厚生労働省が示す「セクハラ指針」が改正され、LGBTなどの性的少数者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントもセクハラ指針の対象となる旨が明確化されました。
LGBTなど性的少数者の問題が社会的に認知され始め、企業にもその対応が求められてきています。今回は、改正セクハラ指針の内容や、LGBT社員に対して企業がとるべき対応について説明します。
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男女雇用機会均等法では、職場におけるセクハラによって労働者の就業環境が害されることのないよう、企業は必要な措置を講じなければならないことが定められています。そして、企業がこのような措置を適切かつ有効に実施できるよう厚生労働省が定めた指針が、通称「セクハラ指針」です。正式名称は、「事業主が職場における性的言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」といいます。
セクハラ指針では、企業がセクハラ対策のために雇用管理上講ずべき措置として10項目を定めており、企業はこれらを必ず実施しなければなりません。指針の内容としては、企業において職場におけるセクハラがあってはならない旨の方針を明確化することや、セクハラに係る労働者からの相談に応じて適切に対応するための体制を整備すること、セクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応を行うことなどが定められています。
セクハラ指針は2016年8月に改正され、改正指針は2017年1月より施行されることになっています。今回の改正により、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)などの性的少数者に対する職場におけるセクハラも、セクハラ指針の対象となる旨が明確化されました。
従来から、職場におけるセクハラについては被害者の性的指向や性自認は問わないものであり、LGBTなどの性的少数者へのセクハラについても企業は適切に対処する必要がありました。しかし、そのことが周知徹底されておらず、性的少数者がセクハラ被害について社内の相談窓口に相談しても取り合ってもらえないという事例もありました。
このような現状を踏まえて、セクハラ被害を受ける人の性的指向や性自認にかかわらず、これらの人に対する職場におけるセクハラもセクハラ指針の対象となる旨を明確化するため、今回のセクハラ指針改正が行われました。これにより、LGBTなどの性的少数者への偏見や差別をなくし、これらの人々が働きやすい環境をつくることが目指されています。
・知っておきたい!総務用語「LGBT(エルジービーティー)」
https://www.somu-lier.jp/glossary/lgbt/
セクハラ指針の改正により、LGBTなど性的少数者に対するセクハラについても企業の適切な対応が必要となることが明確化されました。企業においても、社内で設けているセクハラ禁止規定をLGBTも含めた形に改正することや、セクハラ防止研修にLGBTを含めた内容を取り入れることなど、適切な対応をとっていく必要があります。
セクハラ対策に関する基本的な考え方は、対象者が性的少数者であってもそうでなくても変わりません。しかし、LGBTの課題が認知され始めたのはごく最近のことであり、従業員まで十分に理解が浸透していないことや、LGBTであることを公表しないで働いている従業員も存在することなどから、LGBTへのセクハラは無自覚的に行われる場合があるという難しさもあります。
周囲にLGBTの当事者がいる可能性があることを意識して日頃の言動に気をつけることや、LGBTに対する差別的な言動を慎むことなど、ちょっとした配慮や心遣いをすることがLGBTへのセクハラを防止することにつながります。このような考え方を従業員に浸透させていくのも、企業の大切な役割であるといえるでしょう。
LGBTなど性的少数者の問題が社会的に認知され始め、企業にもその対応が求められてきています。企業の中には、LGBT社員が働きやすい環境を整えるため、先進的な取組を進めている企業もあります。
ここでは、LGBT社員への対応をすでに進めている企業の取組例を御紹介します。
就業規則や行動基準、ダイバーシティ宣言などの社内規定において、LGBTへの差別を行わない旨を明記する企業があります。LGBTへの差別禁止について社内規定で明文化する企業の数は、年々増えてきているといわれています。
LGBTに対する社員の理解を深め、LGBT社員が働きやすい環境を実現するため、LGBTに関する社内研修を行っている企業もあります。中には、人事を行う社員に研修を義務付けている企業もあります。
同性パートナーを配偶者とみなして住宅手当を支給する企業や、同性パートナーとの結婚の際に結婚祝い金や結婚休暇を支給する企業、同性パートナーについても慶弔休暇の取得対象にする企業などがあります。
体の性と心の性が一致しないトランスジェンダーの就活生に配慮し、エントリーシートの性別欄を廃止する企業や、性別欄の選択肢として「その他」の欄を設ける企業があります。また、性別に関係なく誰でも使用できるトイレを設置している企業もあります。
ここで紹介した事例は先進事例であり、すべての企業においてすぐに取り入れるということは難しいかもしれません。他企業の優れた取組を参考にしながら、自社で何ができるかを常に考え、できることから取り組んでいくことが大切だといえるでしょう。
職場におけるセクハラ対策は、企業の大切な責務です。従業員の能力を十分に発揮させるためにも、セクハラのない職場を実現していく必要があります。
また、性的指向や思想、性別や人種によらず、高い能力を持っている人材を活躍させるダイバーシティの考え方を取り入れることは、従業員の生産性や勤労意欲の向上につながります。多様なバックグラウンドを持つ人が働きやすい環境づくりの重要性を、ぜひ意識してみてはいかがでしょうか。
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