「モンスター社員」という言葉。聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。「モンスター社員」という言葉は、ここ数年で一気に一般的になってきました。ではどのような場合をモンスター社員と呼ぶのでしょうか?
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そもそもモンスター社員という言葉は、2000年代の初め頃から言われ始めたモンスターペアレンツという言葉の派生的な言葉だと考えられています。かなり一般的になってきた言葉ではあるものの、法的な裏付けがあるなど、 きちんとした定義がある言葉ではありません。そこで私は、モンスター社員とは「会社に客観的な損害を与える行動を、仕事の目的とは別の目的で行い、それを改めないようとしない社員」と定義をしています。
この定義の中で、特にポイントとなるのは「その行動の目的が仕事の目的とは別である」という点です。つまり、モンスター社員であるのか否かで、とるべき対処が変わってくるという点に注目すべきです。具体例を挙げると、仕事が遅い社員がいた場合、その原因が能力不足なのか、そもそも仕事へ取り組む姿勢の問題なのかといった点において、モンスター社員であるか否かが別れます。
たとえば、単純な能力不足の場合、仕事をフォローし、教育を行い、指導する。もしくは別の業務を与えるなどの対処方法をとることでその問題は解決することができるでしょう。
しかし、モンスター社員への対処の場合、その取り組む姿勢や考え方そのものに問題があるため、 会社の考え方や認識そのものから話し合い、理解させる必要があり、より根本的な対処が必要です。また、モンスター社員の場合は、その目的が仕事に向いていないケースが多いため、共に歩むというよりもルールを決めてその行動を縛るということを検討する必要が出てきます。
周囲の環境が目まぐるしく変化する中で、人と競争せざるを得なくなったり、多くの情報がありふれすぎてしまったり、というへのストレスがモンスター社員の増加につながっていると考えられます。会社に損害を与えるような社員はどの時代でもいますが、以下のような背景があり、「モンスター社員」という言葉が生まれるまで、その存在が増えてきているのではないでしょうか。
モンスター社員が生まれる原因の一つとして、企業体制の問題が挙げられます。不当な人事評価やコミュニケーション不足が従業員のストレスを募らせ、モンスター社員を生み出している可能性も考えられます。特に、テレワーク化においてコミュニケーションが減少している現在では、企業がコミュニケーションを促して、意思の伝達や建設的な議論を行う機会を創出しましょう。
モンスター社員を闇雲に非難するのではなく、まずは職場環境を見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
近年、様々なハラスメントが注目を集め、今まで無意識に行っていた行動がハラスメントだと気付いた方も多いのではないでしょうか。その影響か、パワハラを恐れて部下を指導できなくなる管理職が増えているようです。厚生労働省はパワハラについて、優越的な関係を背景とした、業務の適正な範囲を超えて行われる、就業環境や心身を害する行動と定義づけています。業務上必要な指示や指導はパワハラには該当しないことに留意し、管理者に対して適切な指導の方法を研修などで教育するのも良いでしょう。
モンスター社員という言葉の中には様々なタイプが内包されています。モンスター社員対策として、一番簡単な対処方法は「辞めさせる」ですが、日本の法制度では、モンスター社員だからと言って簡単に解雇できないこともご承知の通りです。私は、事例やこれまでの経験から、モンスター社員を大きく2種類に分類しています。
その方の性格に問題があり、正しくコミュニケーションができないケースです。例えば、些細なことで傷ついてすぐ休んでしまう人などが挙げられます。人は誰でも、いろいろな物事を根本的に理解したりイメージしたりする「認知」のクセをもっています。傷つきやすい人であれば、常に自分は非難されているという認知が、休むという行動になって表れるのです。
自己の利益を優先するあまり、会社のルールを都合良く解釈したり、意図的に悪用しようとしたりするケースです。勝手に残業をして残業代を得ようとするケースなどが当てはまります。残業は原則、会社の命令が無ければすることはできません。しかし残業を黙認していると、後でトラブルになっても、暗黙の了解があったとして残業代が認められるケースが多いことを知っています。
モンスター社員対策の基本は就業規則を作成し、これを厳格に運用することです。
まず大前提として労働各法は、原則として労働者を守るようにできています。つまり相手がどんなに悪質なモンスター社員であろうとも、いざとなれば法律は理不尽なほどに労働者を守ります。従って、会社として、会社自身やその他の社員を守るには、就業規則という盾をきちんと準備して、正しく運用する必要があります。
また、基本的には、この就業規則が会社を守る唯一の盾となります。しかしながら多くの場合この就業規則をインターネット等でダウンロードしてきたものを使用しているのみになっており、結果として、トラブルが発生した際に意味を為さないというケースが多く見られます。
就業規則を策定する場合の注意点としては、
最低限、これらの条項には、気をくばっておく必要があるでしょう。
そのうえで、問題行動の根本を見極めることが大事です。特に性格型の場合、その認知の歪みが是正されることで、今度は会社の戦力になることも少なくありません。会社によっては、その会社の社風として染みついているコミュニケーションの手法が、モンスターを育てているケースもあります。問題社員が退職しても、次々と問題社員が出てきてしまう職場では、社内の会話やコミュニケーションの取り方も、一つの原因として疑ってみてください。
問題行動を取り除こうとした場合、基本的には経営者や上司といった立場の方がその話を傾聴することが基本です、しかし、そういった立場の方というのは普段忙しいうえに、「上司部下」という関係性と「話を聞く人、話す人」という2つの関係性が同時に発生することで、話す側が言いたいことを話せなくなる可能性があります。これを二重関係と言い、カウンセリングではできるだけ避けたい関係性でもあります。
二重関係を避けるという点では、産業カウンセラーなど外部のカウンセラーを使うことをお薦めします。モンスター社員と呼ばれる人も苦しんでおり、カウンセリングを必要としているのです。
性格型のモンスター社員の場合、アプローチとしては、まずこの歪んだ認知を取り除くことが挙げられます。カウンセリングや上司の傾聴などを通じて、本人の現在の認知の歪みや課題を自覚させ、会社と本人の間に共通の目的を見つけ、それを達成していくプロセスを作るのです。
性格型の場合、本人もその性格ゆえに起こる問題を自覚していて悩んでいるケースも少なくありません。特に若い方であれば、認知を正常の方向に向けることも成長の一過程と言えるでしょう。せっかく雇用という形で会社と縁ができたわけなので、本人の成長を見守るつもりで長期的な問題行動の改善に取り組んでいただきたいところです。
悪意型のモンスターに対しては、ルールで縛ることを考えた方が良いでしょう。就業規則など規則の整備は大事です。そのうえで、社員の問題行動にはきちんと処罰を行い、懲戒処分などを行ってください。どんな注意や行動も、紙などで証拠を残しておくことが、後々トラブルになったときに重要になります。
確かにこの日本で従業員を解雇するというのはハードルが高いのですが、それでも就業規則に則った手順で行われ、その理由が客観的に明確なものであれば、その解雇は認められるケースもあります。また、これらの証拠を残しておく手段を取ることで、問題行動の抑止にもつながります。会社の秩序を守るために、妥協無く行うことが肝心です。
以前に、弊所にて対応した事例です。何かにつけて大した理由も無く欠勤を繰り返してしまう方がいました。体調不良と言われると、会社としても無理に出勤しろとも言えず、困って私のところに相談に来たという経緯です。このような場合、まずは、その欠勤の本当の理由を引き出す必要があります。
このケースでは、その方の家族へもヒアリングを実施することで、「仕事に対する自信の喪失と無力感が根本にある」ということがわかりました。一方、会社の就業規則を確認したところ、欠勤を一定期間内に通算すると休職に入る規定があり、かつ既に休職満了期間を過ぎていました。
そこで、会社のルールとして雇いきれないことを説明したうえで、いったん自然退職の形を取り、社長自らが回復に向けてご本人に私的なサポートをしていくことで話をつけることができました。つまり円満退職を実現できたわけです。
この事例のポイントは、まず根本原因を突き止める努力をしたこと、そして会社のルールに従って対処したことです。特に、上司である社長が、本人やその家族に対する傾聴を実施し、ご本人と家族から信頼を得ることができたことが非常に大きかったといえます。だからこそ、いったん退職の形を取るというルールの運用も受け入れられたのでしょう。
自分に気に入らないことがあると、すぐに切れてしまう社員について困っているという経営者の方が相談に来られたことがあります。困ったのは、その方が技術を持っており、簡単に解雇というわけにいかなかったことです。
この社員の場合、技術を持っている立場上、自分が多少切れても解雇にはならないという、いわば会社をなめたところがありました。そこで、まず就業規則の作成に取り掛かりました。懲戒規定のところに、明確に「大声を出すなどの威嚇行為」という文言を付け加えました。そのうえで、職場でその方が切れてしまう場面では録音をしておくようにしたのです。
就業規則と証拠を取っている安心感からか、その社員への対応について、経営者の方は以前より冷静になれたとおっしゃっていました。この冷静さが、結果的に社員の問題行動を抑えることにつながりました。
モンスター社員が会社に及ぼす損害額は、本人の給与の額だけではありません。モンスター社員がいるだけで社内の雰囲気が悪くなり士気が下がり、仮に生産性が5%落ちるだけでも会社が被る損害は甚大です。
仮に年収400万円、売上への貢献1500万円の社員10人の生産性が5%落ちた場合、それだけで750万円の損害が発生することになります。また、さらにモンスター社員がいたことにより退職者が出た場合、その退職者の採用コスト、教育コスト、管理コストなど、これらを全て失うことになります。仮に、採用コスト50万円、教育コスト200万円程度と見積もった場合でも、先ほどの損害とあわせ、1,000万円以上の損害が出るということもあるでしょう。
また、モンスター社員がいることの影響は、会社の規模が小さい方がより大きくなります。従って小さな会社であればあるほど、モンスター社員対策をとれる状況を早期に作り、問題の種が小さなうちから対処できる方法を予め準備しておくことが必須であるといえます。
モンスター社員となってしまっている方の多くは、会社の考え方とその本人との考え方の間で、何かしらのボタンの掛け違いが起こっています。ボタンを掛け違えたまま働いているという状況は、本人にとっても会社にとっても不幸であると言えます。
だからこそ会社は本人ときちんと話をして、教育をできる環境を整え、親身になって向き合いましょう。一方で雇用主としての責任もありますので、ルールを作って、運用することもまた必要です。簡単ではないと思いますが、会社として重要なテーマとなりますので、ぜひ取り組んでみてください。
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