先日、あるコンビニエンスストアが体調不良で欠勤した従業員に対して違法な減給を行っていたことが社会的に大きな問題となりました。
企業が減給等の懲戒処分を行う場合、就業規則に規定することや適正な手続きで行うことなど一定の要件を満たすことが必要であり、要件を満たさない懲戒処分は無効となります。
今回は、懲戒処分に関する法的規制や、懲戒処分を行うにあたって必要な手続きについて解説します。
目次
懲戒処分とは
懲戒処分とは、従業員の企業秩序違反行為に対して使用者が制裁として課す罰のことをいい、けん責や減給、懲戒解雇等といった種類があります。
懲戒処分は、企業の秩序を維持し、事業活動を円滑に行っていくためには欠かせないものだといえます。しかし、懲戒処分は無制限に行ってよいものではなく、様々な法的規制が存在します。また、適正な手続きを経ずに懲戒処分を行った場合なども、その懲戒処分は無効とされる可能性があります。
懲戒処分を有効に行うためには、懲戒処分に関する法的規制をしっかりと把握したうえで、適正な手続きを踏んで処分を行うことが必要です。
懲戒処分の種類
懲戒処分の種類には様々なものがあり、公序良俗に反しない範囲において企業で独自に定めることも可能です。厚生労働省のモデル就業規則では下記の4種類について規定しており、これらは一般的に定められることが多いものだといえます。
けん責
けん責とは、従業員に始末書を提出させ、将来を戒める処分のことをいいます。懲戒処分の中では、軽微な処分であるということができます。
減給
減給とは、賃金を減額する処分のことをいいます。労働基準法では、減給について下記のとおり制限を設けており、この範囲を超えて減給処分を行うことは違法とされます。
労働基準法による減給の制限
- 1回の減給額が、平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
- 減給総額が、一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない
出勤停止
出勤停止とは、一定の期間、労働者に出勤させないことをいいます。出勤停止の期間中は、ノーワーク・ノーペイの考え方により、賃金を支払わないことが一般的です。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、懲戒として従業員を解雇する処分のことをいい、懲戒処分の中で最も重い処分だということができます。懲戒解雇は通常の解雇とは異なり、労働基準監督署長の認定を受けることで、予告期間を設けることなく即時に解雇することができます。
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懲戒処分に関する法的規制
労動契約法では、懲戒について次のとおり定めています。
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。 |
懲戒処分が法的に有効とされるためには、以下の要件のすべてを満たすことが必要です。
就業規則に根拠規定があること
懲戒処分を行うためには、就業規則で懲戒処分についてあらかじめ定めておかなければなりません。就業規則では、懲戒の対象となる事由(懲戒事由)と懲戒処分の種別(種類)を規定しておくことが必要であり、懲戒事由として定めていない行為に対して懲戒処分を行うことはできません。
懲戒事由となりうる行為には様々なものがありますが、一般的なものとして、下記のような事由が挙げられます。たとえ職場外における私生活上の行為であっても、企業の秩序を乱すような場合は懲戒事由となりえることに留意が必要です。
懲戒事由となりうる行為の例
- 上司等からの業務上の指揮命令に従わないこと
- 無断で職場を離脱すること
- 機密情報を漏洩すること
- 無許可で会社施設を利用すること
- 会社の施設や備品を破壊すること
- 届出なく遅刻や欠勤をすること
- 重要な経歴を詐称すること
- 自ら事業を営んだり兼業をしたりすること
- 会社を誹謗・中傷すること
- 会社の信用や名誉を傷つけること
懲戒処分に客観的合理性があること
懲戒処分を行うためには、懲戒処分に客観的合理性があることも必要です。すなわち、懲戒処分の対象とされる行為が、就業規則に定める懲戒事由に該当している必要があります。
なお、就業規則の懲戒事由の規定が抽象的なものである場合、従業員の行為が懲戒事由に該当しないと判断されてしまう可能性があります。この場合、懲戒処分を行うことができなくなってしまうため、就業規則では懲戒事由を具体的に定めておくことが重要です。
また、就業規則で定められた懲戒事由に該当する場合でも、企業秩序を乱すおそれがないと判断される場合は、その行為に対して懲戒処分を行うことはできないとされます。
懲戒処分が社会通念上相当であること
さらに、懲戒処分を行うにあたっては、懲戒処分が社会的相当性を有することも必要です。社会的相当性の判断基準の1つとして、その処分が重すぎないかどうかという点が挙げられます。行為の内容に対して罰が重すぎる場合や、過去の類似の例と比較して処分が重すぎる場合などは、社会的相当性を欠くと判断されて無効となる可能性があります。
もう1つの判断基準としては、適正な手続きに則って処分が下されているかという点が挙げられます。例えば、従業員に弁明の機会を与えることなく一方的に処分を下した場合などは、社会的相当性を欠くと判断されて無効となる可能性があります。
懲戒処分を行うにあたって必要な手続き
懲戒処分を有効に行うためには、懲戒処分に関する法的規制を守るとともに、適正な手続きにより処分を行うことが必要です。具体的には、以下のような手続きが必要となります。
就業規則への規定
まず、就業規則で懲戒処分についてあらかじめ規定しておくことが必要です。また、定めた就業規則は、従業員に対してきちんと周知しなければなりません。
就業規則の作成方法については、下記のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
事実の確認
懲戒処分を行うにあたっては、処分の対象となる従業員の行為について、正確に事実を把握することが必要です。従業員本人や関係者に対する聞き取り調査を行うことなどにより、事実関係をきちんと確認するようにしましょう。
弁明機会の付与
懲戒処分を行う前に、当該従業員に対して弁明の機会を与えることも必要です。弁明の機会を与えずに処分を行った場合、社会的相当性に欠くと判断されて懲戒処分が無効となる可能性があることから、弁明の機会は必ず与えるようにしましょう。
公平な処分
懲戒処分を行う場合は、公平な処分を行うことが必要です。不公平な懲戒処分を行った場合、社会的相当性に欠くと判断されて懲戒処分が無効となる可能性があります。社内の他の従業員の行為や、過去の類似事例で行われた懲戒処分の内容等を踏まえ、不公平な処分にならないよう注意しましょう。
懲戒委員会への付議・労働組合との協議等
企業によっては、就業規則や労働協約などにより、懲戒処分を行う場合の手続きが規定されていることがあります。懲戒処分を行うにあたり必要な手続きとして懲戒委員会への付議や労働組合との協議等が定められている場合、この手続きを踏まずに行った懲戒処分は無効となる可能性があります。自社における懲戒処分の手続き規定について確認したうえで、必要な手続きを踏んで懲戒処分を行うことが欠かせません。
まとめ
懲戒処分を行うにあたっては、必要な要件を満たすとともに、適正な手続きで行うことが重要です。認識不足による違法な懲戒処分を行ってしまうことのないよう、懲戒処分に関する法的規制や必要な手続きについて、しっかりと理解しておくようにしましょう。