従来、総務部などの担当者は、コスト削減などの「守りの働き」を期待されてきましたが、近年は総務部が積極的に経営に関わる、「戦略総務」に注目が集まっています。今回は「会議室の有効活用」といった観点から、総務部が積極的に売上を上げ、経営に関わることを実現した、株式会社ハッチ・ワーク(旧:株式会社アットオフィス)の代表取締役社長CEO大竹啓裕氏、管理部の鈴木結香里氏にお話を伺いました。
読者の皆様は、自社の会議室の稼働率を正しく把握していますか? また、その稼働していない時間を有効活用しようと考えたことはありますでしょうか? もしかしたら、会議室をより有効活用しようと積極的に施策を考えている企業はあまり多くないかもしれません。しかし、実は会議室の稼働率は自分たちが想像している以上に低く、これを改善することでコスト削減のみならず、売上を上げることで企業の経営に貢献することができ、さらには企業の総務部への意識や働き方そのものを変えるきっかけになる可能性を秘めています。
今回は、株式会社ハッチ・ワークが展開している会議室の収益化サービス「シェア会議室」を取り上げ、業務効率向上やコスト削減で色々と頭を悩ませている総務部担当者向けの新しいソリューションを紹介します。
株式会社ハッチ・ワークについて
−株式会社ハッチ・ワークの事業内容について教えてください。
大竹
当社は2000年6月に設立し、今期で18期目になります。主に、貸し会議室の運営、レンタルオフィス事業や、賃貸オフィスの仲介、ビル管理事業、月極駐車場の仲介事業やサブリースなどを手掛けています。今回のシェア会議室事業も、不動産の有効利用というテーマのもとで、貸し会議室運営の一環として誕生したものです。
・シェア会議室の一例
シェア会議室とは
−シェア会議室とはどういったものですか?
大竹
意識している企業は少ないのですが、一般企業の研修ルームや会議室などは、自分たちは頻繁に利用していると体感していても、実際に数字で見てみるとその稼働率は3割程度である、とされています。その事実に注目し、会議室の空いている時間を利用して、その部屋を外部の人に「シェア」するサービスを開始しました。利用者の半数は大企業で、その目的は、会議やセミナー、面接など多様です。弊社では、シェア会議室の業務は総務部が行っています。
−シェア会議室を始められたきっかけは何でしょうか?
大竹
8年ほど前に、私は海外で様々なもののシェア化が進んでいるという情報を入手しました。アイドルエコノミー・シェアリングエコノミーといった発想はいずれ日本でも流行すると考え、私たちが持つビジネスのリソースの中でシェア可能なものを考えたときに、会議室が浮かび、シェア会議室のビジネスをスタートしました。
当時、私たちはすでに会議室ビジネスを始めて2年ほど経過していたのですが、これを機にシェアに対応した会議室用のシステムを設計・完成させました。総務から売上が上がるということで、経営者からは好評だったのですが、シェアリングエコノミーの考えが普及していなかった当時、シェア会議室は「又貸し」を連想させてしまうため、当時は大家さんの許可をとるのが一苦労でした。
−シェア会議室を運営していく上で大事なことを教えていただけますか?
大竹
大切なのは、いかに空いている場所を貸すかに終始せず、実際に使っていただく利用者を不安にさせない雰囲気を作り上げられるかどうかです。
会議室をシェアするといっても、一連の対応業務が発生します。その中には会議室を予約いただくときのコールセンターによる対応、利用者の審査、実際の会議室利用、そしてその後のサンクスコールなどのアフターケア、フィードバックと、多くの作業が存在します。これらを通じて、利用者の不安を取り除くようにしています。
具体的にはコールセンターの社員の真摯な対応や、しっかりとした知識・スキルが必要になってきます。また、実際に利用する会議室の良好な状態、何か困ったことがあった際にすぐに相談できる環境が非常に重要になってきます。
私たちは、様々な改善を試みながら、より利用者が安心できる雰囲気を築き上げてきました。そして、このような体制・雰囲気作りこそがリピート率上昇につながり、ひいてはビジネス自体の成功にもつながってきます。実際、リピート率は業界では驚異的ともいえる7割を超えています。会議室を貸すという行為自体は一見簡単ではありますが、利用者に安心して使ってもらい、そして次回以降の利用につなげて軌道に乗せていこうと思うと、かなり専門性の高い部分も多く、工夫の余地があります。
売上とマインドの改革をもたらすシェア会議室
−シェア会議室のメリットは何でしょうか?
大竹
実は企業の会議室の稼働率は想像以上に低い、ということは先程お話しました。その中で、多数の会議室を自社で抱え込むよりは、外に会議室利用を求める動きが主流になっているため、自社の持つ会議室をシェアに出すことで、コスト削減と更なる利益を挙げることができます。実際、当社の総務の鈴木がシェア会議室の当日準備、来客対応をしていますが、最近は彼女一人わずか2部屋で5月82万、6月32万、7月33万の売上を上げました。(当初予想の1.3倍)
しかし、私が重要だと思うのはこの売上額ではありません。肝心なのは、「非生産部門」として位置付けられ、前線で売上を上げている営業の人達と一線を画している総務部の担当者が、シェア会議室を通じて自ら売上を生んだという事実であると思います。
「総務も利益を上げる」-このマインドが芽生えることは、とても大きな、そして有意義な変化であると認識しています。「戦略総務」というキーワードも注目されるようになってきている昨今ですが、シェア会議室を通じて、総務部の担当者間でも「売上を上げるためにはどうすればいいのか」、「利用者の方に安心して使っていただくためにはどのような工夫を施せばよいのか」と考えを巡らせる雰囲気も形成されてきました。
そして、「総務部が売上を上げるようになる」という変化は、社内全体に波及するものでもあります。私が考える理想の企業というのは、営業をはじめとするフロントの者と、総務などのバックの者の間に差やわだかまりがない企業なのですが、実際にはなかなか実現できないケースが多いのが現状だと思います。
営業が前線で利益を生み出し、総務はバックで事務作業を行い、両者は互いにどことなく排他的で……そのような企業が多いのではないでしょうか。シェア会議室を通じて総務部の担当者が自ら利益を生み出すことによって、営業と総務の間の距離感が少し縮まり、社内の一体感が増すのではないでしょうか。
営業の人たちは、自ら利益を上げるようになった総務の人たちに対して一目置くようになり、総務の人たちも自身が利益を生み出すという経験を通じて、営業の人たちの大変さを理解できるようになる-こうった相互理解を促進する上で、シェア会議室の取り組みは非常に有意義であったと感じています。事実、鈴木は社長賞を獲得し、社内でも注目株になっています。営業の人たちも驚いているのではないでしょうか(笑)
さらにシェア会議室を通じて、今までは誰も注目していなかった会議室関連のコスト感も明確になってくると思います。この場所に、この広さの会議室を持つことのコストはどれくらいなのか? 会議1時間当たりどれくらいのコストが発生しているのか?といった事柄は、今まであまり注目されていなかったのではないでしょうか。会議室にはお金を生み出すポテンシャルがあるということを改めて実感することで、社員の意識も高まるというメリットも挙げられると思います。
-総務が、日々通常業務に追われる中、さらに「シェア会議室」の業務を行うというのは厳しいと思うのですが、実際どうでしょうか?
鈴木
私の場合、一日でシェア会議室の業務に割く時間は多くても30分程度で、業務が増えたという感覚はありません。具体的な内容としては、予約画面の確認、看板の設置や会議室の整理などを行っています。業務が増えて負担になった、というよりはルーティーンの一環といった感覚です。また、実際の利用者の方々が気持ちよく利用できるような工夫を積極的に考え、その結果ご満足いただき再度シェア会議室を使っていただけると、非常にやりがいを感じます。
-会議室を気持ちよく利用してもらうための基本的な業務内容としては、社内利用であれ社外利用であれ、あまり違いはないということでしょうか。
鈴木
その通りです。ただ、シェア会議室の導入により、外部の方に会議室を貸し出すということで、社内の会議室に対する意識も変わり、社員が利用後の会議室の片付けなどを率先してやってくれるようになりました。社内の人たちの意識にも変化が芽生えているのだと思います。
編集後記
オフィスや会議室の稼働率に改善の余地が多く残されている中で、今回は「シェア会議室」に注目し、紹介しました。シェア会議室を通して、総務部が売上を上げて社内の雰囲気作りに貢献する、株式会社ハッチ・ワークの新しい働き方を伺うことができました。
総務が従来とは違った形で売上を生み出し、活用可能な自社リソースを有効活用してコストを削減するアプローチとして、シェア会議室という方法に目を向けてみてはいかがでしょうか。新しい総務のあり方、「戦略総務」へ一歩近付けるかもしれません。