近年は過重労働問題を皮切りに、生産性の低さやキャリアのあり方などが問題視されています。こうした社会の動きのなか、従業員の心身の健康維持を企業が主体的にケアしていく健康経営という考え方が注目されています。そんな健康経営の具体的施策の1つであるコラボヘルスについて、前編に続いて今回の後編では、「コラボヘルス導入の具体的方法」、「コラボヘルス導入に当たり注意すべき点」の2つのポイントを解説します。
目次
コラボヘルスにおいては健康保険組合、企業、従業員が一体となった協力が不可欠です。誰が主導するにしても、まずは覚書の締結や従業員への周知が必要です。覚書の雛形は健康保険組合内部サイトなどでダウンロードすることができます。後述するように個人情報の取り扱いに最新の注意を払いながら、覚書を取り交わすようにしましょう。また、従業員1人ひとりがスムーズに取り組みや制度を理解するために、適切に資料を作成し、職場で広く告知する機会を持ちましょう。
前編で述べたように、コラボヘルスの効果の鍵はデータの活用です。企業と健康保険組合が各自保有しているデータを持ち寄ることで、より効率的に現状を明らかにすることができます。例えば個人の健康診断の結果やレセプトデータなどの健康保険組合が蓄積している健康医療データと、企業が独自に行う「健康度調査」や、有給休暇の取得状況や欠勤日数などの人事労務データを組み合わせることによって、従業員の健康状態を客観的かつ網羅的に見ることができます。
効率的なデータ活用は、多種多様な目的のために利用されます。一例を挙げれば、きめ細かい保健指導を実施のために、さまざまなデータを照合して対象者を抽出することができます。あるいは、ある施策を行った後に、その施策が従業員の健康状態や労働生産性、医療費適正化などに対してどのような効果があったかを検証する際にも、企業と健康保険組合のデータを用いることができます。
企業の健康課題の「見える化」を行うためには、健康白書の作成が有効です。健康白書とは、健康診断や医療費、人事労務のデータなどのエビデンスに基づいて、その企業の従業員の健康状態や生活習慣の特性を明らかにした白書です。
自社の健康白書が出来上がったら、まずは業態平均と比較しましょう。次いで、企業内での性別による違い、世代による違い、事業所による違い、勤務地域による違い、職種による違いなどを注意深く分析していきます。このような詳細な分析を施すことによって、企業全体の健康課題の特徴が明らかになります。自社の健康課題をエビデンスに基づいて把握することで、コラボヘルスにおける目標設定を適切に行うことができます。
コラボヘルスによる取組みを実施する場合は、取り組みを実際に行う前に企業と健康保険組合の間で共通の評価指標を決めておく必要があるでしょう。評価手段、評価時期、評価基準など、どのように評価を行うかを事前に話し合って明確に設定しておくことが、お互いの協力と実効性を高めるためのキーファクターです。
また、共通の目標を設定する際の前提についても取り決めておく必要があります。例えば、どのような種類のデータが必要となるか、どのようにデータを取得するのか、取り組みの費用を誰が負担するかなどです。
上記とも関わりますが、評価は取り組みを行った対象者の結果だけを見て行ってはいけません。プロセスや実施量への観点を、アウトカムへの観点と同様に持つ必要があります。これらの観点を含め、評価対象をきちんと明確にして、取組み前後の比較や取り組みに参加しなかった対象者群等との比較に基づいて適切に評価することが大切です。
エビデンスに基づくことが重要ですので、評価も数値データを基に行うべきです。ただし、なかにはデータの性質上、すぐに成果を計測できるとは限らないものもあります。場合によっては数年を要することもあり、単年度だけでは成果を評価できないかもしれません。そのような場合には、どれだけの取り組みを実施したかというアウトプットの観点からの評価を暫定的に行います。これにより、長期的な成果が正式に出るまでの代替として、短期的な成果を疑似的に評価することができます。
改正個人情報保護法は、健診結果やレセプトなどの個人の医療情報を、適正な取扱いが厳格に求められる「要配慮個人情報」に位置付けています。このような要配慮個人情報を共同利用に供する際には、細心の注意が必要です。なぜなら、健康保険組合と企業は法的に別個の法人であり、いくら同じ企業に関する組織だったとしても、この要配慮個人情報を共有する場合は「第3者提供」となるからです。したがって、法律に定められている通り、あらかじめ従業員本人の同意を得なければなりません。
また、要配慮個人情報のなかでも、とりわけレセプトデータは共同利用に供することが適当でありません。レセプトデータは従業員やその家族の要配慮個人情報であるというだけではなく、医師の個人情報でもあります。レセプトデータにより何を治療しているかわかり、雇用者による労働者への不当な扱いへつながることも懸念されるため、レセプトデータを分析に用いることができるのは、健康保険組合の側のみに限られます。
エビデンスベースドを旨とするコラボヘルスでは、基本的に各種の数量データによって成果が測られるため、単年度で芳しい結果を得ることは難しいかもしれません。その場合にも、すぐに取り組みを止めるのではなく、まずは目標と現実の数値の乖離の理由を探りましょう。というのも、単にまだ成果が現れていないだけかもしれないからです。その上で、焦らずに取り組み自体の改善も行っていきましょう。
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前後編の2回にわたってコラボヘルスについて見てきました。後編では「コラボヘルス導入の具体的方法」、「コラボヘルス導入に当たり注意すべき点」の2点を中心に紹介しました。人的資本の重要さが高まる中、コラボヘルスへの注目度はますます高まって行くでしょう。導入に当たっては、1つずつのステップをしっかり踏んで、注意すべきところに目を配れば、大きな効果が見込まれます。
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