「企業の社会的責任」と訳されるCSR(corporate social responsibility)。企業には「社会の公器」という側面があり、それがCSR活動という形で求められる時代になりました。中でも環境保全は日本国内でその代表格の一つとなりつつあります。
では、「環境保全」という言葉からどんな活動内容をイメージしますか?
こうした活動はもちろん環境保全の一環ですが、ほんの一部にすぎません。
今回は、「エコとはなにか」を追究しつづける海外企業の、驚くべき活動事例をご紹介していきます。
目次
Heinzはトマト・ケチャップ始め、多くの加工食品を製造する大手食品メーカー。Fordも世界屈指の自動車製造企業。この2社がCSR活動で手を組んだのが、「トマトの皮から車のパーツを作る」取り組み事例です。
現在、車のパーツに多用されている石油系プラスチックは、非常に便利な素材である反面、石油資源の枯渇につながる、燃焼させたときに炭酸ガスを排出する、自然界で分解されず環境を汚染する等の問題を内包しています。そのためFordは代替品として、植物由来のバイオプラスチックを研究していました。一方Heinzは、製造工程で出るトマトの皮、茎、種などが年間200万トンにのぼるため、その有効利用を模索。かくして両者が手を結ぶに至ったのです。
一見無縁の業種どうしも、CSR活動の方向性ひとつで協働できる事例と言えるでしょう。
アウトドア・スポーツが趣味の方なら、Patagoniaの名はご存じでしょう。アウトドアのための衣料品を主力商品とし、登山やマリンスポーツなどの用品も扱うPatagoniaが行っているCSR活動は、衣服を修理しながら長く使用する「Worn Wear」運動の事例です。
買い替え需要は企業にとって、売り上げの大きな原動力。しかしPatagoniaは自社衣料に一生保証をつけ、ただで修理すると宣言しました。また、顧客が自分で修理できるように情報発信もしています。それはまた、なぜ?同社は「修理ではなく買い替えを促すのは、地球環境が危機に瀕している今、許されない」と主張。使用されなくなった自社製品のリサイクルも推進、過剰消費を戒める態度を鮮明にしています。
PatagoniaのCSR活動のにくいところは、「企業として、長もちし修理できる高品質な品の生産に尽力する」旨を全面に打ち出している点。もともと堅牢さが命のアウトドア衣料だけに、「長もち」「修理可能」はその質のよさを顧客に印象づける効果を持ちます。また、同社のメインターゲットがアウトドア愛好家であるだけに、環境問題への意識の高さは、顧客へのアピール力大。自社の活動領域をよく見定めた、実にスマートなCSR活動事例です。
アイスクリームの有名ブランドHaagen‐Dazs。この企業が行っているCSR活動は、いかにもHaagen‐Dazsらしく、甘~い蜜をつくるミツバチの研究。しかしその実態はけして甘くなく、硬派な環境保護系CSR活動となっています。
世界各地の養蜂場で報告されている、大量のミツバチの謎の失踪。病気のせいか、農薬のせいか、単一の花からのみ蜜や花粉を摂取している栄養の偏りのせいなのか、原因はまだ特定されていません。ミツバチは植物の受粉を担っているので、その失踪は生態系に大きな影響を与えます。
Haagen‐Dazsが行っているのは、ミツバチに起きている異変とその深刻さを一般の人に知らせる活動、およびミツバチ研究への援助です。企業の商品イメージに合っていると同時に、奥深い環境問題にコミットしているという、印象的なCSR活動の事例です。
顧客は、商品を買うことによって心地よさを手に入れたいもの。購入と連動した寄付を行うCSR活動は、「いいことをした」という満足感を商品にプラスするもので、ある意味王道といえる販促です。が、その逆を行くCSR活動を行っているのが世界屈指の製紙企業Domtar。
Domtarは自社ホームページで、商品を生産するためにどれぐらい汚染を出したかなどを丸見えにしています。人間の経済活動が環境に負荷をかけるのは周知の事実でも、それをダイレクトに見せられるとぎょっとするもの。あえて見せることで、環境へのインパクトが大きい企業の責任感、持続可能な経済活動への本気度をうかがわせます。
Domtarのサイトでは、原料の産地や、製紙業をバックで支えているのがどのような人たちであるかも明示しています。森林資源の無秩序伐採が地球温暖化の一因になっていたり、途上国における木材販売がフェア・トレード的に問題のあるものだったりするのは、全世界の製紙業界に関わる課題。それと取り組む姿勢を見せるというCSR活動事例もあるのです。
環境保護はすでに定着した感のあるCSRですが、エコを目的とするCSR活動の結果、非エコな副産物が生まれてしまったら―。その問いに答えを出したのが米国の航空会社Southwest Airlinesです。
事の発端はSouthwest Airlinesが、航空機の内装を一新したこと。より軽いシートカバーを導入して機体の重さを軽減、その結果燃料を節約できました。カーペットもリサイクルできる品に変更。しかしこの一新の結果、それまで使用してきた皮製の内装が一気にゴミと化してしまったのです。その皮の面積、およそ17.4ヘクタール。
かくしてSouthwest Airlinesは、その皮革を新しい製品にリサイクルする活動を始めました。アフリカのケニアやマラウイにある組織と協力し、その皮からサッカーボール、靴、バッグを製作。このCSR活動は、皮革職人が技術を若い世代へ伝授することに寄与したという点でも評価されました。
CSRの原義は「企業の社会的責任」。となれば、自社製品を使い、自社名を冠して目立つアクションを起こすだけが、CSR活動ではありません。日々の企業活動の中で、どれだけ世の趨勢をリードできるか、それも重要なCSR活動です。
近年、人類が直面しているのは、どうすれば持続可能な社会を築けるのかと言う課題。その解決法の一つが、資源の有効活用です。例えばヨーロッパで最近始まった、魚の皮を衣料用の皮革に加工する試み。従来は家畜の飼料にされていた魚の皮を、Nike、Prada、Dior、Ferragamo、Pumaといった、アパレル産業の大物たちが利用し始めています。
調達する原料の一つを、サステナビリティという点で評価できる品に変える。それは他のCSR活動に比べれば地味に見えるかもしれません。が、その企業が社会的問題に対しどれほど鋭敏な意識を持っているかをアピールできるものでもあり、立派なCSR活動なのです。
インターネット・ビジネスの巨人Google。そのCSR活動は、なんと9億1,500万ドル以上を再生可能エネルギーへ投資するという、ジャイアントにふさわしい巨大なものです。その他にも、ネット絡みのCSR活動を行っているあたりがいかにもGoogle。
例えばデータセンター。独自の施設設計と配電方法、電子装置のリサイクルにより、消費エネルギーを一般的なデータセンターの約50%に抑えているとのことです。また、GmailやGoogle Appsの使用を、環境への負荷の軽減という観点で推奨しているのもGoogleらしい点。投資金額は莫大ですが、その結果より少ないエネルギー使用量ですんでいるため、環境のためにもGoogleのためにもなっているとしており、明確なCSR哲学が感じられます。
ここでご紹介したのは「企業の社会的責任」の中で取り組まれている環境保全です。しかし、これは企業だけが向き合う問題ではなく、一般の生活者一人ひとりも当事者として向き合っていかなければならない問題。そんな気づきを与えてくれるアピールが、これからの時代にはさらに求められてくるのではないでしょうか。
参照:
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