政府が提出を目指す働き方改革関連法案の中でも目玉とされていた裁量労働制の対象業務拡大ですが、不適切なデータが根拠として用いられていたことを受け、一括法案から該当部分が削除される見通しであると報じられました。裁量労働制拡大をめぐっては、産業界の強い要請を背景に平成27年にも法案が出され、審議未了のまま廃案となった経緯があります。裁量労働制は自律的でフレキシブルな働き方を実現するとされる一方で、誤った運用を行えば過重労働を助長することになるのではと懸念する声も多くあります。今回は裁量労働制について、現行制度の内容や適用範囲、さらに今後の拡大の見通しを詳しく解説します。
労働時間の計算方法は労働基準法第38条により定められており、企業側は労働者の労働時間を適正に把握するために、日ごとの始業時刻や終業時刻を記録する必要があります。しかし実際には、全ての仕事で誰がいつ働いたかを正確に記録できるわけでは必ずしもありません。また時には、そうしない方が業務効率が上がることもあるでしょう。そこで昭和63年の労働基準法改正により、みなし労働時間制が同法第38条の例外として設けられました。今回扱う裁量労働制も、労働者が主体的に時間を設定して働くためのものとして、このみなし労働時間制の1つとされています。
定められた要件を満たして裁量労働制を採用した場合は、使用者側が労働時間を把握し、記録する義務は免除となります。したがって、この制度が適用されれば、労働者は実際の労働時間とは関係なく、労働者と使用者の間で事前に合意した時間働いたものとされますので、何時間働いても残業代が支払われることはありません(ただし企業は休日労働手当や深夜労働手当は支払わなければなりません)。このような形態は、労働時間と成果・業績があまり連動しない職種に特に適していると言えるでしょう。
関連記事:
・働き方改革実行計画が決定!Vol.1 〜同一労働同一賃金の実現について〜
・働き方改革実行計画が決定!Vol.2 〜長時間労働の是正について〜
・働き方改革実行計画が決定!Vol.3 〜柔軟な働き方がしやすい環境整備について〜
・「高度プロフェッショナル制度」のメリット・デメリットとは?
裁量労働制はどのような企業も導入できるというわけではなく、適用可能な職種が限られています。当初はシステムエンジニアやデザイナーなど、高度な専門性を有した職種が対象とされましたが、断続的な法改正によって適用範囲が徐々に広げられています。平成12年には従来の「専門業務型」に加え、「企画業務型」というカテゴリーが新たに作られ、一部のホワイトカラーの労働者についても裁量労働制が適用できるようになりました。平成30年3月現在、専門業務型裁量労働制および企画業務型裁量労働制は、それぞれ以下のような職種にのみ適用することができます。
他方で、企画業務型裁量労働制の対象となり得ない業務として、以下のものが明記されています。
裁量労働制は、要件や手続きが厳しく定められています。とりわけ企画業務型は濫用のおそれもあるため、労使間の多数決で5分の4以上の賛成を要するなど、創設時には従来の専門業務型よりもはるかに厳しい条件が設定されました。平成15年の法改正によって要件が緩和されても、まだまだ企業側にとっては使い勝手の良い制度となっていないとされてきました。そのような声もあり、企画業務型量労働制の対象業務を広げ、合わせて手続きの簡素化を行うという案が政府から出されたのです。
政府案によれば、企画業務型裁量労働制の対象業務には「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCA(企画・立案・調査・分析)を回す業務」が追加される予定でした。また同時に企画業務型裁量労働制の対象者の健康を確保するための措置を充実させ、手続の簡素化も行われる予定でした。しかし冒頭でも述べたように、政府がこの裁量労働制の拡大を行う根拠としていた厚生労働省のデータの不備が指摘され、直近の労働基準法改正案にはこの裁量労働制の拡大が盛り込まれることはなさそうです。
とは言え、裁量労働制が適用できる職種の拡大には、労働生産性の向上を目指す経済界からの強い希望があります。今回の法案とは多少形を変えるかもしれませんが、長期的には実現される可能性が高いと言えるでしょう。
直近の法改正では裁量労働制の拡大に至る見込みはなくなりましたが、今後たとえ拡大されたとしても、適用職種が無限に拡大するわけではありません。制度を適用する場合は、その職種が現行の裁量労働制の対象なのか、あるいは今後対象となりそうかを、要件と併せて充分に確認する必要があります。
This website uses cookies.