平成27年10月に刷新された「ジョブカード制度」は、履歴書とは異なる形で求職者のキャリア・プランニングや職業能力証明を行い、企業とマッチングを行う制度です。ジョブカード制度は、求職活動時や職業訓練などの場面で活用され、企業にとっても多様な人材の確保の円滑化といったいくつかのメリットがあります。今回はそんなジョブカード制度の詳細について、制度の流れやメリットについて解説します。
目次
ジョブカード制度とは?
履歴書やCVと言えば、大学を卒業見込みの就活生が志望する企業に提出するものや、転職を希望する社会人が転職先の企業に提出するものというイメージがあります。これを、これまでの経歴の記録のみならず、人間性や価値観といった内面的な部分にまでより踏み込んで作成するツールがジョブカードです。このツールは厚生労働省が平成20年から活用を呼び掛けており、平成27年10月に様式と活用方法が見直された「新ジョブカード」がスタートしました。
ジョブカードは自分自身のビジョンを明確にするほかにも、キャリアコンサルタントへの依頼時に提出し、どのような職業に適性があるかのアドバイスを受けることができるという活用法もあります。以下のプロセスを踏んで、ジョブカードを作成してみましょう。もし作成の上で疑問があれば、厚生労働省のウェブサイトからメール相談をすることも可能です。
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ジョブカードの作り方・使い方
それでは、厚生労働省の定めるガイドラインに従って、ジョブカードに記載する情報を見ていきましょう。ジョブカードには、以下のような事項を盛り込みます。
- 職務経歴シート
- 職業能力証明シート(免許・資格編)
- 職業能力証明シート(学習・訓練歴編)
- キャリアプランシート(就業経験なし、学生向け)
- キャリアプランシート(全般向け)
- 職務経歴書
このうち、最後の職務経歴書は通常の履歴書等を転記するなどして作成が可能ですので、それ以外の内容を上から順に見ていきます。
職務経歴シート
これまで積んできた自分の職務経験を記載していきます。将来的なキャリアプランを練るために、これまでの自分の経験を一度棚卸しして、頭の中を整理することができます。業務ごとに具体的にどのような内容だったか、それによって何を学んだか、自信になったかを記入することで、次にチャレンジしたい職業が明確になっていきます。
2種類の職業能力証明シート
免許・資格編と学習・訓練歴編の2種類のシートが存在します。実務以外で身につけたスキルや知識を整理し、自らの強みを客観的に再認識することができます。特に学習歴については、例えば大学の新卒生であれば履歴書にただ「法学部卒」と書くのと、ジョブカードに「法学部政治学専攻コース:安全保障と経済制裁についての論文を作成。自分の理論は……」などのように細かく書くのでは、コンサルタントや相手企業に伝わる印象がまるで違います。
キャリアプランシート
このシートが経歴書やCVとの最大の相違点です。キャリアプランシートでは、上に述べた職歴や学習歴を鑑みた上で、「価値観・興味・関心事項」、「自分の個性・強み」、「将来取り組みたい仕事・働き方」、「今後習得する見込みの能力やその方法」といった自己の内面に深く関わる要素を丁寧に記述します。これまでの経歴を踏まえた自己分析をコンサルタントや相手企業が閲覧して、相性の良し悪しを判断して行きます。
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作成の前に
上記のような事項を記載して作成するジョブカードですが、厚生労働省は公式パンフレットの中で、この作成に先んじて以下のような要素を先に検討することを勧めています。全てに共通するポイントは「自己理解」です。
自分の個性・キャラクターを理解する
自分に当てはまるキーワードや、大切にしている言葉を数個選び出し、なぜそれを選んだかを記述します。「我慢強い」、「学者肌」、「短気」、「批評家」、「行動力」など、自分のイメージを表す言葉をまず取り出して、なぜ自分自身をその言葉によって捉えたのかを、具体的なエピソードなどを通じて分析します。
これまでの人生を振り返ってみる
職業経験や学習経験にとらわれず、様々な人生のターニングポイントごとに満足度がどの程度のものだったか、波グラフにして書いてみるとわかりやすいでしょう。例えば「高校入学時:75%」、「部活で県大会ベスト8:95%」、「初の全国模試判定D:20%」などです。この波グラフの意義は、今までの人生の中で何が起きて、それが自分の人間性や価値観がどのように影響したのかを冷静に分析し直す点にあります。ターニングポイントとなった出来事をきちんと言葉にして、どうしてその結果になったのか、その結果に満足しているのか、していない場合はどのような改善点があり得たのかなどを記述することで、次のキャリアプランにつなげることができるでしょう。
働く上で大事にしたい価値観を明確化する
企業と従業員のミスマッチの最大の理由としてよく聞かれるものは、働く上で従業員が大切にしているものが守られなかったということ、つまり「価値観の相違」です。働く会社を選ぶ際、「自分はどのように働きたいのか」、「人生で何を大事にしたいのか」など、働く上で重視する価値を明確にしておくことで、それを基に企業分析をしてミスマッチを事前に防ぐことができます。ワークライフバランスや、昇進の仕方など、重視するポイントは人によって様々です。
自分の「強み」と「弱み」
最後のステップとして、これまでの人生の振り返って見えてきた自分の強みと弱みを分析します。リーダーシップを取れるか、それとも与えられた仕事を着実にこなすことが得意なのか、素早く動く行動派か、それとも沈思黙考してじっくり仕事をする方が得意なのか、仕事における細かなミスの多さ・少なさや、チームワークをどれだけ重視するかなど、考えるべき重要な要素は数多くあります。ここでポイントなのは、自分を美化しすぎないことです。自らの弱みを素直に認めないと、コンサルティングにおいて過大評価され、本当は相性の良くない企業を勧められてしまうことも考えられます。
ジョブカード制度のメリット
ジョブカード制度のメリットは2つあります。1つは内省的な意味合いで、履歴書やCVを作るだけでは達成が困難な、自分自身の人間性の深い分析が可能だということです。もう1つはより実務的な意味で、自らについて具体的かつ詳細に書かれた資料を基に、プロからコンサルティングを受けることができることです。これにより、より自分の性質にあったキャリアの構築が可能になります。
まとめ
ジョブカード制度は、学生が卒業後にどのようなビジョンを持って働きたいかを考える上でも、あるいは転職を希望する在職者がどのようなチャレンジを新しい企業で行いたいかを考える上でも、非常に有用です。導入後間も無く、いまだ広く知られていない制度ではありますが、その有用性は非常に大きなポテンシャルを持っているので、積極的に活用して行きましょう。