株主総会における株主の関心は時代の流れに応じて変化しており、例えば近年注目されている働き方改革に関する質疑が交わされる可能性もあります。株主総会への準備として、円滑な進行のためのリハーサルや、想定される質問と回答案の作成を行いましょう。今回は、株主総会の事前準備の具体的方法を解説します。
株式会社は、株式の発行により資金を得て会社経営を行ないます。そのため、出資者である株主が経営方針の決定に大きく関わることになっており、年に1度、主に6月終盤に株主総会を実施して、株主の意思を尊重した上で経営方針を定めます。株主総会の議題は、定款の変更や、取締役・監査役などの役員の変更・選任、あるいは会社の合併・他社吸収、さらには会社の解散まで多岐に渡ります。原則として決議は多数決によってなされます。
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企業に対する株主の関心事項は一人ひとり異なり、株主総会で投げかけられる質問も様々なものがありえます。したがって、「予算決算」や「今後の見通し」などの普遍的テーマは当然のこととして、時事的に注目されている「働き方改革」や「女性登用」などにも対応可能なプランを作成することが望ましいでしょう。以下は想定される質問の例と、それに対する回答例を列挙したものになります。
次年度の予算案と、本年度の決算の内容に関する質問です。企業の信用を測るための最も重要な質問ですので、予算・決算に関連する事項の1つ1つを吟味し、何を尋ねられても回答できるように準備しておく必要があります。
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企業が今後どのように業務を拡大、あるいは安定させていくのかも重要なマターです。株主が今後も株を保持し続けるか、投資を増加させるか、それとも手を引くかを決めるのは、この要素が大きく影響します。
株主総会で株主が知りたいのは「この会社は信用に足る会社か」ということです。そして、株主がその企業に何を求めているかは、企業により、また株主により異なるため、積極的な事業拡大が歓迎されることもあれば、慎重な経営姿勢の方が評価されることもあります。どちらの方向性で答えるにせよ、自社の状況に応じて誠実かつ説得力のある回答を用意しておかなければなりません。
ここ数年、働き方改革という言葉が盛んに取りざたされています。その概要は、厚生労働省の説明によれば、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」と「育児や介護(と仕事)の両立など、働く方のニーズの多様化」に、生産性向上や環境の整備などによって対応することです。
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現在、働き方改革と同様に注目を集めているのは、女性の就労機会均等です。高度成長期以来の日本社会では、男性が会社で働き、女性は家庭内で家事・育児に専念するという風潮が長らく続いてきました。しかし国連の女性差別撤廃条約締結に始まり、男女雇用機会均等法の制定などを経て、女性の社会進出を推進する潮流は近年になってますます強まりを見せています。
回答する際には現実性を意識して、言葉だけの実現性の低い発言は避けるようにしましょう。確かに近年では、男性に偏りがちな職種への女性の採用や、高い能力と意欲を備えた女性の昇進を積極的に行うポジティブアクションと呼ばれる運動が、厚生労働省などによって呼びかけられてもいます。しかしながら、女性登用の実現には大きな困難が伴います。会社内の長年の習慣を変えるには、社員の間に不公平感が生じないようジェンダー意識の啓発を行うなどの相応の準備が必要であり、性急な改革はかえって逆効果となり得ます。実際にどのような施策を採るかは各社の現状に照らして決定する必要がありますが、少なくとも株主総会においては、女性を男性と同等の基準で分け隔てなく登用する姿勢を株主にアピールすることが大切です。
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株主が企業に質問するとき、念頭にあるのは「この企業が信用に足るのかを確かめる」という目的意識です。株主から信用を勝ち取るためには、会社が行う企業活動の1つ1つに、きちんとした合理性がなくてはなりません。上記のような一般的ないし時事的なテーマ以外にも、特定の事項に対して想定される質問があるのならば、それに即した回答とその根拠を明確に述べられるように用意することが大切です。会社法第314条において企業は株主から求められた説明を行う義務が定められており、合理性に欠ける応答をしてしまえば株主の信用を失うばかりか、最悪の場合には訴訟へ発展することも考えられるので、入念に準備を行いましょう。
説得力のある説明を可能にするのは、株主が経営の安定を求めているのか、それとも思い切った革新を求めているのかなど、自社に対する株主の期待をきちんと把握していることです。それに伴い、会社の決定も、「世間の流れに合わせるべきか」それとも「普通の会社では考えられないことをするべきか」というように大きく変わってきます。株主のニーズを考え、その上で合理的な説明を用意することが、全てのトピックに共通する大切なことです。
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以上のように質問と回答を考案したら、事前に株主総会を担当する社員・役員でリハーサルを実施しましょう。司会進行の役割やマイクの受け渡しなど、細部に至るまできちんと打ち合わせをして、本番で流れるような動きを株主に見せることができれば、それだけでも信用を勝ち取る要因となります。質問内容に関しては、この分野の質問は誰が責任を持って統括して回答すると分担を決めておくと良いでしょう。加えて、回答者全員が自分の担当だけでなく、すべての想定される質問とそれに対する回答を共有しておきましょう。そうすれば、株主が「この質問はあの人に答えてほしい」などのように質問を投げかけたとしても、最低限必要な対応が可能となります。
株主総会での質問に対して、どれだけ真正面から正確に答えることができるかは、企業の信頼に直結します。失敗すれば企業の未来への株主の期待感を失い、株を手放されかねませんが、説明責任を果たすことができれば安定した継続関係が見込めます。事前に綿密な想定問答を作成すると共に、丁寧なリハーサルを実施し、確実な成功を収めましょう。
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