を申請して認定を受けた中小法人・小規模事業者には、不動産にかかる「登録免許税」と「不動産取得税」の税率が引き下げられるようになりました。
- 経営力向上計画とは?
経営力向上計画とは、中小法人や小規模事業者等の経営力向上のための人材育成や財務管理、設備投資などのサポートを目的とした取り組みです。今回の税制改正に伴い、M&Aによる事業継承が認定制度の対象に追加されました。
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- 登録免許税の引き下げ
登録免許税の税率は以下の表の通りに引き下げられました。
通常税率 | 計画認定時の税率 | ||
不動産の所有権 移転の登記 | 合併による 移転の登記 | 0.4% | 0.2% |
分割による 移転の登記 | 2.0% | 0.4% | |
その他の原因による 移転の登記 | 2.0%※ | 1.6% |
※平成31年3月31日までに土地を売買した場合には1.5%に軽減
- 不動産取得税の引き下げ
不動産取得税の税率は以下の表の通りに引き下げられました。
通常税率 | 計画認定時の税率 (事業譲渡の場合※2) | |
土地 住宅 | 3.0%※1 | 2.5% (1/6減額相当) |
家宅以外の家屋 | 4.0% | 3.3% (1/6減額相当) |
※1平成33年3月31日まで、土地や住宅を取得した場合には3.0%に軽減されている。(住宅以外の建物を取得した場合は4.0%)
※2 合併・一定の会社分割の場合は非課税
期待される影響は?
経済産業省によると、近年では、親族以外への売却やM&Aによる経営資源の統合によって実力のある経営者等に事業を引き継ぐことで、サプライチェーンや、地域経済の活力維持、事業の発展へ繋がるというケースが増加しています。不動産にかかる登録免許税・不動産取得税の軽減によって次世代への経営の引継ぎをサポートし、その結果として中小法人や小規模事業者の事業の再編や統合が活発化することが期待されています。さらに、中小法人や小規模事業者の事業の継続を図ることで、近年衰退傾向にある地域経済の活力維持の実現が期待されています。
まとめ
今回の平成30年度税制改正にて法人の経営をサポートする政策として、「交際費課税の特例処置の延長」と「再編・統合等に係る税負担の軽減措置の創設」が施行されました。交際費課税の特例処置の延長によって、法人の交際費の損金算入額が拡大することによる事業の活性化や、飲食業の需要の拡大が見込まれます。また再編・統合等に係る税負担の軽減措置の創設によって、中小法人や小規模事業者の事業の再編や統合の活発化や、それに伴う地域経済の活力維持が期待できます。以上のように税制改正は法人の経営や事業に直接的に関係する場合が多くあります。今後も税制度の変更には注意し、最新の情報を基に対処しましょう。