企業における労務部は、バックオフィス業務の中核となる労働管理を担うことで企業の労働を円滑にサポートしており、従業員の給与計算や福利厚生業務、また従業員の保険手続き等の仕事を行なっています。その役割は従業員の労働効率に直結し、そこから企業の労働環境や生産性の向上へ大きく貢献します。
今回は、労務の仕事と役割、労務に求められる能力について詳しく解説します。
目次
労務が担う使命〜労働環境の改善と生産性の向上〜
企業の経営においては、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が重要な4つの経営資源とされており、労務が担当するのはこのうち「ヒト」に関わる領域です。労務は業務等について一般的に定義されているわけではなく、企業によっては人事と労務を同じ部署が担当することもあります。ただ共通して言えるのは、労務担当者は従業員のサポートという立場から、企業活動を円滑にするという目的を持っているということです。
労務が担当する領域では労働トラブルの火種が多くあるため、業務の正確性が非常に重要視されます。特に近年は、様々な企業における過重労働が社会問題となっていることで、労働時間管理と職場環境の改善は社会から厳しく監視されています。
一方で、「社内報」といった広報ツールを用いる等の工夫をすることで従業員のモチベーションをアップすることもまた労務の大切な仕事であり、このように企業に付加価値をもたらす存在ともなりえるのが労務の特徴です。
つまり企業における労務の使命は、
- 従業員にとって働きやすい環境を作り上げること
- 従業員のモチベーションや労働生産効率を高めることで企業の業績に繋げること
の2点といえるでしょう。
多岐にわたる労務の仕事内容とは?
勤怠管理
労務が行う勤怠管理では、一般的に
- 出退勤時間
- 時間外労働時間
- 休憩時間
- 出欠勤日数
- 休日出勤回数
- 有休休暇取得状況
等を把握することを求められ、以上の勤怠情報は就労規則に準じていることの確認や人事評価などに利用されることとなります。また企業での過重労働問題において、しばしば従業員やその上司による勤務時間の過少申告や残業代の未払いなどが取り沙汰されますが、勤怠監理を適正に行うことはその抑止にも繋がります。
一方、労働基準法第32条では、基本的に労働時間は週40時間、1日8時間以内が限度とされていますが、第36条に定められた「36協定」を結ぶことで上限以上の労働をすることが可能です。労務担当者は、以上のような労働基準法や36協定などに関しても熟知しておく必要があります。
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給与計算
勤怠情報を用いて従業員の給与支給額を計算するのも労務の重要な仕事です。給与計算においては、以下の項目について計算を行います。
- 基本給
- 諸手当
- 基準外手当
- 法定控除
- その他控除
労務担当者は健康保険法や厚生年金保険法などの法律、また就業規則や雇用契約内の給与に関する規定に基づいて、以上の項目の計算を行う必要があります。給与の支給は、従業員と会社を結ぶ雇用契約の中でも根幹に位置することに加え、国に納める税金等についても計算することが求められるため、法律に関する正しい知識が求められる上にミスの許されない重要な業務といえます。
給与計算は煩雑な作業が必要となるため、社会保険労務士や代行サービス会社に外注する場合もあります。どちらを選択するかは、労務担当者の他業務との兼ね合いなどに応じて検討する必要がありますが、内製化する場合と外注する場合のどちらにも相応のリスクがあることを知っておきましょう。
- 内製化する場合
給与計算を社内で行う場合、計算ミスによって残業代の未払いや税金の払い漏れなどが生じるリスクが常につきまといます。また、給与計算は煩雑でありながらも定型的な業務のため属人的になりがちで、担当者が休職した場合等に労務部は対応を迫られます。
- 外注する場合
外注する場合、多くの場合で問題となるのが個人情報の漏洩リスクです。コストや作業時間等の条件比較に加えて情報管理体制も考慮し、労務担当者は外注先を検討する必要があります。
保険手続き
会社の従業員は、以下に挙げるような社会保険・労働保険に含まれる保険に加入する必要があります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 労災保険
- 雇用保険
これらの保険手続きを行わずにいると、労働災害や病気といった万が一の事態や定年後の年金受給において従業員は不利益を被ります。
従業員が働きやすい環境作りという目的において、保険への加入とその手続きは労務担当者にとって大切な業務です。
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福利厚生業務
上記の保険への加入等の企業の負担が法律で義務つけられたものは「法定福利」と呼ばれますが、それ以外の企業が任意で供与する福利厚生を「法定外福利」と呼びます。
法定外福利は従業員の家庭生活、安定性の向上や、労働生産性の向上等を目的としており、労務にとっての使命とも言える従業員のモチベーション向上に最も直結しています。そのため、法定外福利に関する手続きや提供に関する業務は、労務の手腕が最も問われる業務の1つといえます。
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安全衛生管理
労務は従業員の安全と健康を確保するため、労働安全衛生法を遵守した安全衛生管理を行う必要があります。具体的には、労働安全衛生法に基づいて健康診断を実施し、以下について管理することが求められます。
- 健康診断の結果の記録
- 結果についての医師からの意見聴取
- 実施後の措置
- 結果の従業員への通知
- 健康保持のための保健指導
- 所轄の労働基準監督署長への報告
また2015年12月より、過重労働問題を踏まえたメンタルヘルス対策として、職場におけるストレスチェック制度も一部の企業に対して義務化されています。従業員の健康を保持し働きやすい環境を作るため、ストレスチェック制度の導入や気軽に産業医と面談ができる環境の整備は労務にとっての使命です。
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労務に求められる能力・資質
専門性の高さ
労務担当者は、給与計算や保険加入手続き等の業務において多くの法令・制度の遵守を求められ、加えて勤怠管理等の業務は専門的な管理能力を必要とされます。
その実務と知識の両面において高いレベルで職務にあたることは、最終的に企業の生産性につながる労務の大切な役割です。
コミュニケーション能力
労務担当者は従業員の労働を管理していることから、時に優位な立場にあるように錯覚することもありますが、従業員とのコミュニケーションにおいて高圧的になることは従業員のモチベーションの低下、会社の生産性の低下につながります。あくまで会社のルールを従業員に伝える立場として、誠意をもって従業員に応対することが求められます。
また労働トラブル等が発生した際も、労務は従業員や労働組合などの対応を行うため、極端な態度を取らないなどコミュニケーションに配慮する必要があります。
秘密保持の姿勢
労務の業務では従業員のプライバシーに触れ合う機会が多いため、秘密を保持する姿勢を持ち、従業員から信頼を得ることが大切です。
給与計算等の業務をアウトソーシングする場合には、委託先を精査することも労務の大切な役割です。
まとめ
重要な経営資源である「ヒト」に関わる業務を担い、働きやすい環境づくりや企業の生産性向上に大きく貢献する労務は、その分様々な能力を必要とされます。
これを機に、企業における労務のあり方について今一度考えてみてはいかがでしょうか。