2015年に閣議決定された労働基準法改正案に含まれる「高度プロフェッショナル制度」は、一定の年収以上の労働者に成果型労働制を適用する、という内容の制度です。長時間労働を助長する恐れのある「残業代ゼロ制度」であると反対の動きがあり、長らく創設が保留とされてきました。
今回は、「高度プロフェッショナル制度」とはそもそもどのような制度か、適用される範囲、将来的に創設された場合に考えられるメリット・デメリットについて解説していきます。
「特定高度専門業務・成果型労働制」、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」とは、専門性の高い一部の職種に対して、雇用主が決めた一定額の成果報酬を支払う制度です。労働時間ではなく仕事の成果で報酬が決まる現行の制度としての「企画業務型」や「専門業務型」の裁量労働制と比較して、現段階で労働時間の規制が緩いことや、対象となる業種が厳密に一致しないことが特徴です。労働基準法改正案として2015年4月に閣議決定されましたが、報酬が労働時間によって評価されないことから、「残業代ゼロ制度」「過労死を増やす」として強く反発され、まともに審議されない異常事態となっていました。
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前述の通り、高度プロフェッショナル制度の対象は一部の専門性の高い職種に限られており、現段階では「労働時間と成果の関連性が低い」と考えられる、以下の職種が対象として想定されています。
以上の職種であることに加え、以下の要件を満たす労働者が対象となります。
このようにすべての人が対象となるわけではなく、制度の特殊性からみても、対象となる労働者が一部に限られているのが現状です。
一方で、高度プロフェッショナル制度は残業代ゼロ制度と揶揄されている要因として、現行の裁量労働制と異なり、深夜・休日労働割増賃金の対象にならないことが挙げられます。しかし、このような批判への対応として、成果を出すべき職務の範囲に関する労働者の同意や、労働時間の把握を行うとともに、以下に示すような健康維持に関する選択肢を労使が選択可能とするような要件を盛り込む方針となっています。
本来、高度プロフェッショナル制度は働き方を柔軟にし、労働者の能力の発揮と企業の競争力向上を期待されて法案が作成されました。残業代ゼロ制度と呼ばれ批判が集まっていますが、現状運用に関しての修正が行われている段階であり、今後創設に向けて動き出す可能性は十分に考えられます。
今後高度プロフェッショナル制度が創設されると、以下に挙げるようなメリット・デメリットが考えられます。
日本の企業の労働生産性の低さは常々指摘されてきており、行政を挙げて労働生産性を向上し、国際競争力を高めようという動きがあります。現状の国内企業の傾向として、残業をすれば成果に関係なく報酬が支払われるため、仕事が遅い人の方がより報酬が多いといった問題があります。しかし、高度プロフェッショナル制度においては、労働時間に報酬が左右されないため、効率よく短時間で成果をあげようとするモチベーションから、労働生産性の向上が期待できます。加えて、仕事が終わっていても退社することができない、といったような日本企業の悪い風習を断ち切る意味合いも含まれています。
企業人材の多様化の観点から、女性が働きやすい労働環境の整備に注目が集まっています。そんな中、高度プロフェッショナル制度においては、出社や退社の時間が自由に決められるため、育児や介護などと仕事の両立が可能となり、ワークライフバランスの実現が期待されます。ただし、柔軟な働き方が実現されるのは一部の理想的な場合に限るとも考えられ、以下のデメリットに挙げる残業の横行とも表裏一体であるのが実情です。
残業をすればするほど報酬が増える、という矛盾が解消され、企業にとっては人件費のコストカットを図ることができます。
企業が労働者に求める成果によっては、その達成のため自然にサービス残業が横行するリスクがあります。高度プロフェッショナル制度が残業代ゼロ制度と揶揄される原因ともなっており、今後この課題を解決するための更なる議論が望まれます。
報酬の対象を労働時間から業務の成果へ変更することを目指した制度ではありますが、「成果」に関しては統一した評価を行うことが難しく、結果として評価が適正に報酬に反映されない恐れがあります。例えば、新薬開発の研究者の場合、開発には時間がかかる上、成果として開発が成功するかも不確実です。このような場合に対応するため、業務のプロセスの適正な評価方法を作ることが必須となります。
高度プロフェッショナル制度は、活用法によっては、柔軟な働き方を実現して日本企業の生産性を向上させるきっかけとなりえます。しかし現状では残業代の扱いをはじめとして、制度の運用に関して解決しなければいけない課題が山積みであることも事実です。今後もその動きに注目しながら、来たる創設に向けて対応を考えていきましょう。
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