日本特有の通勤時間の満員電車は、近年では生産性の向上の観点からも解決すべき課題として認識されています。そんな中、新たな都政の公約として「満員電車ゼロ」が掲げられており、その一環として通勤時間をずらすことで満員電車を解決しようという「時差Biz」と呼ばれる取組みが始まっています。今回は、すでに多くの企業が参加を表明している時差Bizについて、そのメリットも含めて詳しく紹介します。
近年、満員電車でのストレスフルな通勤を揶揄する「痛勤」という言葉がしばしば見受けられるようになりました。国土交通省が公表している「平成24年度大都市交通センサス分析調査」によると、東京都において1日の中で最も旅客が集中するのは概ね8時30分~9時、次いで8時~8時30分であり、総じて8時~9時にピークがあると言えます。実際、東京圏の主要区間では、この時間帯に1日の乗客数の約50%が殺到し、平均で165%の混雑率となりますが、特に乗り換えの主要駅やオフィスが多数存在する駅の多くでは、混雑率は190%~200%に達します。国土交通省の説明によると、混雑率100%は「座席につくか、吊革につかまるか、ドア付近の手すりにつかまる事ができる」であるのに対し、混雑率150%は「広げて楽に新聞を読める」、180%は「折りたたむなど無理をすれば新聞を読める」、200%は「体がふれあい相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める」であることから、朝のラッシュアワーが通勤者に重い負担を強いていることが窺えます。このような状況は今に始まったことではなく、これまでにも様々な対策が取られて来ましたが、未だ快適な通勤環境は整えられていません。
上記の現状を受けて、東京都は平成29年より快適通勤プロモーション協議会を開催し、時差Bizと称される取組みを推進しています。通勤者の出勤時間を分散させることを主眼として、時差Biz運営事務局が働きかけて多数の企業に参加を募り、特典や表彰などを付与する他にも、集中取組期間中には各鉄道事業者による混雑回避のための様々な特別措置が実現しました。時差Bizへの参加にあたって、企業は各社の判断の下に可能な範囲で時差通勤を実施すれば良いと規定されており、また個人レベルでの取組みも推奨されています。
時差Bizの狙いとして、満員電車の回避、通勤時間の有効活用、通勤者のプライベートの充実が挙げられています。また企業にとっても、時差Bizへの参加を表明することで従業員の働く意欲や生産性の向上、時差Bizのホームページに企業名掲載という利点が見込めるとしています。
平成29年7月11日~25日は時差Biz特別取組期間とされ、期間中の特別措置として特別ダイヤや特別列車が採用されました。それらのうちには集中取組期間以前から開始されていたものも含まれますが、集中取組期間中もしくはその前後のみ行われたものもあり、鉄道事業者によって対応が異なります。そのため、時差Bizへの参加や登録の募集は継続されていますが、集中取組期間中に適用された特別措置の一部は現在運営されていません。この点に注意した上で、以下、特別措置の概要をご覧ください。
特典は鉄道事業者の推進する内容により様々であり、ポイント授与、食事メニューの割引、抽選などがあります。
表彰については、平成29年8月に時差Bizに取り組んでいる企業に応募を呼びかけ、11月に開かれた第3回快適通勤プロモーション協議会において、時差Bizワークスタイル部門、時差Bizプロモーション部門、松本零士特別表彰部門の表彰式が執り行われました。
平成29年6月時点で時差Bizに参加している鉄道事業者には、東日本旅客鉄道株式会社、東部鉄道株式会社、西部鉄道株式会社、京成電鉄株式会社、京王電鉄株式会社、小田急電鉄株式会社、東京急行電鉄株式会社、京成急行電鉄株式会社、東京地下鉄株式会社、東京都交通局、首都圏新都心鉄道株式会社、東海臨海高速鉄道株式会社があります。
その他の企業については、損害保険ジャパン日本興亜株式会社、日本航空株式会社、株式会社セブン-イレブン・ジャパンなどを始めとして、平成29年11月時点で322社が参加しています。
取組み方法のイメージとして、時差Bizのウェブサイトでは、特定部署の出勤時間の変更やサマータイムの採用、フレックスタイム制を導入する場合のコアタイムの撤廃やラッシュ時の通勤中止、テレワークを導入する場合のサテライトオフィスの整備やWeb会議の実施といった事例が掲載されています。また個人での取組みでは、出勤を1時間早めるか遅らせる等の対応例が挙げられています。
関連記事:
・「お試しサテライトオフィス」を活用し、テレワークの実施を検討してみませんか?
・テレワークを導入しよう!ルールづくりのチェックポイント
11月の快適通勤プロモーション協議会において公表された資料によれば、集中取組期間においてピーク時の乗客数が減少し、その前後の時間帯への分散がみられました。しかし、変化が見られた駅でも、乗客数の1割かそれ以下の割合程度の軽減に留まり、また混雑の軽減が見られない駅もありました。なお、平成29年11月時点では全体での混雑の低下の度合いは明らかにされていません。期間中は通勤者の出勤時間が1時間半程度早まる傾向があり、取組みの狙いであった通勤の快適化、仕事の効率性向上、プライベートの充実は、いずれもアンケート参加者の約60%が効果を実感したと回答しました。加えて、アンケート参加企業の80%が時差Bizの取組みへの継続的参加に意欲を示し、この結果を肯定的に捉えた快適通勤プロモーション協議会は、更なる時差Bizの拡大には職場の理解や混雑の見える化が必要と分析し、大勢が一斉に取組むことが重要であると結論しました。
しかし他方で、上記の成果は微々たる効果にすぎず、むしろ社員の出勤時間が散逸して仕事が滞ったなど、時差Bizの実効性を疑問視する声も存在します。また、通年でのキャンペーンではなかったことからも、時差Bizの普及に懸念を抱く見方もあります。
効力があるか未だ不明でもある時差Bizですが、満員電車の回避によって、少なくとも個人のワークライフバランスの向上という観点からは一定の効果が見込めます。従って企業としては、時差出勤にメリットが見込めるならば実施し、デメリットが勝る場合には参加しない、もしくは工夫して導入するなど、取捨選択が必要になると言えるでしょう。
This website uses cookies.