厚生労働省では、人事評価制度や処遇制度、研修制度といった雇用管理制度の導入等を通じて従業員の離職率の低下に取り組む企業に対して助成する「職場定着支援助成金」を設けています。
企業には、職場定着支援助成金を活用することで、従業員の定着率向上や人材確保を図り、魅力ある職場づくりにつなげることが期待されます。
今回は、職場定着支援助成金の概要や、助成対象となる雇用管理制度の要件、助成金受給の手続きについて解説します。
目次
職場定着支援助成金とは
職場定着支援助成金は、雇用管理制度の導入等を通じて雇用管理改善を行い、従業員の離職率の低下に取り組む企業に対して支給される助成金であり、企業の雇用管理改善を推進し、人材の定着・確保を図ることや、魅力ある職場を創出することを目的としています。
職場定着支援助成金には数種類のコースがありますが、今回紹介する「雇用管理制度助成コース」では、企業が新たに雇用管理制度の導入・実施を行った場合に「制度導入助成」として1制度につき10万円が、雇用管理制度の適切な運用を経て従業員の離職率の低下が図られた場合に「目標達成助成」として57万円が支給されます。さらに、取組によって生産性が向上した場合は、目標達成助成が72万円に割増されます。
職場定着支援助成金の対象となる雇用管理制度
職場定着支援助成金の対象となる雇用管理制度は、「評価・処遇制度」、「研修制度」、「健康づくり制度」、「メンター制度」、「短時間正社員制度」の5つです(短時間正社員制度は保育事業主のみ対象)。
いずれの制度においても、制度について労働協約または就業規則に明示することと、後述する「雇用管理制度整備計画期間」の期間内に退職が予定されている者のみを対象とするものでないことが必要です。
評価・処遇制度
評価・処遇制度には、人事評価制度や昇進・昇格の基準、退職金制度や賞与を含めた賃金制度、通勤手当や住居手当などの各手当制度などが含まれます。下記の要件を満たす評価・処遇制度を新たに導入する場合、助成金の支給対象となります。
- 導入した評価・処遇制度の対象となる労働者全員の賃金の合計額が低下していないこと
- 諸手当制度を導入する場合、基本給を減額するものでないこと
- 既存の手当を廃止して新たな手当を設ける場合、新設する手当の支給総額が、廃止する手当の支給総額よりも増加していること
- 退職金制度を導入する場合、退職する労働者に対して、在職年数等に応じて支給される退職金を積み立てるための制度であって、積立金や掛金等の費用を全額事業主が負担するものであること
人事評価制度の構築・運用方法については、下記のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
・関連記事:【人材育成を目指す人事担当者必見!】人事評価制度 構築・運用マニュアル
研修制度
研修制度には、新入社員研修や管理職研修、幹部職員研修などが含まれます。下記の要件を満たす教育訓練制度、研修制度を新たに導入する場合、助成金の支給対象となります。
- 職務の遂行に必要な知識、スキル、能力の付与を目的にカリキュラム内容、時間等を定めた教育訓練・研修制度であること
- 生産ラインまたは就労の場における通常の生産活動と区別して業務の遂行の過程外で行われる教育訓練(Off-JT)等であること
- 1人につき10時間以上の教育訓練であり、教育訓練の時間のうち3分の2以上が労働関係法令等により実施が義務づけられていないものであること
- 教育訓練等の時間内における賃金の他、受講料や交通費等の諸経費を要する場合、全額事業主が負担するものであること
- 教育訓練等の期間中の賃金が通常の労働時の賃金から減額されず支払われていること
- 教育訓練等が所定労働時間外または休日等に行われる場合、割増賃金が支払われていること
健康づくり制度
健康づくり制度は、人間ドックや生活習慣病予防検診、腰痛健康診断が対象となります。下記の要件を満たす健康づくり制度を新たに導入する場合、助成金の支給対象となります。
- 医療機関への受診等により費用を要する場合、費用の半額以上を事業主が負担していること
- 事業主が診断結果・所見等の必要な情報の提供を受けて、その状況に対応した必要な配慮を行うことを目的としたものであること
メンター制度
下記の要件を満たすメンター制度を新たに導入する場合、助成金の支給対象となります。
- 通常の労働者に対するキャリア形成上の課題および職場における問題の解決を支援するためのメンタリングの措置であること
- 会社や配属部署における直属上司とは別に、指導・相談役となる先輩(メンター)が後輩(メンティ)をサポートする制度であること
- メンターに対し、民間団体等が実施するメンター研修、メンター養成講座等のメンタリングに関する知識、コーチングやカウンセリング等のスキルの習得を目的とする講習を受講させること
- 講習を受講する際のメンターの賃金、受講料、交通費を要する場合、全額事業主が負担しているものであること
- メンター、メンティによる面談方式のメンタリングを実施すること
- メンター、メンティに対し、メンター制度に関する事前説明を行うこと
短時間正社員制度(保育事業主のみ)
保育事業主が新たな短時間正社員制度を導入する場合、助成金の支給対象となります。短時間正社員は、所定労働時間が同一の事業主に雇用されるフルタイムの正規の従業員の所定労働時間に比べて短く、かつ、以下のいずれかに該当することが必要です。
- フルタイムの正規の従業員の1日の所定労働時間が7時間以上の場合、1日の所定労働時間が1時間以上短い労働者
- フルタイムの正規の従業員の1週当たりの所定労働時間が35時間以上の場合、1週当たりの所定労働時間が1割以上短い労働者
- フルタイムの正規の従業員の1週当たりの所定労働日数が5日以上の場合、1週当たりの所定労働日数が1日以上短い労働者
・関連記事:短時間正社員制度を導入して、多様な働き方を実現しましょう!
職場定着支援助成金の受給手続き
雇用管理制度整備計画の作成・提出(計画開始日の6ヶ月前~1ヶ月前の日の前日まで)
まず、助成対象となる5つの雇用管理制度の中から自社で導入する制度を決定します。導入する制度を決定したら、その雇用管理制度の導入を内容とする「雇用管理制度整備計画」を作成し、管轄の労働局に提出して認定を受けます。
雇用管理制度整備計画は、計画開始日(最初に雇用管理制度を導入する月の初日)の1ヶ月前の日の前日までに提出することが必要ですので、注意するようにしましょう。
雇用管理制度の導入
認定を受けた雇用管理制度整備計画に基づいて、雇用管理制度を導入します。このとき、制度の導入について労働協約または就業規則に明文化することが必要です。
就業規則の作成方法については、下記のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
・関連記事:【資料ダウンロード可】就業規則の作成方法を解説!
雇用管理制度の実施
雇用管理制度整備計画に基づいて、計画期間(3ヶ月以上1年以内)内に雇用管理制度を実施します。雇用管理制度は計画どおりに実施することが必要であり、計画にある雇用管理制度の一部またはすべてが実施されなかった場合や、計画において対象となっている労働者の一部や全員に雇用管理制度が実施されなかった場合、原則として助成金の支給対象とならないため注意が必要です。
制度導入助成の支給申請(計画期間終了後2ヶ月以内)
計画期間の終了後2ヶ月以内に、制度導入助成支給申請書を管轄の労働局に提出します。
目標達成助成の支給申請(算定期間終了後2ヶ月以内)
雇用管理制度整備計画期間の末日の翌日から起算して12ヶ月経過する日までの期間(算定期間)の離職率を「評価時離職率」として計算し、評価時離職率が目標値以上に低下している場合、目標達成助成が受けられます。さらに、生産性要件を満たしている場合には、助成金が増額します。
目標達成助成を受ける場合、算定期間終了後2ヶ月以内に支給申請を行うことが必要です。
離職率の目標値
評価時離職率が、雇用管理制度整備計画を提出する以前1年間の離職率(計画時離職率)より目標値以上に低下していることが、目標達成助成を受けるための要件となります。
低下させる離職率の目標値は、対象事業所における雇用保険一般被保険者の人数規模に応じて、以下のように異なります。
人数規模 | 1~9人 | 10~29人 | 30~99人 | 100~299人 | 300人以上 |
目標値 | 15% ポイント | 10% ポイント | 7% ポイント | 5% ポイント | 3% ポイント |
生産性要件
助成金の支給申請等を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年前に比べて6%以上伸びていた場合、目標達成助成の助成金が増額します。
生産性は、以下の式で計算されます。厚生労働省のホームページからダウンロードできる「生産性要件算定シート」を利用することで、簡単に生産性を算定することができます。
- 生産性=営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃貸料+租税公課 / 雇用保険被保険者数
なお、生産性要件の算定の対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないことも必要ですので注意しましょう。
助成金の支給
助成金の支給申請が通ると、助成金が支給されます。制度導入助成は各制度10万円、目標達成助成は57万円(生産性要件を満たした場合は72万円)です。
まとめ
人事評価制度や研修制度などの雇用管理制度の導入は、従業員の定着率向上や人材確保につながります。職場定着支援助成金を活用することで、雇用管理制度を導入する場合に助成金を受給することができるので、ぜひこの助成金を活用し、魅力ある職場づくりを進めていくことが望まれます。