2018年4月から障がい者雇用制度の対象が広くなり、法定雇用率も引き上げられるなど、障がい者雇用をめぐる状況が変化しています。他方で、IT技術の発達によってオフィスに出勤しなくても在宅でできる業務も拡大しつつあり、障がい者の在宅就業の可能性も拡大しつつあります。そんな中、障がい者の就業を支援するための制度として、在宅就業障害者支援制度が存在します。この制度を利用することで、障害者雇用調整金と併せて特例調整金を受け取ることができます。今回は同制度の概要や、調整金の算定方法について解説していきます。
在宅就業障害者雇用制度とは
在宅就業障害者とは、自宅で就業を行っている障がい者を指します。在宅就業障害者支援制度は、このような自宅などで働く障がい者の就業機会拡大のために、障害者雇用納付金制度の枠組みにおいて企業への助成を行う制度です。支給のための実際の事務作業は、障害者雇用納付金制度を運用する独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が行なっています。
本制度の助成金は、障害者雇用納付金制度における特例調整金と特例報奨金の2種類に分かれています。特例調整金は、障害者雇用納付金の申告事業主を対象としており、したがって同制度が対象とする、常時雇用労働者数が100人を超える事業主向けのものとなります。特例報奨金は、障害者雇用納付金制度における報奨金制度の申請事業者がその対象となり、したがって報奨金の申請資格があたえられる、常時雇用労働者数が100人以下で一定数以上の障がい者を雇用している事業主向けのものです。
より具体的には、以下のような形で住宅就業障害者へ仕事を発注する企業が、在宅就業障害者雇用制度の助成金を受給することができます。
- 企業が在宅就業障害者に直接仕事を発注する場合
- 企業が厚生労働大臣による登録がなされた在宅就業支援団体を介して在宅就業障害者に仕事を発注する場合
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対象となる障がい者と勤務場所
障害者雇用率制度、障害者雇用納付金制度の対象者と同様に、在宅就業障害者支援制度の対象となるのは、身体障がい者、知的障がい者、精神障害者保健福祉手帳所持者である精神障がい者となります。
また、在宅就業障害者支援制度という名称ですが、勤務場所が自宅である必要は必ずしもありません。自宅の他にも、以下の場所が対象となっています。
- 障がい者が業務を実施するために必要な施設及び設備を有する場所
- 就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等が行われる場所で、具体的には障害者総合支援法に基づく「就労移行支援事業」を実施する施設
- 障がいの種類及び程度に応じて必要な職業準備訓練が行われる場所
- その他これらの類する場所
ただし、在宅就業障害者に対して直接発注を行う場合は、事業主の事業所は上記のような場所に該当するとしても、在宅就業とは見なされず制度の対象から除かれます。
在宅就業支援団体の利用について
在宅就業支援団体を介して発注を行う場合、在宅就業支援団体が在宅就業障害者に仕事の提供と対価の支払い、職業講習や就職支援などその他の支援も行います。在宅就業障害者特例調整金の実際の算定対象になるのは、在宅就業支援団体による仕事の提供と対価の支払いについてです。
なお、在宅就業支援団体として登録を行うためには以下の条件を満たしている必要があります。
- 在宅就業障害者に対して、就業機会の確保・提供のほか、職業講習、就職支援等の援助を行っている法人であること
- 常時 10 人以上の在宅就業障害者に対して継続的に支援を行うこと
- 障がい者の在宅就業に関して知識及び経験を有する3人以上の者を置き、そのうち1人は専任の管理者とすること
- 在宅就業支援を行うために必要な施設及び設備を有すること
このような厳しい条件のため、在宅就業支援団体として登録されているものはそう多くありません。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構によれば、2017年4月1日の時点で、およそ20の法人が在宅就業支援団体として登録されており、そのうち特定非営利活動法人や社会福祉法人が多数を占め、関東に事務所を置くものが多い傾向にあります。在宅就業支援団体の連絡先は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のウェブサイトで確認することができます。在宅就業支援団体によって扱っている業務が異なり、データ入力、パソコン修理、あん摩マッサージ指圧・針・灸など、その分野は様々です。
特例調整金・特例報奨金の金額
在宅就業障害者支援制度の特例調整金・特例報奨金の支給金額は、それぞれ障害者雇用調整金と特例調整金の金額を基に設定されており、両者ではその算出方法が異なります。
特例調整金の算出方法
「調整額(21,000円)」に「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数」を乗じた金額になります。例えば在宅就業障害者への支払い総額が75万円の場合、「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数」については、75万円を35万円で割った金額の小数点以下を切り捨てて、2と算出されます。それに「調整額(21,000円)」を乗じればいいので、支給金額は42,000円となります。
以前はこの評価額が105万円でしたが、現在は35万円まで引き下げられています。したがって35万円以上の発注があれば特例調整金等が申請できるようになり、制度利用のハードルが大きく下がりました。
特例報奨金の算出方法
「報奨額(17,000円)」に「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数」を乗じた金額になります。こちらも後者については特例調整金と同様に小数点以下は切り捨てられます。申請できるのは35万円以上の発注がある場合となります。
まとめ
2018年4月から障害者雇用制度の対象が広くなりましたが、障がい者の在宅就業の認知は低いままで、今後の利用拡大が期待されています。厚生労働省が障がい者の法定雇用率を達成した企業300社を対象に行った調査によれば、在宅就業をしている障がい者への業務発注経験があるのは10%程度にとどまっており、障がい者の在宅就業に対する認知は低いままです。発注先も企業や特例子会社が大半であり、障害者支援団体や障がい者自身への発注は2%にとどまります。
障害者雇用制度は全般的に非常に複雑です。在宅就業障害者支援制度も、障害者雇用納付金制度の一部に位置づけられ、申請の条件等が複雑になっています。担当者はしっかりとその全容を把握しておく必要があるでしょう。