厚生労働省は熱中症予防のキャンペーンとして、2018年から2022年までの5年間で、2017年以前の5年間と比較して死亡者を5%以上減少させることを目標に掲げています。企業には従業員の安全配慮義務があるため、温度調節や水分摂取の推奨、労働衛生教育などの熱中症予防を行う必要があります。今回は、従業員が熱中症になった場合の企業の責任と、熱中症予防のためにできる行動、熱中症予防グッズについて紹介していきます。
従業員が熱中症になった場合の企業の責任
2008年3月に施行された労働契約法第5条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。この条文により、使用者である企業は労働者に対して安全配慮義務を持つことが明文化されました。熱中症は、場合によっては生命に関わる重篤な症状を引き起こすため、従業員が勤務中に熱中症になれば、企業側の対策や責任の有無が問われることも十分にありえます。
したがって、企業にはまず従業員が熱中症にならないようにするための取り組みを行うことが求められます。例えば夏に屋外作業をさせるのであれば、適切な休憩を取らせ、熱中症対策グッズを支給するなどのことが考えられるでしょう。また、従業員が熱中症になった時のために、適切な処置をスムーズに行えるような体制を整えておかなければなりません。
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熱中症の症状と予防のためにできる行動
そもそも熱中症とは、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもり続ける状態を指します。これは、高温多湿な環境に長くいることで徐々に体内の水分や塩分のバランスが崩れることで生じ、めまい・失神・筋肉痛・筋肉の硬直・大量の発汗・頭痛・不快完・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感・意識障害・けいれん・手足の運動障害・高体温など、様々な症状が現れます。熱中症は、屋外で激しい運動をしている時だけではなく、室内で何もしていないときでも発症するので、室内の活動においても注意が必要です。
熱中症対策の方法としては、高温多湿な環境に長くいないようにすること、体内の水分や塩分のバランスを保つことが有効です。より具体的には、以下の2点に気を付けるとよいでしょう。
暑さを避ける
まず室内では扇風機やエアコンで室内温度を確認しながら設定温度を適宜調節し、暑さを避けましょう。遮光カーテン、すだれ、打ち水なども合わせて利用しましょう。厚生労働省は、環境省が気温、湿度、輻射熱から算出して発表している暑さの指数であるWBGT値(暑さ指数)も参考にすることも推奨しています。
屋外での活動については、適切な暑さ対策を取ることがより重要となります。特に気にしなければならないのは、地面に敷かれた鉄板やコンクリートなどからの照り返しがある場所、風通しが悪い場所などです。このような場所はWBGT値が高くなりやすく熱中症リスクも高まるので、こまめに休憩を取るようにしましょう。
また、体内の蓄熱を避けるために体を熱くしないこと、冷やし続けることが重要です。通気性のよい衣服を着用して体に熱を溜めないこと、保冷剤、氷、冷たいタオルなどで適宜体を冷やすことが有効です。
こまめに水分を補給する
室内にいるか室外にいるかにかかわらず、熱中症予防にはこまめな水分補給が重要です。喉が乾いた頃には熱中症に近づいているので、熱中症を未然に防止するために、喉の渇きを感じなくても水分・塩分、経口補水液(水に食塩とブドウ糖を溶かしたもの)などを定期的に補給しましょう。
熱中症予防グッズ
熱中症予防への関心の高まりにより、様々なグッズが開発され、販売されています。ここではそのうちのいくつかを紹介します。
塩分補給飴
熱中症予防の定番グッズです。塩分補給の重要性は広く認知されつつあり、夏になればコンビニエンスストアなどで容易に手に入れることができます。従業員が個人ではなかなか買わないという場合は会社でまとめて買って、従業員が自由に食べられるようにしておくのも1つの方法です。
熱中症モニター
熱中症の危険度は個人では簡単には判断できませんが、WBGT指数を計測する熱中症モニターがあれば、熱中症の危険度を段階別に表示してくれるので、いつ熱中症に気をつければいいのかが容易に認識できます。危険度が高い日には屋外での作業を短縮するなど、危険度に合わせたルール設定を行うことも、熱中症防止に効果があるでしょう。
モバイル扇風機
近年は首にかけられたり、卓上に設置できたりする小型の扇風機が多く売り出されています。部屋の中はもちろん、屋外や電車の中でも気軽に使えるモバイル扇風機は、体温をピンポイントに下げるのに非常に役立つ機器です。USBで充電できるタイプであれば、オフィスでの使い勝手もいいでしょう。
冷却スカーフ・冷却剤
冷却剤や冷却スカーフも、多種多様なものが販売されています。冷凍庫で冷やしてから使うタイプもありますが、事前の準備なくその場で使えるものも多く商品化されています。例えば、叩くだけですぐに使える瞬間冷却剤は、必要な時に即座に使用できて非常に便利です。その他にも、水分を徐々に気化させることで熱を奪って体温を下げるスカーフやタオルなども気軽に使えるアイテムです。
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まとめ
今回は、従業員が熱中症になった場合の企業の責任と、熱中症予防のためにできる行動、熱中症予防グッズについて紹介しました。従業員の安全配慮義務がある以上、企業は従業員の生命を守るために事故を未然に防止する措置を講じて、その責任を果たさなければなりません。温度調節や水分摂取の推奨、労働衛生教育やグッズの活用などで、熱中症予防の心がけと取組みを徹底しましょう。