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ワークライフバランスを実現する、限定正社員制度とは?

限定正社員とは、勤務地や労働時間に限定がある正社員を指し、アベノミクスの成長戦略のうちの1つとして示されました。限定正社員制度は、社員のワークライフバランスの向上や、企業の優秀な人材な確保など、労使双方にメリットがある制度で、「無期転換ルール」に対する受け皿としての役割も期待されています。今回はそんな限定正社員制度について、メリットとデメリットを解説します。

限定正社員とは

日本社会で正社員と非正規雇用の労働者の待遇の違いが社会問題化して久しく、とりわけ21世紀に入ってからは格差がより顕著となってきました。平成24年に第2次安倍政権が誕生し、安倍首相が打ち出した「アベノミクス」の理念の1つが、時代に即した多様な働き方の実現でした。その結果、正社員と非正規労働者という2つの枠組みだけでは多様な働き方を実現できないとし、限定正社員という新たな区分が考案されました。厚生労働省は、限定正社員を「多様な正社員」と表現し、「職務」「労働時間」「勤務地」について限定を設けた、新しい正社員の形式として定義しています。こうした限定正社員制度は、企業と労働者の双方にとってメリットがあるのが特徴です。

職務についての限定

正社員になると、どのような業務に就くかは企業の人事部の判断に一任されることが多々あります。そのような条件のもとでは、労働者は自分の全く希望しない業務に当てられて労働意欲が低下したり、あるいは短期間で次々と担当業務が変わることで専門的スキルが身につかなかったりというデメリットが存在します。

職務についての限定正社員制度は、雇用の際にあらかじめその労働者がどの業務に就くかを固定することで、その道に関しての専門家を育てることにつながり、企業としての強みを獲得できるとともに、労働者の業務への希望とのミスマッチを減らして業務における生産性を向上させることもできます。

労働時間についての限定

正社員になると、平日の9時から18時の労働に加えて残業や休日出勤も当たり前という場合もたくさんあります。ですが、全ての人々がそのような条件に対応できるわけではありません。持病や怪我のせいで長時間の労働が困難な人もいますし、近年では親の介護や子育てと仕事の両立を望む人も多くなっています。

労働時間についての限定正社員制度は、その労働者が週何時間働くか、あるいは特定の曜日は短く働くなどの規定を、雇用契約の中で決めておくことで、企業はフルタイム勤務ができない優秀な人材を効果的に登用することができます。これにより、例えば、優秀な女性社員が育児を理由に退職せざるを得ないといった事態を回避できます。労働者の側としても、たとえフルタイムで働けなくても満足な待遇を得られるので業務へのモチベーションも上がります。加えて、時間的な束縛が少ないことにより、労働者は資格取得など自らのスキルアップに有効に時間を用いることができるため、企業にさらなる利益をもたらす人材へと成長する可能性も与えられることになります。

勤務地についての限定

正社員になれば、どの勤務地で働くかは人事部の意向によって決まるケースが多いでしょうし、中には海外赴任を言い渡される社員もいます。しかし、育児や介護といった家庭の事情により、転勤や居住地から遠く離れた場所への通勤などが困難である場合があります。勤務地についての限定では、雇用の際にあらかじめ労働者がどの場所で働くかを固定することによって、労働者1人ひとりの都合に合わせた勤務形態を可能にします。企業は家庭事情を理由に社員を退職させる必要がないため、社員の層の幅が広がり強みとできますし、労働者側も自分の希望する勤務地で家庭事情と両立可能な働き方ができます。

 

限定正社員と正社員の違い

限定正社員は、限定する箇所を除けば基本的には正社員と同じ待遇を受けることができます。もちろん、公平性の観点から給与体系には正社員との間に差があることがほとんどですが、その他の面においては等しい待遇となります。

例えば、雇用期間に終わりを設けないという点です。非正規労働者は、たいてい1年などの契約期間が決まっており、継続して働きたければ1年ごとに契約を更新する必要があります。逆に言えば、これは1年ごとに解雇の恐れがあるということになります。ですが限定正社員は、正社員と同様に雇用期間に期限が設けられないため、何事もなければ定年まで仕事を続けることが理論上は可能です。

また、福利厚生の面でも正社員と同じ待遇となります。非正規労働者は、労働時間などの規定における拘束が少ないため、保険などの福利厚生が正社員に比べて貧弱である場合が多いですが、限定正社員は、労働時間等の条件を満たせば正社員同様の福利厚生を受けることができます。

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非正規から正社員への受け皿として

これまでの社会では「労働形態に拘束が多いが、待遇は良い正社員」と、「労働形態に拘束が少ない分、待遇が悪い非正規労働者」という2通りの選択肢しかなかったのが、限定正社員の出現によって選択肢が広がりました。企業としては、これまで非正規労働者が待遇の悪さを訴えたとしても、突然に彼らを正社員に登用してしまえば、人件費や保障の費用が一気にかさみ、企業の財政は苦しくなるというジレンマが存在しました。しかし限定正社員制度が登場したため、企業はまず非正規労働者を限定正社員に昇格させる措置を取ることができます。これにより企業としては経費が一気に増えることなく労働者の反発を抑えることができますし、労働者としても労働条件が非正規時代とさほど変わらない環境で業務を続けることができるので、望ましい措置だと言えるでしょう。

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限定正社員制度のデメリット

限定正社員制度のすべてが、ここまで述べてきたように、企業と労働者双方にとってのメリットとなるとは限りません。

  • 正社員との待遇の調整
    例えば、企業は限定正社員の待遇を決める際に、正社員とのバランスを考える必要があります。「限定」正社員である以上、正社員よりは業務における拘束が少ないため、給与や待遇は正社員よりは若干低くする必要があります。ですが低く設定しすぎると、限定正社員としては「正社員なのだからもっと対等に扱うべき」という不満が生じます。逆に差を少なくしすぎると、今度は正社員に「拘束の多い我々にもっと良い待遇を与えるべき」という不満が生じてしまいます。このバランスを取るために企業は工夫をする必要があります。
  • 固定費としてのリスク
    解雇が容易ではないという問題もあります。もちろんこれは労働者にとっては問題と映じませんが、企業の側としてはそうともいきません。経営が厳しく人件費を削減したいとなっても、非正規労働者と違って限定正社員は正社員である以上、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という労働契約法の規定が適用され、簡単に解雇することができません。そのため、限定正社員を増やした結果、企業経営に融通が利かなくなるということも考えられます。
  • 雇用管理の複雑化
    また、単純に雇用の管理が複雑化してしまうという問題もあります。限定正社員はそれぞれ職務・労働時間・勤務地という3つの領域において様々な制限があるため、社員1人ひとりがどのような条件下で働くのかが大きく異なってきます。企業としては一元的に社員の業務を管理できなくなるため、管理体制の維持が課題となります。

 

まとめ

アベノミクス開始以降日本社会に広がる「働き方改革」の一環として、限定正社員制度は近年注目を集める制度の1つとなっています。企業としては優秀な人材の幅広い登用が可能となり、労働者は自分たちのニーズにあった働き方ができるので、双方にとってメリットのある制度と言えます。しかし導入の際には、正社員との待遇調整の必要が生じる、解雇が困難になる、雇用が複雑化するなど、デメリットと呼べる点もいくつか存在します。メリットとデメリットの両方にきちんと目を向けながら、企業として限定正社員制度をどのように導入していくのか、方針を定めていきましょう。

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