2017年3月末、政府の働き方改革実現会議が「働き方改革実行計画」をとりまとめました。政府は今後、法改正等を含め本計画に沿って働き方改革を強力に推し進めていく方針であり、企業にも対応が求められます。
今回は、働き方改革実行計画の中から「同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」に関する内容を紹介するとともに、同一労働同一賃金の実現のために企業が取り組むべき事項について解説します。
目次
「働き方改革実行計画」の概要(同一労働同一賃金)
同一労働同一賃金の基本的な考え方
現在、日本の非正規雇用労働者は全雇用者の4割を占めていますが、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に不合理な待遇差が存在することが課題となっています。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消し、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられるようにするため、「同一労働同一賃金」の実現が求められています。
「同一労動同一賃金」とは、性別や雇用形態等に関わらず、同じ仕事に従事する労働者に対して同じ水準の賃金を支払うべきだという考え方であり、同一労動同一賃金を導入することで、労働者がその仕事ぶりや能力を適正に評価され、意欲をもって働けるようになることが目指されています。
日本では、賃金制度の決まり方において様々な要素が組み合わされている場合も多いことから、同一労働同一賃金の実現のためには、まず、各企業において労働者の職務・能力の明確化やその職務・能力と賃金等の待遇との関係を含めた処遇体系について労使の話し合いにより確認し、非正規雇用労働者を含む労使で共有することが重要とされています。
同一労働同一賃金ガイドライン案
同一労働同一賃金を実現するためには、何が不合理な待遇差なのかについて具体的に定めることが重要です。そこで政府は、働き方改革実行計画の策定に先がけ、「同一労働同一賃金ガイドライン案」を策定しました。
「同一労働同一賃金ガイドライン案」では、雇用形態に関わらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金を実現するため、企業に対して下記の事項について求めています。
①基本給の均等・均衡待遇の確保
- 基本給について、労働者の職務や職業能力、勤続年数などの実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた賃金の支給をすること
②各種手当の均等・均衡待遇の確保
- ボーナスや役職手当、通勤手当といった各種手当について、労働者の勤務等の実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給をすること
③福利厚生や教育訓練の均等・均衡待遇の確保
- 食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用や慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障について、同一の利用・付与をすること
- 教育訓練について、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施をすること
④派遣労働者の取扱
- 派遣元事業者は派遣労働者に対し、派遣先の労働者と職務実態が同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をすること
・関連記事:正社員と非正規社員の待遇差改善へ!「同一労働同一賃金ガイドライン」とは?
同一労働同一賃金実現のための法整備
同一労働同一賃金ガイドラインの実効性を担保するためには、労働者が司法判断で救済を受けられるようにすることが必要です。その根拠を整備するため、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法について、下記のとおり改正が図られることとされています。
労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備
現行制度上、有期雇用労働者については均等待遇(同じ働き方をしている場合、労働条件や賃金などの処遇面を差別しないこと)の規制がありません。また、派遣労働者については、均等待遇だけでなく、均衡待遇(働き方が異なることを前提にし、その違いの中でバランスのとれた処遇を決定すること)についても規制がありません。
このため、有期雇用労働者や派遣労働者について、均等待遇や均衡待遇を求める法改正が行われることとされています。
さらに、パートタイム労働者を含めて、均衡待遇の規定について明確化が図られることとされています。
労働者に対する待遇に関する説明の義務化
現行制度上、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者のいずれに対しても、正規雇用労働者との待遇差に関する説明義務が企業に課されていません。また、有期契約労働者に対しては、待遇に関する説明義務自体が企業に課されていません。
このため、法改正により、企業は有期雇用労働者の雇入れ時に、その労働者に適用される待遇の内容等についての説明義務が課されることとされています。
また、雇入れ後に、企業は、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣雇用労働者の求めに応じて、比較対象となる労働者との待遇差の理由等についての説明義務が課されることとされています。
行政による裁判外紛争解決手続の整備
不合理な待遇差の是正について裁判で争えることを保障する法整備をしたとしても、労働者が実際に裁判に訴えるとすると、経済的負担を伴います。このため、裁判外紛争解決手段(行政ADR)を整備し、均等・均衡待遇を求める当事者が身近に、無料で利用できるようにすることとされています。
派遣労働者に関する法整備
派遣元事業者は、派遣先労働者の賃金水準等の情報がなければ、派遣労働者の派遣先労働者との均等・均衡待遇の確保義務を履行できません。このため、派遣先事業者に対し、派遣先労働者の賃金等の待遇に関する情報を派遣元事業者に提供する義務などの規定が整備されることとされています。
なお、これらの法改正は企業活動に与える影響が大きいことから、十分な準備期間を確保したうえで施行されることとなっています。
同一労動同一賃金の実現のため、企業が取り組むべき事項
非正規雇用労働者の待遇改善
同一労働同一賃金の実現のためには、処遇制度の正規・非正規共通化など、非正規雇用労働者の待遇改善を図ることが必要です。また、不本意ながらも非正規雇用として働いている「不本意非正規雇用労働者」の正社員化も求められます。
厚生労働省では、非正規雇用労働者の待遇改善や正社員化に取り組む企業に対して費用を助成する「キャリアアップ助成金」を設けていますので、これらの制度を活用しながら、非正規雇用労働者の待遇改善に取り組んでいくようにしましょう。
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・関連記事:非正規雇用労働者の雇用対策を推進!「正社員転換・待遇改善実現プラン」とは?
公正な人事評価制度の構築
また、同一労働同一賃金を実現するためには、公正な人事評価制度を構築したうえで、評価結果に基づいて賃金等の処遇を適正に決定していくことが大切だといえます。
人事評価制度の構築や運用方法については、下記のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
・関連記事:【人材育成を目指す人事担当者必見!】人事評価制度 構築・運用マニュアル
まとめ
働き方改革実行計画の内容が企業に与える影響は非常に大きいことから、計画の内容や企業が目指すべき方向性についてしっかりと把握したうえで、今のうちから対策を講じておくことが重要です。
働き方改革実行計画のその他の内容については下記の記事で解説していますので、こちらも併せて確認しておくようにしましょう。