厚生労働省の発表によれば、男性の育児休業取得率は平成28年度に3.16%と過去最高を記録しましたが、まだまだ低いと言わざるを得ないのが現状です。男女平等、働き方改革が唱えられる中でも男性の育児休業は十分に浸透しておらず、企業は取得を推進する取り組みを積極的に行う必要があります。今回は、男性の育児休業に関して、現在行われている取り組みと、企業が行うことができる取り組みについて紹介します。
男性の育児休業普及における課題
日本ではいまだ「男は仕事、女は家庭」といった固定観念が根強く、また労働力不足に陥ることへの懸念などから、男性労働者が育休を取得することが職場では歓迎されないことも多いようです。しかし、男性労働者に育休を取得するよう積極的に促すことで、業績向上につなげている企業も存在します。
関連記事:
・イクボス管理職に聞く!育児ができる企業カルチャーの作りかた
労働環境に関する取り組み
男性労働者が育休を取得しづらい理由として、職場に関するものだけでも多くの理由が挙がっています。企業が男性労働者の育休取得率を上げるには、まずそういった問題をクリアする必要があります。以下、それぞれのケース毎に、男性労働者の育休取得率が高い企業の事例を参考にしていきます。
育休制度の整備と周知の徹底
育児休暇の取得は、性別にかかわらず全ての労働者に認められている権利です。育児・介護休業法は、企業が一定の要件を満たしている従業員の育休の申出を断ることを禁止しているだけでなく、短時間勤務等の措置、子の看護休暇制度といった諸処置を講じ、従業員の育児をサポートする体制を整備するよう義務づけています。
しかし、こうした法律上の諸規定とそれに基づく会社側の取組みも、肝心の従業員にその存在が正確に知られていなければ、結果的に育休は取得されないままです。対処法としては、企業内の育休制度に関するガイドを作成したり、会社の側から育休に関する積極的なアドバイスをする場を設けたりするなどのことが考えられます。また、自社のウェブサイト上に育休を取得した男性従業員をロールモデルとして紹介することも、社内外へのアピールとして有効でしょう。次の点とも関連しますが、こうした周知を徹底することで、職場内で育休を取得しやすい雰囲気を作っていくことができます。
職場の雰囲気
平成27年の内閣府の調査では、男性労働者が育児休業を取りたくても取れない理由として最も多く挙げられたのは、「職場が育休を取得しづらい雰囲気だったから」というものでした。つまり現状では、育休を取得しようとする人を快く思わない他の労働者が少なくないということです。それはおそらく、労働力が減少することのしわ寄せによって、自身の仕事量が相対的に増えてしまうと考えるからでしょう。
しかし育休による労働力の減少が効率的な組織作りによって十分にカバー可能であることは、様々な事例が示しています。それどころか従業員が周囲に気兼ねすることなく育休を取得できるような環境を整えることは、企業にとって業務上の面でも様々なメリットがあります。仕事量を可視化して労働時間と業務分担を適正化し、限られた労働力の中でもより計画的に仕事を進められるようになれば、結果として生産性の向上、効率的な労働体制の確立へつながることも考えられます。
注意すべきことは、育休の取得を考えている従業員がいれば、円滑に仕事を進めるためにも企業は早い段階からその従業員の希望を聞き、サポート体制を整えていくことです。もちろんこれが可能となるには、日頃のコミュニケーションが大切であることは言うまでもありません。
育休の待遇への影響
- 所得
育児休業中に雇用保険の被保険者に支給される育児休業給付金は、育休取得後の半年間は休業前の賃金月額の67%が給付され、半年を過ぎると給付額は50%になります。育児休業給付金は非課税となっており、社会保険料も雇用保険料もかかりません。休業中の収入を保証してくれる有り難い制度ですが、とは言えこれだけでは、家族のメンバーが増えたのに育休取得によって所得が減ってしまうことに不安を覚える方が多いのも事実でしょう。そこで、男性の育休取得率が高い企業では、育休の最初の一定期間までは有給扱いにする、あるいは月ごとに補助手当を出すという取組みを行っている企業もあります。 - 社内での地位や他の従業員との関係
育児休業によって昇進や社内での関係性に影響が出てしまうのではという点が育児休業所得するうえで懸念されます。育児休業の取得を理由に従業員に対して不利益な取扱いをすることは、育児・介護休業法第10条において禁止されており、また周囲の上司や同僚などからハラスメントを受けないよう措置を講じる義務があります。したがって企業の対応としては、育休取得によって会社から不利な扱いを受けることはないし、社内でそのような事態が起こることは許されないという強い姿勢を、社内報などを使って積極的にアピールしていくのがよいと思われます。
関連記事:
・「くるみんマーク」とは? 雇用環境を整備することで企業イメージを向上!
・労働者の「不利益取り扱い」とは?
企業が行うことができる取り組み
現状の改善にプラスして、労働者に育休を取得してもらうためにどんな取り組みが可能なのか、すでに述べたもの以外での施策をいくつかご紹介します。
日常的な育休制度の整備
従業員が実際に育休を取得しようとするよりも前の段階から、企業が男性の従業員に対して、育休の取得から職場に復帰するまでの流れを説明する場を設けるとよいでしょう。例えば、従業員の配偶者の出産に合わせて、人事や管理職の方が育休についての企業独自の説明会を開いている企業も存在し、3歳以下の子どもがいる従業員には、本人の希望があれば短時間勤務等の措置が取られます。日頃から在宅勤務の導入・拡大を進めておくことで、柔軟な働き方を促進すると同時に時間外労働の削減や個人の能率の向上を図っている事例も存在します。
育休復帰後のサポート
育休の取得をためらう男性労働者の中には、育休復帰後すぐに休業前と同じように働けるのかを不安に思う意見も多くあります。ですからまずは、産休を取得する段階で復帰後のアフターケアについて説明をしておく必要があります。具体的には、育休前後での企業内の変更点に関する説明や、技術面の確認作業を行う企業が多いようです。しかし、管理者が異動になった場合や、育休期間を経たために必要な知識が不足する場合には、円滑な引き継ぎの失敗が起こりやすくなります。そのため、育休取得中にもメールなどでのコミュニケーションを怠らずに日頃から変化の経過を伝えておく、または、育休中に数回でも企業に来てもらうなどの対処法を講じるとよいでしょう。
関連記事:
・【平成29年10月~】改正育児・介護休業法が施行されます
・育児と仕事の両立に、時短勤務制度を利用しましょう
まとめ
社会全体での男性の育休取得率は非常に低いと言わざるを得ない中でも、積極的に育休制度の改善をして業績を向上させた企業も存在します。育児休業の正しい理解の促進と、育児休業が従業員と企業の両社にとって負担にならない制度整備が男性の育休普及においては重要なポイントになります。男性従業員の育休取得の促進に本腰を入れて取り組んでみてはいかがでしょうか。