賃金制度の一つとして、一年単位で決定した賃金額を月割りで支払う「年俸制」があります。年俸制では、一年間で支払われる賃金額はあらかじめ決まっていますが、この場合でも法定労働時間を超えて勤務させた場合は割増賃金の支払いが必要であるほか、割増賃金の算定基礎額が通常と異なるなど、年俸制の導入には注意すべきポイントがあります。
今回は、年俸制の性質や、年俸制を導入するにあたっての注意点について解説します。
目次
年俸制とは
年俸制は、社内での役割や成果、業績の評価などから一年単位で賃金の額を決定し、通年で定められた賃金を支払うといった賃金制度の一つです。
年俸制の場合、一年間で支払われる賃金の額はあらかじめ決まっていますが、労働基準法の規定により賃金は月に一回以上、所定期日に支払うことが義務付けられていることから、年俸制だからといって年に一度だけ賃金が支払われるわけではありません。
年俸制を導入している企業の多くは、年俸を12、14、16のいずれかに分割して月ごとに支払いをしています。年俸を14分割する企業では年に二回14分の1ずつを、年俸を16分割する企業では年に二回16分の2ずつを賞与として支給することが多くなっています。
年俸制を導入するにあたっての注意点
制度の導入について労働者と話し合いを行うこと
年俸制は賃金に関する制度であり、労動契約の中でも特に重要な事項の一つであることから、企業が一方的に導入すべきものではありません。制度の導入にあたっては労働者と話し合いを行い、対象となる労働者の同意を得たうえで導入することが望ましいといえます。
就業規則の変更により年俸制を導入する場合は、労働組合からの意見聴取など労動基準法に則った手順を踏んで就業規則を変更し、制度を導入することが必要です。
公正な人事評価を行うこと
年俸制の場合、前年度の業績評価等に基づき、上司と労働者の話し合いにより年俸の額が定まることが一般的です。このように、年俸制には成果主義的な側面があることから、年俸制を導入するに場合には、公正な人事評価を行うことが欠かせません。
人事評価制度の構築・運用方法については、下記のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
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年俸制を運用するにあたっての注意点
年俸制でも割増賃金の支払いが必要であること
年俸制の場合も労働基準法の規定が適用されることから、法定労動時間(1日8時間、1週40時間)を超える時間外労働や休日労働が発生した場合は、年俸とは別に割増賃金を支払うことが必要です。
一方、労働基準法の規定により、以下の場合は時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払う必要がありません。
- 労働時間の規制が除外されている管理監督者又は機密事務取扱者の場合
- みなし労働時間制の適用を受ける労働者の年俸が、みなし労働時間に応じて設定されている場合
年俸制は、労動時間とそれに応じた賃金という制度となじまないものであることから、年俸制を導入する場合は、上記に該当する労働者を対象とすることが適切だと考えられます。
割増賃金の算定基礎額
年俸制の場合、割増賃金の算定基礎額にも注意が必要です。
労働基準法施行規則では、割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金として「臨時に支払われた賃金」や「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」を挙げていますが、年俸制において賞与として支払われる賃金はこれらに該当しないとされています。
したがって、年俸制の場合は賞与の部分も含めて割増賃金の算定基礎とされることから、年俸制の割増賃金は他の賃金形態と比較して高くなる傾向にあります。
欠勤時の取扱い
労働者の欠勤、遅刻、早退について、その部分の賃金を支払わないと当事者間で取り決めた場合は、年俸制であってもこれを支払う必要はありません。
この場合の控除額の計算方法について、賞与分を含めた年俸額で算定するかどうかは当事者間の取り決めによるため、就業規則にあらかじめ定めておくことが必要です。
退職時の取扱い
年俸制を適用されている労働者が契約期間の途中で退職する場合、退職月の月例給与は日割りによって計算されます。年俸制だからといっても、特別な約定がない限りは、退職後の月例給与に対する退職労働者の賃金請求権はないと解されます。
まとめ
年俸制を導入するにあたっては、対象となる労働者の同意を得るとともに、様々なことを取り決めることが重要です。また、年俸制の場合であっても割増賃金の支払いが必要であるなど、気をつけるべきポイントがあります。
年俸制の性質をきちんと理解し、適切な運用を心がけることが大切だといえます。